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第1話 落ちこぼれ聖女

ある日、世界の中心にある天を貫く塔「天塔」が青白く輝いた――。


都市国家ライムストン王国。大聖堂には多くの人々が集まっている。人々が囲むのは数十人の聖女達だ。白地に金の刺繍が施された衣を纏い、祭壇の前にひざまづいて祈りを捧げている。祭壇に立つ司教が手を挙げると、聖女達祈りをやめて、立ち上がる。


「十日前、天塔が光を帯びた。実に50年ぶりだ。そしてこれは紛れもなく、主神エインフォートのお導き。混沌を極めるこの世に啓示をもたらしてくれておる。貴君ら聖女には、巡礼をして天塔に趣き、その啓示を受け取ってくる使命がある。是非、我が国から大聖女が出るよう、奮励してほしい」


「はい!」

聖女達が口を揃えてそう言うと、観衆から拍手が巻き起こる。


儀礼が終わり、聖女達は控え室に行く。堅苦しい礼服から着替えながら口々に会話する。


「巡礼嫌だなぁ。私達の代で天塔が光るなんて」

「本当よね。天塔が光らなければ、このまま聖女として気ままに暮らして、25歳になって聖女やめて金持ちと結婚できたのになぁ」

「でも、巡礼しなくちゃいけないし。"従者"はもう決まったの?」

「一応ね。ファロス家の剣士様よ」

「あら、いいじゃない。私はアルカード家の魔術師様」


「私は騎士団長のラファエル様よ」


そう堂々と控え室に入ってきたのは、名家ゴールドスタイン家の息女、エリザベートだ。ブロンドを靡かせ、自信に満ち溢れている。聖女達は皆一斉にエリザベートに駆け寄り褒め称える。


「あなた達も、少しは志を高く持ったらどうかしら? 大聖女になれば貴族どころか、国王と結婚できる可能性だってあるのよ? まぁ大聖女になるのは私ですけど」



「それはそうとして、論外の人が一人いますわね」


背中越しからそんな、ずっと黙って聞いてたアリエスはビクッと肩を震わせた。


「あなたよあなた。アリエス?」


アリエスはゆっくりと振り返ると、エリザベスに愛想笑いをした。


「あはは。私?」

「あなたしかいないでしょう? 未だに加護魔法の初歩すら使えない、落ちこぼれ聖女なんて」


他の聖女達も嘲笑を浮かべている。


「あなた、従者は決まったのかしら?」

「い、いえ。まだ……」

「あら。私は騎士団長ラファエル様よ。この国で一番強く、頭も良く、イケメンな殿方よ。いくら馬鹿なあなたでも知ってるわよね?」


「う、うん。ラファエル様か。す、すごいね」

「あなたは、従者はいるのかしら。まさか、まだ決まってないなんて言わないわよね?」


エリザベートわざとらしく、薄ら笑いながら言った。


「え、えーと。そのまさかだったり……」

「信じられないわ! もう明後日には巡礼が始まるのに、従者が決まってないなんて!」


満面の笑みで言うエリザベート。まぁ、もう慣れっこなのだが。家柄も学力も魔法も申し分ないエリザベートは、昔からこうだ。いつも誰かを嘲り笑い、貶める。


「まぁせいぜい早く辞退したほうが身のためね。それかそこら辺の野盗でも従者にしたらどうかしらぁ?」




その夜、父のゴドリックから呼び出されたアリエスは、父の部屋へと向かう。コンコンコンと部屋をノックするとゴドリックの声が聞こえる。


「入れ」

「失礼します」


娘と同じ銀髪のゴドリック。その横にはスラリと背の高い男が一人いた。


「ゼナイン様!」


アリエスは飛び跳ねたい気持ちを抑える。


「ご無沙汰しております、アリエス様」


ゼナインは丁寧にお辞儀をする。大魔道士ゼナイン。ライムストンなら誰もが知る魔法使い。アリエスは幼少期、ゼナインから勉学や魔法を教えてもらっていた。


「どうしてここに?」

「旧友の頼みですからね。断れませんよ」


そう言ってゼナインはゴドリックを見た。ゼナインはこう見えて齢60を超えている。だがその外見は20歳そこそこの青年にしか見えない。


「して、ゼナイン。例のことだが……」

「はい。手紙を拝見しています」

ゼナインは手紙をローブのポケットから取り出す。そこにはゴドリックの名前が書かれていた。


「実は兼ねてより私からゼナインに相談をしていてな。従者のことだよ」

「はい……」


アリエスは声を小さくしながゴドリックの横に腰掛ける。


「この子は、知っての通り出来が悪くてな。従者が付かんのだよ。従者側も聖女の従者となれば大出世の機会だ。普通は騎士や名のある武人からオファーがあるのだが……」


ゴドリックは大きなため息を吐いた。


「す、すみません。私が不出来なあまりに、従者を断られてしまうのです」

「いえ。アリエス様は謝る必要はありませんよ。努力しておられたのは私が見てきましたから。従者のことですが――」


ゼナインから柔かな笑みが消える。


「私はシリウスを提案します」


ゴドリックは飲んでいた酒を吹き出しそうになる。


「シ、シリウスだと? 本気かゼナイン。あの史上最悪の犯罪者シリウス・ウルフハートか!?」


――シリウス・ウルフハート。その名前はアリエスも聞いたことがある。有史以来最悪の犯罪者、権力者殺し、殺戮の黒狼とか言われているが、世界中で100人以上の貴族や富裕層の人間を殺した大量殺人犯で、7年前にこの国で逮捕されたという。


「えぇ。あのシリウスです」


ゼナインはふざけて言ってるのではない。彼はこんな時に冗談を言う人物ではない。


「聖女の巡礼は想像以上に過酷です。道中の危険、魔物はもちろんですが、身代金目当てや、聖女自体を目的とする輩も出てきます。実際40年前の巡礼では、天塔に着くまでに多くの聖女が命を落としています。それに、従者決闘があるのは当然ご存じでしょう?」


聖女の優劣を決めるため、従者同士で行われる闘いだ。


「この決闘に敗れた方は有無を言わず、巡礼から外れることになる。だから皆、名うての者を従者として採ろうとするのです」

「……つまり、強ければ強いほうが良いというわけか」


ゴドリックは手で顔を抑えて首を振る。


「その通りです。シリウスは、そこらの者とは比べ物にならないほど強い。世界中見てもあれ程強い人間はいない。相対した私がよく知っています」


「あっ! シリウスを捕まえたのって――」

歴史の本で読んだのを思い出した。シリウスを捕まえた世紀の魔道士。ゼナイン・オルヴァール。


「どうですか? 彼を条件付きで釈放し、アリエス様の従者とするのです」

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