二の場合
何か用ですか?
あいつが現れた。こんなに顔を見たのは初めてだ。
白い生地の上下。フリース?ボア?とりあえず、もこもこの生地だ。
もこもこ。
もこもこ。
モコモコ。
フワフワ。
俺とは正反対。真逆の存在。
不安そうな表情。
俺は無言で台所から持ち出した(あれ)を、目の前の生物の腹に押し当てた。
ドス!
ドス!
ずん!ずん!ずん!
フワモコの生物のくせに、硬い。いや、重いと言った方が正しいだろうか。
意外と血が出ない。ドラマなんかでよく見る、 床一面血の海 のような物を想像していただけに、拍子抜けだ。
ずん!ずん!ずん!
ずん!ずん!ずん!
もう何回、押し当てただろうか。十回、いや、二十回だろうか。
冷静になる。
誰かに目撃されないだろうか。このアパートは古く、六部屋中、三部屋が空き家だ。
俺の部屋の先隣り。つまりこいつの隣の部屋の住民は、ほとんど見たことがない。
顔を見せるのは、たまのゴミ出しくらいだろう。あ、この前近所のスーパーで見かけた。
歳の割に若い格好をしていた。(レゲエ好き)とでも言おうか、とにかくボブ・マーリーのような人物だ。
それにしても、俺は何故、こんな事をしているのか。
隣人の謎のリズムに無性に腹が立ち、俺とは真逆の人生を歩んできた、いや、歩むであっただろうこのフワモコの腹に、今もなお、(あれ)を差し込み続けている。
ずん!ずん!ずん!
ずん!ずん!ずん!
止まらないのだ。
二十、三十、四十、
五十、六十、七十、
流石にもう腕が限界だ。そして一つ。一つ。ひとつ。
俺はこの後のことを、何一つ。
考えていない。
これからどうしよう。
目の前にある、今やもう、フワモコではなくなった、
硬い、(物)俺はただ、立ち尽くした。