2 なんだ。あいつ、言ってねぇの? (後)
現在、シオンが森のあちこちに置いている『知らせ石』は、文字通り魔物の接近をシオンだけに知らせてくれるもの。
つまり、ことばを媒介とする法術で、その辺のつるりとした小石にお願いごとをしただけ。
(……おれが谷に居る間しか機能しないし。獣神さまがたが力を取り戻すまでの暫定手段だけど)
ひとまずは、これでザイダルに約束した最低限の防衛ラインが築ける。
ふんふんと頷きながら再び歩む。
隣の虎獣人にとってはかなりの遅速のはずだが、のんびりと合わせてくれていた。
ふと、彼が獣人族の稀有な先祖返りであり、谷の外でそこそこ名を上げたハンターなのだと思い出す。
参考までに、ちょっと尋ねることにした。
「ね、ジェラルド。できれば女性限定で答えてほしい。『強い生命力』とか『並外れた潜在能力』をそなえたひとって、見分けられる? おれの性別を見抜いたみたいに」
「ああ、わかるぜ」
「!! 本当っ!?」
「うわっ」
「あ、ごめん、びっくりさせて」
急に立ち止まり、地図をくしゃっと握りつぶしながら聞いてしまったため、ジェラルドは若干身を反らせた。樹の根の上でよろめいたところを、とっさに手を捕らえる。
流石に重量が半端なかったが、本人の体幹がずば抜けて優れていたため、二人とも倒れたりはしなかった。
きょとん、と目を瞬いたジェラルドは、何事もなかったかのように口にした。
「えーと、何となくだけど。オレが見た中で一番強そうなのは、あんただな」
「おれは体裁的に男だから却下。ほかには?」
「ほか…………? ああ、それなら」
思案顔で天を仰ぎ、手を握られたままで記憶をさらう。すると。
「!!!! あーーーーっ!! 何してるの、ジェラルド! あれほどシオンさんに色目は使うなって」
「へ?」
「お、来た」
森にこだまするほどの大音声。少女らしく澄んだ声が届き、慌てて周囲を探す。
左手に頭より高い位置に段差があった。剥き出しの地層は白っぽく、比較的平らなので、岩盤なのかもしれない。
その上に、ぴょこんと尖った金色の犬耳とあざやかな濃い桃色の髪。脇に籠を抱えるコリスがいた。息が荒い。どうやら走ってきたらしい。
ジェラルドは動じず、目線一つで彼女を指し示した。
「あいつ。伊達に巫女サマの血筋じゃないよな。ときどき凄え“圧”がある。強いよ。長生きだし」
「長生き……?」
眉をひそめ、怪訝そうに問うと、虎男はにやりと笑った。
「なんだ。あいつ、言ってねぇの? ああ見えて歳は誰にもわかんねぇ。見た目は十六そこそこだけど、少なくともザイダルより年上だぜ」
コリス「あれほど……女性の年齢は口にするなと…………!!!」(ゴゴゴゴゴ)
〜次話へつづく〜




