5 わたくしの本名は
――さまざまな規約はあるものの、ギルドに登録しているソロハンターは、料金さえ支払えばギルド職員を臨時パーティとして借り受けられる。
利点は窓口での庶務を大幅に省けること。また、よほど危なくなれば助けてもらえる(※かもしれない)こと。
この制度を利用したザイダルは、たびたびシオンをギルドから連れ出していた。当初、コリスからはぴりりと釘を刺されたが。
『そうですか。姑息ですが、まぁいいでしょう』
『……おう』
ザイダルは、それを遠回しな激励と受け取った。
かなりの時間を生きてきたコリスが自分に対して尊大なのはいつものことだし、何のかんの言って応援してくれるのはありがたい。
さいわい、彼女が男装なおかげでライバルはあまりいない。その分アプローチの仕方は限られるが、当面はシオンの超絶硬い金属ばりの鈍感さが最大の敵だと信じていた。
……信じて、いたのだが。
ザイダルは気を取り直し、大蛇の魔物の亡骸をずるずると引きずりながら、目の前で抱き合う女性たちに話しかけた。
「で? 紹介してくれるかシオン。どういう知り合いなんだ、その別嬪さんは」
「あっ! ザイダル! ええと、そうですね。彼女は」
シオンは心持ちうれしそうに顔を綻ばせ、自分にしがみつく女性をべりっと引き剥がした。
すると、美女はシオンからの紹介を待つことなく優雅な一礼をして見せた。
「初めまして、ザイダル様。先ほどは危ないところを助けていただきましたのに、お話の途中で急に駆け出して申し訳ありませんでしたわ。わたくしは、柳如杏。セイカから参りました。ジョアンとお呼びくださいませ」
「…………『如杏』? ちょ、待て。そんなの俺だって知ってる。青霞の公主の名前じゃねえか。めっぽう強い聖女だって噂の。シオン、確かか?」
「はい、もちろん。彼女は柳家のお嬢さんですよ。手紙のやり取りもしていました」
はきはきと受け答えするシオンには、何ら思うところは見当たらない。
が、ジョアンは唇をもぞもぞとさせ始めた。やがて堪えきれなくなったように体を折り、盛大に吹き出してしまう。
シオンは、ぎょっと旧知の女性を眺めた。
「??? ジョアン、どう――」
「ふ、ふふふっ。ごめんなさいねシオン。だって、あなたったら相も変わらず凄〜〜ぅく、素直なんだもの。ついつい訂正しそびれちゃったわ。あのね、ザイダル様が正しいの」
「え?」
けろりと笑いやんだ紫の目元に泣きぼくろ。
一度見たら忘れられない美貌の主だ。ひとを食ったところもあるが、品位もあり。
旅には不向きな天女のようなセイカ装束をまとうジョアンは、肩から下げた、領巾を口元に当て、にっこりと大輪の牡丹のようにほほえんだ。
「神殿で貴女の教育に横槍を出したときから、ずうっと嘘をついていてごめんなさい。……――わたくしの本名は、社如杏。あなたの生国の王の娘。つまり公主です」
柳家は母方の実家なの、と、ごくごく悪びれずにジョアンは片目を瞑った。