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第23話 問題があります 中

 いつだって理由はある。理由がないなんてことはない。理由は結果の後からでもいくらだってついて来るのだ。だから理由がないなんていうことはあり得ない。


 ただ、結果として、ということはある。今回エリザベートが候補者を絞れなかったのも、そういう理由だった。この一か月、異常なまでに忙しかったのだ。


 アナ・デ・スタインフェルトの催しに参加し、何者かの脅迫状を受け取った後、エリザベートは脅迫者探しと騎士探しを並行して行わなければならなかった。脅迫者探しはパースペクティブに相談したところで半分頓挫し、後はまたコンスタンスに図書館の本をとってこさせようと考えていた。脅迫者は気になるが、流石にてがかりがなにもなかった。紙もインクも特徴はない。唯一この文字を書いたのがあまり上等な教育を受けていないのではという推測を立てることはできたものの、手掛かりとしてはあまりに弱すぎる。


 そのうちに騎士探しのはじめの催促が入ったため候補者を選定しはじめるものの、国で最高とさえ言われるマーヴィン・トゥーランドットのような人間を差し置いて満足のいく候補者もなかなか見つからず、時間がまだあるからとやや放置気味になってしまっていた。


 それでもその二つをこなしていた中で、新たな用事をこなさなければいけなくなる。実のところ、これに忙殺されていたと言っても過言ではない。それは……家庭教師だ。


 そんなことでと思うかもしれない。だが元々マルカイツ家はエリザベートが聖ロマーニアス王立学院に入るまで家庭教師をハードスケジュールで入れていた。ピアノ、ヴァイオリン、弓といった芸事から、文学や歴史、天文学などの学問。日に十何時間も家庭教師がつき、勉学に向かわされる。自由な時間など持てないぐらいだったのだ。エリザベートは知らなかったが、実は彼女が熱を出しあのようなふるまいをして以降、まだ人に合わせられる状態ではないとクリスタルが一時的に家庭教師が来ないようにしていたのである。


 エリザベートも以前の自分に家庭教師がいたはずだと考えてはいた。入学が近かったのでいったんやめにしたのかとスルーしてしまったが。


 そうだ。家庭教師はそのような事情によってしばらくエリザベートを見ていなかったが、コンスタンスと観劇を見に行き、アナ・デ・スタインフェルトの催しに参加したり……と、最近は普通に対外でもあまり問題を起こさない(クリスタル的には、娘が男爵令嬢にぶどうジュースをかけるぐらいはなんでもないことらしい)ので、再び家庭教師を呼ぶことに決めたのだった。そして、遅れを取り戻すため、時間はそれほど増えていないが、密度がぐっと厚くなった講義を散々に受けさせられ、完全に圧殺されてしまっていたのだ。


 そういうわけで、エリザベートは脅迫者探しも騎士探しもまったく頭に入らず、稽古の情報があるぐらいだった。シャルル王子に会う一日前と当日だけは休ませてもらえるというので、その癒しに向けてスパートをかけるしかない。脅迫者探しはパースペクティブのところで行き詰っているのでまだいいが、騎士探しは、実のところ肖像と経歴書を数人見ただけで、憶えているのは特別ひどかった一人か二人ぐらいだった。


 母親に最後通告を受けてから、エリザベートはなんとか時間を捻り出そうとした。全ての家庭教師が帰ってからは、あまりに疲れているため資料を読んでいる余裕がない。寝所に入るまでをなんとか礼を失しないようこなすので精いっぱいだ。来る前はかなり朝早く、エリザベートは寝起きの悪い方ではないが、それでもきちんと判断できるかわからなかった。普段判断できているのかも自信と相談すべきことなのかもしれないが。


 ある朝、夜明けからすぐの時間に眼を覚ましたエリザベートは、廊下で窓ふきをしていたメードに声をかけ、コンスタンスを呼びに行かせた。お付きのメードは普通のメードより朝が遅い。朝餉に同行するまでは休んでいるのが普通だ。


 明らかに寝起きながら、貴族らしく髪だけはちゃんと巻いているコンスタンスが現れるまで、やや時間がかかる。


「おはようございます。はあ……。お嬢さま……」


「コンスタンス。コンスタンス!」


 エリザベートは動きがおぼつかないコンスタンスへ向けて指を鳴らしこちらを向くよう促す。


「はい。はい。大丈夫です。お嬢さま。ご用向きを言っていただければ……大丈夫です……」


「いい? コンスタンス。いい? 言うからね? 今日はいいけど、私も見る余裕がないから、これからは騎士の写真と資料は朝に持ってきて。こんなに早くなくてもいいから」


 コンスタンスがこくこくと頷く。なにを言ってもそうするので本当に大丈夫かコイツと不安に思っていると、案の定翌朝、コンスタンスは何食わぬ顔で朝餉の時間にエリザベートを呼びに来るので、思わず脱力してしまう。仕方がないので朝早くから働いている他のメードに頼むことにした。


 翌朝、ようやく大量の肖像画と経歴書が部屋に運ばれてきた。この時期にあっても、たといエリザベートに嫌な噂があろうとも、侯爵家かつ王族の婚約者とあれば、お付きの騎士になりたいものはいくらでもいるのだ。

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