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僕と君と世界のこと  作者: かもめある
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第1章 即決

何もなかった。そもそもと言うべきか、必然か。俺には何も無かった。クラスの中心人物になる素質も勉強でいい高校に行く素質も、スポーツをできる素質も。なかったはずだった。でも今は…違うかもしれない。


「あ、(やばい、机の中に宿題忘れた)」

俺の名前は新山翠。ここ稜東学院高等学校の2年生、どこにでもいる平凡高校生だ。ところがどっこい今日はやらかしてしまった。1週間後のテストに向けての宿題を学校に忘れてきてしまった。幸いなことに家から学校までは自転車で片道10分と決して遠くはないが、現在時刻午後9時半頃

「受付の閉まる時間は10時だから間に合うけど…不気味だ。」

(しかたない、あれないとテストの勉強も宿題もできないし行くしかないな。)

翠は重い腰を上げ部屋を出た。

少し急な階段を降りて玄関に向かう。

「ん?翠?どこ行くの?」

今の台所で洗い物をしていた

母親の美咲に言われる。

「忘れ物したから取ってくる。」

ぶっちゃけテストなんていくら頑張っても中の上だ。やる意味があるのかわからん。

「もう9時半になるのに学校空いてるの?」

「受付が10時までなんだよ、行ってくる」

「そう…行ってらっしゃい気をつけてね〜」

美咲は洗っていた皿を綺麗に拭き棚にしまった。

翠は玄関に行き靴を履こうとする。

しかし靴の紐が解けていてすぐに履けない。

「こんな時に限って…ついてねぇな今日」

多少のイライラに苛まれながらも靴紐を結び重い自宅のドアを開けて隣の車庫から自転車を取り出す。2年前に父さんがくれたピカピカのロードバイク。俺に恥ずかしい思いをして欲しくないと無理して買ってくれた。今でも大事に使っている。2重ロックを外してライトをつけ、学校に向かう。

俺の暮らすこの町、人口約1万人と少し小さな集落だ。しかし以外にも設備も整い、街並みが綺麗で有名である。元々隣町の土地だったが大人の理由で分裂したらしい。家から学校まではほぼ降りで行くのは楽だが帰りがきつい。まして俺は運動部ではなく体力も人並なので辛いものがあるのだ。

「夜の散歩もいいもんだな」

夜の風をチャリできって進んでいき、ようやく学校に着いた。

現在時刻は

「9時47分…やばい急がないと」

足早に自転車置き場にチャリをおいて、すぐ学校受付に向かう。ちょうど帰る支度をしてるようだった。

「すいません!まだ校舎って入れますか?」

すると受付のおじさんが笑いながら

「どーした?わすれものか!笑」

と言ってきて少し小っ恥ずかしかった。

頬を赤らめながら「はい…」と言うと

「わかった!早くとってくるんだよ〜」

と言ってくれてすんなり校舎の鍵を開けてくれた。お礼をして走って教室に向かった。あいにく教室は2階。階段を上がらないといけない。息切れをしながら登って教室に着いた。しかし、

「ん?なんで電気なんか着いてるんだ?」

さっきの感じ校舎にいるのはおじさんだけだよな。ガラララッ

「!?」

誰だ?見慣れない緑の髪に少し薄いグリーンのワンピースを着た同じぐらいの女の子がそこに立っていた。お互いびっくりして翠はしりもちをついた。

「痛ってぇえ。」

するとすぐその女の子が

「だ、大丈夫ですか?」

と声をかけてきてくれた。

「うん、少し驚いただけ笑ごめんね」

女の子は首を振り、翠は起き上がった。

「んで、ここで何してるの?」

不思議な現象なのには変わりない、知らない女の子が俺の教室にいるのだ。

「ううん、もういいの。見つかったから」

まぁ女の子の事だし深掘りするのはポリシーがないなと思って「そーなんだ」と返した。

「私はこれで。またね。」

「う、うん!またね!」

女の子は教室から出て行った。

ん?またねってどういうことだろ

深く考えるのはやめよう。とりあえず

課題を見つけないと話にならない。

翠は自分の机から課題を取り出し持ってきたトートバッグに入れて、足早に教室を出た。

階段を降りるとおじさんがいた。

「あったかい?わすれもの」

「ありました!ありがとうございます!」

お礼をすると「いいんだよ」と言ってくれた。

でもふと気になった。

「あのおじさん!さっき緑の髪の女の子を見たんですけどちゃんと学校出ましたか?」

それを聞いた途端おじさんの顔が変わったのは言うまでもないだろう。

「君…彼女が見えるのかい」

どういう意味だろ。翠は「はい」と答えると

「もしかしたら君は選ばれたのかもね」 

「どう言うことですか?」

全く意味がわからない。翠は聞くと

「いずれわかるさ。きっと彼女もそうするだろうしね」そう言うと「さっ、学校閉めるよ!お家に帰んないと!な?」「は、はい。」納得しないままおじさんは車に乗りププッとクラクションを鳴らして帰っていった。どう言うことなんだろと思いながら自転車を起こして家に帰った。あの子は誰で俺のなんなんだろう。そう思いながら翠は自転車を走らせた。


〜一週間後〜


「やっと終わったー。」

課題ちゃんと学校から持ち帰って正解だった。そう思いながら解き終わった回答用紙を前の席へ送り問題用紙を少し古めのバックパックに詰めた。とりあえず今回は赤点回避かな。

チャイムが鳴り、一学期の期末テストが終わった。明日からはついに夏休み、予定はないが高揚感が翠を襲った。すると

「翠〜!ねぇ!翠ってば!」

振り返ると女子にしては背の高いクラスメイトの黒木疾風くろきはやてがこちらをみて呼んでいた。疾風とは幼稚園からの付き合いだからなのだろうか、周りの女子と比べても美形であるが恋愛感情はない。むしろ少し苦手だ。

「なに、ハヤテ」めんどくさそうに言うと

「テストどーだったか聞こうと思ったに決まってるでしょ。流れ的に。」

決まってるでしょってお前の価値観を俺に押し付けるなよ、めんどくさいから適当にあしらっておこう。

「あ〜そゆことね。まあまあだよ。どうせハヤテには勝てないけどね。」

ムカつくが疾風はクラスでもトップクラスの成績、運動神経、人望の厚さ。ここまで完璧な人間を俺はみたことがない。

「ま、まぁ翠が私に勝つなんてありえないけど!べっ、別に翠の心配はしてないからね!」

あー、はいはい出たよツンデレキャラ。アニメキャラなら可愛いけど現実で、しかも幼馴染となるとこのツンデレ度も厄介になる。全ツンデレファンの皆さんごめんなさい。

「へいへい…んでハヤテは部活なの。」

「あーうん!インターハイ予選近いし…でも今日はテストだったし休息も大事かなとか思ったり思わなかったり…?笑」

裏を返せばお前と帰ってやってもいいぞ的なことだろうな。まぁスルーするんだけどね。

「そーかー。練習がんばれー。」

「ちょ、ちょっと!なんか冷たくない?」

棒読みで言いすぎたな。

「あいや、お前も忙しいんだろうと思ってな。帰宅部は家に帰って勉強なんで。それじゃ。」

疾風に手を振り椅子を机にしまって教室を出た。

「むー…。」

明日からは夏休み。なんもすることないけど、適当にゲームでもやるか。翠はそのまま廊下を歩いて階段を降り上履きを履き替えて自転車置き場に行った。すると何故か朝乗ってきた自転車が消えていた。

「…。なんでないんだよ。」


全く意味がわからなかったが探すのもめんどくさい。誰かが間違って乗っていったのだろう。ん、でもおかしい。たしかに鍵はかけたはずだ。誰かが乗って帰るには俺の鍵の番号を知らないと無理だ。まぁ、考えても仕方ない。

「…歩いて帰るか。」

いつもの帰り道、相変わらず上り坂はきつい。自転車に乗っていれば少しは楽だけどこれは…

「つらいものがあるな…」

七月下旬の今日の気温はおよそ30度前後。道内にしては特に暑い日だ。

「全く…なんで俺のチャリないんだよ。」

暑いことでイライラがさらに溜まる。


「可哀想。あるところまで案内する。」

「あぁ、頼む…ん?」

あれ、今たしかに後ろから声が聞こえたような。翠は後ろを見るとあの夜学校で出会った女の子が薄着のワンピースを着て付いてきていた。

「うわ!!びっくりした…なんでここにいるの」

「なんとなくついてきた。大変そうだったから」

いつから俺の隣にいたんだろ。翠は冷や汗をワイシャツの袖で拭き、

「俺のチャリのある場所、わかるの?」

「うん、わかるよ。こっち。」

俺の思考力も暑さで低下していたのだろう。それ以上深掘りせず、彼女について行った。

いつも通らない道路の抜け道から着いたのは見たこともない鳥居のある神社?寺社?なのか。わからないがそこにたしかに翠のロードバイクはあった。

「あー!よかった〜。俺のチャリあった〜!」

これでようやく家に帰れる。

「でも、なんでここにあるの知ってるんだ?」

彼女は少し申し訳なさそうに

「私が…おいた。」

「…え?なんで?なんのために?」

全く意味のわからない行動に困惑していた。

すると彼女はこう言った。

「かまってほしかった。」と一言。

「かまって欲しいって…普通に話しかければよかっただろ?」

わざわざ俺のチャリまで隠して何がしたいんだ。彼女は静かに言った。

「2人きりになる必要があったから。」

その瞬間目の前の空間が歪んだ。目の前にあった鳥居があやとりの紐みたいに歪んで翠はその場に倒れた。少しして目を覚ますと辺りは夜でその鳥居は消えていた。

「なんだったんだ一体。」

「やっぱり翠は見えてるんだね。」

彼女は手を貸してくれるのか、倒れた翠に手を差し伸べていた。

「ありがとう、助か…る…よ。」

どういうわけか掴もうとしていた彼女の手をすり抜けた。

「え。これど、ど、ドユコト!?」 

素っ頓狂な声を出すと彼女は言った。

「ふふっ。からかっただけ。私は霊体。この世に存在しないものなの。だから掴めないし触れられない。」

いやあの時から予想はしていた。だっておかしいだろ、あの夜中に一人で私服で見たことない女の子が学校にいるなんて。

「…そうか。やっぱりか。」

「翠は飲み込みが早い。怖くないの。」

「怖ぇよ。でもなんか俺が選ばれた理由が少しだけわかった気がするから。」

ここで訂正する。俺は普通の高校生ではない。俺は昔から霊体らしきものが見える体質だった。正直見えている俺も何かの錯覚だと思うようにしていた節があった。見えることは誰にも言ったことはない。

「うん。初めて教室であった時、確信したの。選ばれたの翠は…」

翠は暗くなった星が少し光る空を見て、深呼吸をして言った。

「…俺は何をすればいい」

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