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第177話 燃える屋敷の戦い 後-2

                  ▽


 グザヴィエはエリザベートたちの後ろをふらりと抜け、煙の充満する廊下へ出ていた。


 グザヴィエは汗で湿った手のひらで自分の顔を拭った。煤が汗にとけ、頬の上に広がった。煙を吸いこまないよう、中腰になっていたが、すぐに咳き込む。玄関ホールの手前まで歩いた。


 グザヴィエの”ギルダー・グライドを説得できる”という思いはこの時、”ギルダー・グライドを説得しなければならない”という思いに変わっていた。


 グザヴィエは袖で口元を隠し、立ち上がった。そして自分の屋敷の状況を目の当たりにし、苦渋に顔を歪めた。


「ああ、なんということだ……」声に出してそう嘆く。グザヴィエにとってこの屋敷は自分の成功を象徴するものだったからだ。「グライド! いるのか!」


「なんの用だ?」


 グザヴィエの立つ場所と対角線上に位置する通路――煙の奥から、ギルダー・グライドの影が現れた。


「話がしたい! そっちに行くからな!」


                 ▽


 時間を少し戻して、オルガン部屋。グザヴィエの様子が見えないことに気が付いたエリザベートが、困惑を言葉に表す。


「お父さまはどこ?」


 床に下半身を寝かせ、肩の近くにクロスボウの矢を受けたエリザベートが、体を捻って動かした。


 エリザベートを介抱していたジュスティーヌとクリスタルも(その精度に多少の差はあれ)その言葉にはっとして、グザヴィエの姿を探す。


――まさか……。


 最悪の想像。グザヴィエ――父親は、プライドや威厳に拘る方だ――今彼が出来ることはなんだ? そこまで考えられれば想像というより、予測だ。エリザベートは顔面蒼白となった。


「早く連れ戻して! 早く!」


 立ち上がろうとするとクロスボウの矢が着ずに食い込み、激痛のあまりエリザベートはその場にへたり込んでしまう。

 そして運命的なことにその時、その瞬間に、廊下の奥からグザヴィエの声がきこえてきた。


「だめだめだめだめ! ジュスティーヌ! 早く立たせて!」


 ジュスティーヌがエリザベートの腕を持ち上げ、自分の肩に回す。エリザベートは妹の補助で立ち上がり、また苦痛に顔を歪めながら走るように廊下を行った。


                ▽


 グザヴィエとギルダー・グライドは互いに視線を送りながら話していた。グザヴィエは半分崩壊した通路を一人で渡り切り、グライドの元へ駆け寄ろうとしていた。


「グライド。屋敷の件はフェリックス王と話す。お前は早くここから……出て行ってくれ」


「そんなことを言うなマルカイツ。俺たちにも話すことはある」


 グザヴィエがグライドと話しながら、自分の家族のほうをちらりと見た。


「私に任せて。お前たちは指示に従うんだ」


「指示って、なんの指示?」


 ジュスティーヌが険しい表情で言い返した。クリスタルも言葉には出さないが、疑問には思っているようだ。不安そうに胸の前で手を組んでいる。


 三人が通路のほうへ駆け寄ろうとするが、射手がクロスボウを向けてそれを止めた。


 慌てたグザヴィエがグライドと三人に向かって叫ぶ。


「待て待て。その必要はない。お前たちも無意味に刺激することはやめるんだ。私が話してくる。話してくるからな……」


 グザヴィエの言葉は最後には、あたかも内側に向けられたかのように、他人には頼りなく、消えていった。ギルダー・グライドはこの結果にはある程度、満足しているらしかった。グザヴィエが目の前まで来ると、抱きかかえるように彼を受け止め、しっかりと立たせた。そして、その顔をぶん殴った。グザヴィエが地面に倒れ、手すりの支柱へしたたかに頭を打ち付けた。


 ギルダー・グライドは顔中を血だらけにして夢妄の中で天井に見惚れるグザヴィエの足を持ち上げ、ずるずるとカーペットの上を引きずった。


「こいつの執務室はどこだっけ? アデライン」


「その奥の部屋です。団長」


 アデラインと呼ばれた射手が、クロスボウでエリザベートらを牽制しながら、素っ気なくそう返した。


「許さない! 許さない! ギルダー・グライド!」


 エリザベートがそう叫ぶ。ギルダー・グライドは馬鹿にしたように笑いながら射手に向かって舌を鳴らしながら首を切る仕草をすると、通路の奥へ消えていった。


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