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巻き戻り令嬢のやり直し~わたしは反省など致しません!~  作者: 柏木祥子
三章 魔術師の演出のもとにロマーニアス王国民並びにカルト教団によって演じられたエリザベート・デ・マルカイツの迫害と暗殺
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第98話 シューゲイザーズ(靴を見る人々)‐11

                ▽

 マリアとアイリーンが怪しげな市民運動家のねぐらに侵入した翌日のこと。アイリーンから報告を受けたシャルルはこれまでに集めた証拠を集め、自ら父の元へ届けに行った。


 あの場所での出来事は、とても刺激的だった。隠し部屋、武器、サビアン・カテドラル。彼は公式には死んでいる人物なのだ。誰かが手引きしてその死を偽装したに違いない。武器はなまくらばかりだったようだが、かなりの量だったはずだ。それらの事実がアイリーンのまとめた書類は過不足なく、正確に書かれていた。


 一つ、気になるのはサビアンがまるであの部屋を探していて自分たちで武器を用意していたわけではないかのような発言をしていた点であるが、これに関してはまだ調査中で通せる。重要なのはとうとう具体的な証拠が現れたというところだろう。これまでは曖昧な状況証拠しかなかったためにフェリックス王も真面目に受け取らなかったが、この調査報告書を見れば、対策委員会を設置するぐらいはするはずだ。そう考えていた。


 だが返ってきたのは望んだ答えではなかった。宰相との会話を中断して対応したフェリックス王はシャルルの持ってきた書類に目を通すと、それを閉じて彼に返した。そして「いつまでこんなことをやっている」と言った。


「前にも言ったはずだ。この件にお前が関わる必要はない。私はこの国のことなら把握している」


 フェリックス王はそう断言した。


 普段は父を信用しているシャルルも、これでは納得がいかない。資料を手に食い下がる。


「父上! どうか現実を見てください! この国でなにものかがクーデターを起こそうとしてるんですよ?」


「かもしれないな」フェリックス王が言う。「数年前には戦争もあった。いくら警戒していても国外からのスパイは入り込む。そういうものだ。シャルル、お前は学生なのだ。学生なら学院の問題を相手にすべきだろう。お前の婚約者――エリザベートとのことは聞いている。かなり暴れているそうじゃないか……婚約者を諫めることもできないでどうするんだ?」


「それは、今は関係ありません!」


「まずは目の届く場所について考えろと言っているんだ」


 話は平行線を辿る。シャルルがどう言ってもフェリックス王は簡単に躱すだけで、真面目に聞こうともしない。むしろエリザベートのことでシャルルを責めていた。


 やがて部屋に”王の指”たちが入ってくると、シャルルはその場から去ることを余儀なくされる。忸怩たる思いで帰り道を歩きながら、シャルルは決意する。


「もっと確かな証拠を集めなくては……」


 それには間違いなく一味の一人であると判明しているサビアン・カテドラルを捕らえるのが一番だろう。ちょうどそのとき、あの建物と関係した市民運動家数名が、コバルト・サーモン・シアターでなにかしようとしているという情報がエドマンドのもとに入って来ていた。それを聞いたシャルルはすぐ学院に赴き、マリアとアイリーンを呼び出した。


 マリア・ソ・フォン・アレクサンドル・ペローとアイリーン・ソ・ミルバンク・ダーク・ダルタニャン。この二人は自由に動けないシャルルにとっては、貴重な戦力である。


 二人はすぐ学生自治会にやってきた。アイリーンは学生服だ。あとで教師に嘘の事情を話す必要があるだろう。エリザベートのお付きの騎士でもあるマリアは、彼女を見送ったばかりのようだ。この活動を主人に知られるわけにはいかないと考えているため、突然の呼び出しにやや立腹している様子である。


「君たちを呼び出したのは外でもない」シャルルが言った。「奴らの次の動きを掴んだんだ。悪いがまた動いて欲しい」


 アイリーンが軽く頷く。


「ありがとう」


 マリアは頷かない。


「私たちがやる必要のあることなのか? 人数は少ないみたいだが、殿下も人はいるんだろう? そっちにやらせるんじゃダメなのか?」


 シャルルが首を振る。


「ダメだ。アイリーン、君にはあまり先頭に立ってほしくない。安全なところで仕事をして欲しい。だが、ミス・ペロー。あなたはこの件には絶対必要なんだ。向こうには恐らくまたサビアン・カテドラルがいる。こちらで対抗できるのはエドマンドか、君。エドマンドには別の仕事をやってもらいたい。それに彼一人だけ動いているところを見られたら、不自然に思われる」


「大きすぎるからな。いや、それは冗談だが、こっちにも予定があるんだ。戦わない手だってあるんじゃないのか? 準備さえすれば戦わずに投降させられるだろう」


「時間がない。計画は明日だ。場所はコバルト・サーモン・シアター。万が一明日、あそこで騒ぎを起こすつもりなら、国民たちにも危険が及ぶかもしれない」


 マリアはそれを聞くと、渋い顔になった。ずっと乗り気ではなかったようだが、その顔を見ると実際になにか特別なものがあるらしい。


「なにかあるのか?」


 そうだった。”なにか”はあった。マリアはエリザベートから、当のコバルト・サーモン・シアターで観劇に誘われていたのだ。

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