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第32話 分割思考-騎士 前

 父が負傷し、母はいなくなった。そしてエリザベートが頭を抱えている間にもマリア・ペローに宛てられた手紙は動いている。だから状況はどうしたって進む。


 問題は二つ。父の負傷と、マリア・ペロー。


 この二つはエリザベートにとってどちらも重大な意味を持つ。


 二つの問題を同時に抱える――物事を並行して考えるのは、どんな有識者にとっても難しく、また重要な損ないが出ることは想像に難くない――そこまで愚かではないエリザベートは、完全に思考を分割することにした。


 ここからしばらくは、マリア・ペローの問題に関するもののみ掬い上げられる。


 マリア・ペローからの返信が届いたのは母の帰還からすぐのことだった。エリザベートが自室で家庭教師から天文学の講義を受けている最中に、コンスタンスが手紙を受け取り、天体同士の距離に関する説明を妨害してエリザベートに手渡した。


 エリザベートは講師に今日はここまでにしましょうと言い、コンスタンスに紅茶を淹れさせ、その間に便箋を開いた。以下のように書いてあった。


「エリザベート・デ・ルイス・コーネリウス・マルカイツ様。このたびは……うんぬんかんぬん。喜ばしく……それで? 貴族街のケンドリック・クラブにて連絡を待ちます。日取りが決まりましたら、そちらまでご連絡下さい。ふん」


 ここまでは問題なし……と。


 マリア・ペローはもう王都まで来ているらしい。後は屋敷に呼んで任命するだけ。それで彼女は自分のお付きの騎士になる。


 それでいいんだろうか? 


 彼女の名前を見てさっさと決めてしまったが、問題があるのは確か。エリザベートが貴族としては同性愛に寛容なように、クリスタルもそこまで重要視はしていないはずだ……恐らく。なぜならマーヴィン・トゥーランドットは歯に衣着せぬ、貴族を貴族というだけではリスペクトしない、そんな手合いの男だったのだから。


――だから大丈夫なはず……。


 念のため会って、自分を裏切りそうかどうか、マーヴィン・トゥーランドットのように忠義より他のものを優先しない。または一部の騎士のように生真面目がすぎない。自分と合った人間かどうかは確認しないといけない。なにより、《《エリザベートが許容できるかどうか》》。一番重要なのは結局そこだ。


 本当なら今すぐ会いたいところだが……ケンドリック・クラブはそれほど遠くはない。馬車で二時間かからない距離だ。王都に家を持てない貴族たちの住処で、有名な貴族家出身というわけでもないマリア・ペローがそこにいるのはなにもおかしくない。会ってその場で話せればそれがいいだろう。


 だが、通例として身分のあるものは自分より身分の低いものの下へ出向かないものだ。特に主従関係を結ぼうというのであれば、会いに来させるのが通常。彼女もそれがわかっているから居場所まで記載しているのだから。


 エリザベートは一筆書いて、コンスタンスに渡そうとして、躊躇した。コンスタンスはお付きのメードなのだから行かせればいいのだが、単独で行動させることにどうしても不安を拭えない。


 最近のコンスタンスは頑張ってはいる。それは認める。仕事上のミスも、眼で分かるような怠けもあまり見せなくなった。貴族の娘だから、なんにしたって素養はあるはずだ、とエリザベートは考えた。この間も部屋の掃除をさせたらメード長に褒められていたし……って、子供のお使いじゃないんだぞ。


 エリザベートは完璧に整えられた便箋を手にし、部屋の隅で立っているコンスタンスに眼を向けた。コンスタンスが不思議そうに小首を傾げる。それを見て悩みは一層深くなる。


「うーん……」


 叱られるとでも思ったのか、コンスタンスが少し後ろに下がって、背中が壁にぶつかった。


 うーん……じゃない。なんでこんなことで悩んでるんだ? この手紙の重要さはわかっているはず。ならミスをしない人選をしないといけない。


 エリザベートの頭にぱっとある人物の顔が浮かび上がった。途端、気分が悪くなる。だが、仕事は優秀なのだ。それは認めないといけない。

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