表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/56

5 わたくしの本名は

 ――さまざまな規約はあるものの、ギルドに登録しているソロハンターは、料金さえ支払えばギルド職員を臨時パーティとして借り受けられる。

 利点は窓口での庶務を大幅に省けること。また、よほど危なくなれば助けてもらえる(※かもしれない)こと。


 この制度を利用したザイダルは、たびたびシオンをギルドから連れ出していた。当初、コリスからはぴりりと釘を刺されたが。


『そうですか。姑息ですが、まぁいいでしょう』

『……おう』


 ザイダルは、それを遠回しな激励と受け取った。


 かなりの時間を生きてきたコリスが自分に対して尊大なのはいつものことだし、何のかんの言って応援してくれるのはありがたい。 

 さいわい、彼女が男装なおかげでライバルはあまりいない。その分アプローチの仕方は限られるが、当面はシオンの超絶硬い金属(アダマント)ばりの鈍感さが最大の敵だと信じていた。


 ……信じて、いたのだが。




 ザイダルは気を取り直し、大蛇の魔物の亡骸をずるずると引きずりながら、目の前で抱き合う女性たちに話しかけた。


「で? 紹介してくれるかシオン。どういう知り合いなんだ、その別嬪さんは」

「あっ! ザイダル! ええと、そうですね。彼女は」


 シオンは心持ちうれしそうに顔を綻ばせ、自分にしがみつく女性をべりっと引き剥がした。

 すると、美女はシオンからの紹介を待つことなく優雅な一礼をして見せた。


「初めまして、ザイダル様。先ほどは危ないところを助けていただきましたのに、お話の途中で急に駆け出して申し訳ありませんでしたわ。わたくしは、(リュウ)如杏(ジョアン)。セイカから参りました。ジョアンとお呼びくださいませ」

「…………『如杏』? ちょ、待て。そんなの俺だって知ってる。青霞(セイカ)の公主の名前じゃねえか。めっぽう強い聖女だって噂の。シオン、確かか?」

「はい、もちろん。彼女は柳家のお嬢さんですよ。手紙のやり取りもしていました」


 はきはきと受け答えするシオンには、何ら思うところは見当たらない。

 が、ジョアンは唇をもぞもぞとさせ始めた。やがて堪えきれなくなったように体を折り、盛大に吹き出してしまう。

 シオンは、ぎょっと旧知の女性を眺めた。


「??? ジョアン、どう――」

「ふ、ふふふっ。ごめんなさいねシオン。だって、あなたったら相も変わらず凄〜〜ぅく、素直なんだもの。ついつい訂正しそびれちゃったわ。あのね、ザイダル様が正しいの」

「え?」


 けろりと笑いやんだ紫の目元に泣きぼくろ。

 一度見たら忘れられない美貌の主だ。ひとを食ったところもあるが、品位もあり。


 旅には不向きな天女のようなセイカ装束をまとうジョアンは、肩から下げた、領巾(ひれ)を口元に当て、にっこりと大輪の牡丹のようにほほえんだ。


「神殿で貴女の教育に横槍を出したときから、ずうっと嘘をついていてごめんなさい。……――わたくしの本名は、(シャ)如杏。あなたの生国の王の娘。つまり公主(こうしゅ)です」



 柳家は母方の実家なの、と、ごくごく悪びれずにジョアンは片目を瞑った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] プリンセスキターーー!!!!(大歓喜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ