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巻き戻り令嬢のやり直し~わたしは反省など致しません!~  作者: 柏木祥子
三章 魔術師の演出のもとにロマーニアス王国民並びにカルト教団によって演じられたエリザベート・デ・マルカイツの迫害と暗殺
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第87話 とても普通のことです。-8

「私に話……?」


 マリアはシャルル王子とベンチを挟んで立っていた。言葉は彼に向けられていたが、視線はクレアや、アイリーンなど、目まぐるしく動いている。自分を取り巻く環境を理解するためには、確かに相応しい”話”が必要になるだろう。


「なぜ私に? お嬢さまには隠しておくということですか?」


「ああ。今の時点でエリザベートに話すわけにはいかない。彼女には話さないで欲しい」


「私は彼女の騎士ですよ。隠し事をすべき立場じゃない」そこでマリアは、彼女が自分をどう評価するか判断するかのように、クレアへ視線をやった。「裏切れということですか?」


「いや、逆だ。どうか裏切らないで欲しい。彼女には君が――そう、君が――必要だから」


 シャルルはそう言い切ったが、ここでも言外にクレアに対する言及があったことは、間違いない。クレア・ハーストもまた、エリザベートには必要だとシャルルは考えている。マリアもだ。自分だけでどうにかできるとは思っていない。


「話が見えませんね」


 マリアが言う。これは半分、嘘だった。どうもエリザベートを嵌めようとか、そういう話でないらしいことは、わかっている。彼女のためにやろうとしている節すらあることもだ。


 だが、わからないこともある。マリアはその中でも最も気になる部分について質問する。


「まず、彼女は何故ここに? あなたがしようとしている話は――一部は想像がつきます。大方遺跡でのことと関係があるんでしょう――しかし、どうして彼女と一緒に? どう関係しているんです?」


 すると、シャルル王子は少しばつの悪そうな顔をした。


「君が思っているような関係ではない。いや、君がというのではないか。誰かに誤解されるようなことはない。ただ僕たちは今、協力関係にある」


 アイリーンがマリアに向けて頷く。


「君の考えている通り、確かにあの遺跡での一件も関わっている。盗掘者たち――こちらの調査では”予言の民”と呼ばれる新興宗教――正体はわからないが、彼らの後ろで糸を引いている人間は、この国を転覆させるつもりだ」


 マリアは努めて、冷静を装った。


「クーデターを画策していると? それはそれは、随分大きな話になってきましたね」


「信じていないのか?」


「ええ、まあ……言っちゃなんですが、彼らはカルトですからね。確かに珍妙な武器を揃えていましたが、いくらなんでもそんな戦力はない。城に着く前に叩き潰されて終わりでしょう……いや、そんな話ではない。それ以前にもしあなたの言っているようなことが起りかけているなら、こんなところで話しているよりも、あなたの父に対処をお願いすべきじゃないですか」


 シャルル王子の顔がかげる。どうにも痛いポイントらしい。唇をかみしめ、感情を抑えているようだ。


「父上は……真面目に取り合ってくれなかった。証拠が少なすぎる、場をむやみに荒らすものじゃないと……。僕は納得がいかなかった。エドマンドと二人で、調査を続けた。そしてそのうちに、彼女に出会ったんだ」


「アイリーンと?」


 アイリーンは頷いた。


「ええ。そうよ。私ははじめからあの市民運動はおかしいと思っていた……扇動者がいる――それも悪意のある扇動者が。そう思っていたの。スラムを含めて、私は彼らの隣人だった――だからこそ、異様さが理解できた。私は私で、この市民運動について調査していたの。そうしたら、何者かに襲われた――そこをシャルル様が現れて、私達は協力関係を結ぶことにしたの」


「どうしても僕の立場では、彼らの動向を追うのが難しかったからね。今や貴族というだけで、信用されない。例外は彼女だけだ」


 シャルルが説明を終える。マリアは今までの会話を、頭の中で整理した。カルト、市民運動、クーデター。物騒な言葉が並んでいるが、破綻した話でないことは理解できる。


「だがそこにどうお嬢さまが関わってくるんです? それに私を引き入れる理由も。それこそ、お嬢さまの行動を見張ってろと言われているようだ」


「そうじゃない。この一件には、彼女の父親が絡んでいるかもしれないんだ。グザヴィエ・デ・マルカイツ侯爵。すべての事件に、彼の姿がある。君には――彼のことを探る手伝いをして欲しいんだ。君自身がやる必要はない。ただ手助けをして欲しい。そして――万が一のことがあれば、エリザのケアを、君に頼みたい」


 ここで再びマリアはクレアのほうを見やった。彼女は三人のかげで、一人気配を消して立っていたが、エリザベートの話をするたびに、孤独なシルエットが浮かび上がっていた。


 彼女は後悔していた。それは明らかだった。マリアはそれを見ると、心が動かされる思いがする。クレアには解決しなければならない問題があると言うのに、今はそんな場合ではない。


 続きは別のところで話そう。こんなところで、なんの対策もせず、少し話し過ぎた。シャルル王子はそう言った。そして、マリアを連れて四人で自治会の部屋へ向かった。

 

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