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第132話 Until Next Time 後

前話の後半をけっこう改稿しましたので改稿前とは繋がっていないかもしれません

お手数ですが前話を読み返していただけると幸いです


「つまり、元々のあんたの目的を優先させたい。そういうわけね」


 エリザベートが言った。


 メアリー・レストは湯気の弱くなりだしたティーカップには目もくれず、話をつづけた。


「あの時間で、あんなにも早くクーデターが起ったこと……これは重要ではあっても、本質的ではない。結局のところ問題はクーデターが起きるということだ。それを止めるには黒幕を突き止める必要があった」


「それをいまから、ここで考えて見つけるってこと?」


「ううん……少し違う。だが、概ね間違っていない。そうだ」


 言ってからメアリー・レストが暗い顔で俯く。エリザベートはうんざりしたように息を吐き、ケーキにフォークを挿し込み、切り離した。アプリコットは甘すぎず、かといって薄くて水っぽくもなく、丁度良い甘さだった。生地はしっとりとして、アプリコットと上手く口の中で混ざり合って、嚥下するまでの障害を感じさせなかった。喉にまでついた甘味を剥がすために、エリザベートは渋みのある紅茶を飲んだ。


「庶民的な味ね」エリザベートが感想を零す。メアリーは顔を上げ、じっとテーブル上のケーキが乗った皿を見た。


「どうして黒幕を見つけられなかったのよ」


 エリザベートが訊く。メアリーは再びケーキから眼を逸らした。


「意外に思うかもしれないが、私にできることはあまりない。ちょっと大胆に動けば、すべて台無しになるかもしれない。そういうリスクと戦っている。黒幕を探すのも、そうだ。色々手を尽くして物事を辿った。でも見つけられなかったんだ」


「時間を……」エリザベートはここで違和感を憶え、頭を手のひらで軽くたたいた。「なにもかも手遅れになった後でも時を戻せるのに、どうして黒幕がわからないの? クーデターが成功するなら台頭してきた人間が黒幕ということにならないの?」


「そう単純じゃないんだ」


「何故。単純でしょうよ。勝った奴が王冠を被る。こんなにも単純なことって他にないと思うけど」


「遡行するには条件が要る」メアリーが言う。「その条件を揃えるのには準備が必要になるんだ。例えば、君とかね」


 エリザベートはもう一度、頭を叩いた。もうすぐそこまで違和感の正体がやってきているような気がしていた。


 メアリーはテーブルからティーカップを取り、軽く口を湿らせ、温い、と呟いた。温くなってしまったと言いたかったように聞こえた。


「君は知ってる」メアリーが言う。「心の奥底では知っているから、受け入れた。疑問に思っても然るべきことまで、全て」


「知ってる」エリザベートは表情を失っていた。「オクタコロンが言っていたこと。あんたが言っていたこと。それは、つまり……」


 クーデター。自分の死。遡行。これらは全て繋がっている。一本の、メアリーの言う”実時間”という線でだ。でもそれなら、でもそれなら、どうして……。


「どうして……なんだ?」


 メアリーが液薬を出して、エリザベートの紅茶に滴下した。エリザベートはメアリーに勧められるがまま、ティーカップを傾けた。


 エリザベートの頭が透通すようにすっきりとした。今まで見えていないものが見えてくるような感覚になった。


「ああ、そうだ……私はどうして、あの瞬間に死んだのに。それなら、私があの瞬間に死んで遡行したなら、クーデターが起ってるのは、おかしい。だって私が生きているあいだにあんなことは起こっていない」


「そうだ。ということは? どういうことになる?」


 メアリーはじっとエリザベートを見ていた。エリザベートはまたぞろ、寒気や恐怖心に襲われていた。落下したときと同じ。オクタコロンに”記憶を失っている”と示唆されたときと同じように、見てはいけないものを見ようとしている感覚。


「落ち着いて、紅茶を飲め。さもないとお前は……狂気に陥る」


 エリザベートは感覚を思い出した。紅茶を飲んで、メアリーの魔術によって精神の安定を図る。


「お前にこれからやってもらうことは、それだ。お前にはお前の”未来”を思い出してもらう。それが唯一、この場で突破口を見つける方法になる。

 お前はすでに一度、遡行をしている。それにお前は、舞踏会の会場では死んでいない。先ずはそこから、始めて行こう」

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