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第168話 心ないということ 後

 ギルダー・グライドと彼の騎士団は、屋敷まで音もたてずに忍び寄った。マルカイツ邸は周囲を鉄柵でぐるりと囲み、その外側には王都まで続く道と、左右に別れた景色がある。正門から左側――つまり王都の外縁には、野原と、その先に湖へと続く森があり、右側はどこまでも平原が続いている。マルカイツ邸の敷地は、その野原がなくなるところまでだ。


 見張り塔はなかった。王都近郊ではこれといった警戒をする必要もないと考えたのだろう。せっかく周囲を切り開いているというのに高いところに兵士がいないのではなんの意味もない。鉄柵の向こうに外廊下を歩く兵士の姿があった。


 騎士たちは門近くの壁に密着した。門には大きな鍵がついていた。小柄な兵士が背中に背負っていた袋から、大きな鋏を取り出した。持ち手が二つ付いており、分厚い刃を備えている鋏だ。彼はそれを鍵にあてがい、ギルダー・グライドの顔を見た。


 グライドは別の入り口から準備を終えたことを知らせる兵士を待ち、彼が到着すると、指をまわして鍵を切断させた。


 彼らはみな、腕にクロスボウを抱えていた。何人かで一斉にクロスボウを撃ち、斃れた屋敷の兵士を暗闇へ引きずり込んだ。


 そこまでは順調であった。つまり、闇討ちで歩哨を殺すまではなんのアクシデントもなく進んだ。


 正門から屋敷を繋ぐ庭園を通り、屋敷への侵入口を探している最中のことだった。頭の上から鐘の音が降り注ぎ、侵入が発覚したことを知った。歩哨が見当たらないことを考えると、なにかしらの魔術的な手段が用いられたのだろう。センサーに引っかかったのだ。


 ギルダー・グライドは落ち着いていた。指笛を吹いて中腰から直立姿勢に戻ると、他の騎士たちも同じように立ち上がり、剣を抜いて左右に展開した。屋敷のなかがにわかに騒がしくなる。兵士たちが起きだしたか。


「想定内だ。射手!」


 ギルダー・グライドはもう一度指笛を吹いた。すると正門の前に数頭の馬と、バリスタを載せた荷車が現れた。騎士たちが正門に鉤を引っかけ、馬に引かせて破壊する。向こうの兵士は襲撃にまごついて、まだ出てこない。


 敵の戦力は多くて四十。はっきり言って練度では比べ物にならない。そこへ来て、ギルダー・グライドは対人兵器まで用意している。戦いは有利に進むはずだった。屋敷の正面入り口に巨大な矢を打ち込み、向こう側にいる兵士を吹き飛ばす。各々屋敷内に展開した後は、バリスタを小型の鉄芯を連続で撃ちだすタイプに切り替え、出てきた敵兵を撃ち殺す。


 しかしながら、事態はそううまくは行かなかった。射手に扉への射撃を命じようとした瞬間、荷車の後方からこちらへ猛スピードでやってくる火――松明を持った集団に気が付いたからだ。


「後ろだ!」と叫ぶ間もなく、射手が殺された。こちらの倍以上の人数がいる。


 今度にまごつくのはギルダー・グライド率いる騎士たちのほうだった。彼らには襲撃される想定などないのだ。自分たちこそが狩人であり、相対するは全て獲物。それが彼らのあるべき信条だ。


「”予言の民”どもだな」


 動揺する騎士たちの中で、団長であるギルダー・グライド本人だけだった。彼は冷静に敵の分析をした。


「王都内で敗れた”予言の民”の残党だろう。こちらを襲撃してきた理由は解らないが、相手はカルト集団だ。論理的な理由を求めるのも意味はない」


 グライドは副長を捕まえ、指示を出し、周りの騎士たちを怒鳴りつけた。


「落ち着け! 所詮烏合の衆だ。落ち着いて迎え撃てば誰一人死なずに済む。おい! そこのお前、屋敷への侵入口を造れ。どうせなら中の連中にも相手をさせるぞ」


 グライドはクロスボウで”予言の民”の一人を殺した。このアクシデントがあっても、グライドの想定はまだ超えていない。”まだ任務に支障はない”と考えている。


 だがそれは、予言の民たちの松明によって照らし出された、一体の怪物を見るまでのことだった。巨大な蜘蛛のような体を持ったそれは、こちらが破壊するはずだった正門をぶち壊し、部隊へ迫ってきた。

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