6 雨宿りできてるのかしら(後)
こちらは、最初は先の「6 雨宿りできてるのかしら(前)」と同一部分でした。
長すぎたので分けて非公開にしたあと、改めて投稿しています。
(既読のかたに、平にお詫び申し上げます)
「やばいな。しばらく止みそうもない」
「そうですね、ザイダル」
ザーーーー……。
当の二人は若干雨に濡れてしまったが、ちょうど休憩に使おうと予定していた洞穴まで足を早め、無事に雨宿りできていた。
雨足の入らない奥のほうまで下がり、ゴロゴロと鳴る雲の音を聞く。
高い樹が生える場所は落雷の危険がある。正直いただけない。
ザイダルは不測の事態に慣れているのか、背中のリュックから敷物を取り出し、むき出しの地面に座れそうなスペースを作っていた。大人二人が並んで座っても狭くはなさそうだ。
「シオン。ブーツは大丈夫か? 火は熾すまでもなさそうだが、濡れてるもんはさっさと脱いだほうがいい。風邪引くぞ…………っとと、すまん。その、脱げそうなものなら」
「あ、はい」
このひと、またおれの性別を忘れてたな――と思うと、小気味よさに笑いがこみあげて、つい、ふっと口角をあげてしまった。それを複雑そうに眺める熊男に、さらににこにこと笑みを深める。
ザイダルは怪訝そうに顔をしかめた。
「楽しそうだな」
「いけませんか?」
「いや…………まあ、そうだな。確かに悪くない。こういうのは焦ってもしょうがないか。座るか?」
「ええ」
座ったついでに地図を広げ、持参のランタンに灯りを点す。残りの“知らせ石”の数と位置を確認していった。
石は、当然この洞窟にも置くとして、残るは三個。
それが済めば森を出て下流の橋を渡り、コリスの待つ館へ戻る予定だった。何ごともなければ。
ふとザイダルが眉をひそめた。
「シオン。質問なんだが」
「はい、何でしょう」
「……すでに設置した石に関しちゃ、もう知覚できるんだな? 魔物の接近を」
「できます」
自信を持って頷く。
あんまりしょっちゅう反応するのも疲れるので、石には『魔物限定で』と言い添えた。まず間違わないだろう。
しかし、いま。それを訊くということは。
シオンの表情も曇った。
「ここに来るまでに、何か見つけましたか」
「気のせいならいいと思ったんだが……一つ前だな。複数の足跡を見つけた。靴は履いてないが獣とも違う。樹の皮なんかも無差別に剥いであってな。ちょっと」
「――ゴブリン?」
「かもな」
伊達にシオンも旅暮らしはしていない。むしろ、こんな森に囲まれた非武装集落なら、奴らの格好の狩り場になってもおかしくなかった。
谷には魔物ハンターギルドもある。むざむざ蹂躙されるだけということはないだろうが。
(……初手に犠牲は付きものだし、それは絶対に避けたい。獣神さまがたの守護は南北の山肌から谷へかけてと言っていたから、森で痕跡を見つけたとなれば、ふつうにアウトだろ。困った。やっぱり、かなり弱って……)
「――!!」
「いたか?」
「はい。いますね。待って、“視て”みます。五、六……六体だ。武器は木の棒とか獣の骨。体格もちいさい。成体のみ。はぐれの平ですね、ゴブリンメイジもいなさそう。今のところは、ですが」
「…………」
「ザイダル? どうしました」
集中のために閉じていたまぶたを上げると、穴が開くほどこちらを眺めるザイダルと目があった。びっくりして尋ねる。
ザイダルは、ほえぇ、と妙な感嘆の息をもらした。
「いやあ……すごいな、法術士ってやつは。いろんなハンターと組んで討伐を請け負うことはあったが、あんたみたいのは初めてだ。参った」
「ど、どういたしまして」
掛け値なしの称賛に思わず赤面する。
その後は晴れたこともあり、二人、装備を確認して迎撃の準備につとめた。
知らせ石を介した遠視でわかった。
ゴブリンたちは、何より人間であるシオンを獲物と判じたらしい。真っ直ぐ洞窟へと向かう飢えた気配に、肌が粟立った。