7 それ、他言無用ね
ちょっと閑話的なお話です。
「あら。お疲れさまです、シオンさん。ザイダルさんも」
「ただいま戻りました、メリルさん」
「おう、メリル。倉庫は開いてるか? 獲れた奴らを搬入したい」
「あ、ちょうどジェラルドさんがいますよ。灰魔狼の解体をしてるはずです。どうぞどうぞ」
「わかった。シオン、あと頼むな」
「はい」
軽い目配せで臨時パーティは解消。でも、傍目に息はぴったりだった。
◆◇◆
大柄な熊男は、外見からはちょっと想像の付きにくい俊敏な足運びでギルドホールを出ていった。言葉通り、解体用倉庫へ向かうのだろう。
シオンは腰のポーチから小冊子を取り出し、カウンター越しに肘を付いて白兎獣人のメリルへと差し出した。
「職員シオン、帰参報告です。ソロのザイダルに付き添いました。一角大兎一体、コカトリス二体。計三体討伐完了。支払いは規定通りに認可かと。あと、大地王蛇も一体。クエストは、何か出てましたっけ?」
「わあ、相変わらず豪勢ですね〜。えっと……あ、ありました。商人連盟から依頼が出てますね。まだ貼り出す前なのに、凄い。もう倒しちゃったんですか」
「うーん。たまたま、近くを通ったら襲われてたひとがいて」
「あ、あのかたですか?」
「そう」
メリルがこしょこしょと声を抑え、目線でロビーに佇むジョアンを指し示す。ひょこん、と長い耳も垂れるのが可愛らしく、シオンはにっこりした。
メリルは、ははぁ……と意味深な笑みを浮かべる。
「美人さんですね」
「そうだね」
「シオンさんは、あんな感じのかたがお好みですか?」
「んー? さあ。好みはさておき、綺麗だなぁって。そういうもんじゃない?」
「まあ、そうですけど」
メリルはすごすごとカウンターの内側に上体を戻した。どことなく悔しそうにも見えるのはなぜなのか……。
シオンは、自身が女でありながらも(乙女心ってわかんないな)などと内心首をひねった。
――なるべく『男』として無難な返事を心がけたはずだが。
手続きを終え、解体依頼の分も差し引いた報酬を受け取った一行がギルドを去ったあと。
身を清めてさっぱりとしたジェラルドが茶を飲みに来たところ、メリルは悩ましい顔で疑問点をぶちまけた。
「ねえねえ、支所長。ザイダルさんってシオンさんのことお好きなんですよね? 大丈夫なんですか? 今日、早退したシオンさんったら、絶世の美女を連れてたんです。いかにも初対面風でしたけど、違うと思う……。同郷のかたかしら。ひょっとして恋人? 婚約者とか?? きゃあ!」
「っ、おいおい。何だそりゃ」
一瞬真顔で茶を吹きそうになったジェラルドは耐えた。鋼鉄の意志で、それを乗り越えた。
かつ、歳の離れた親友を自認するザイダルを援護すべきか、本当は女性であるシオンを擁護すべきか、非常に頭を悩ませた。
――結論は出なかったので、ここは適当に流すことにしたのだが。
「ふっ。あり得ねえー。なにそれ、笑える」
「もうぅ、真剣に聞いてくださいよ! シオンさんはともかく、その女性がべったべたで。どうしましょう、私。影ながらお二人のこと応援してたのに」
「………………わぁお」
応援。
つまり、それは男性同士と認識するザイダルとシオンの二人を、である。
遠い目になったジェラルドは心で親友に詫びた。この場で彼がノーマルだと力説してやれない自分を不甲斐なく感じながら。
「あのさぁメリル」
「はい?」
ぽん、と、白兎獣人の華奢な肩を叩く。
それ以上は言ってくれるな、との願いを込めて切々と訴えた。残念ながら、彼のためにできる精一杯だった。
「それ、他言無用ね」
「!! わかりました……!」
きらきらとメリルの赤い瞳が輝く。
流出はしなくとも、彼女のなかでは確実に推しカップリングが決定した瞬間だった。
ザイダル「なんか背中がむずむずする」
シオン「風邪ですかね……?」
〜つづく〜