さよならシロ
俺は心がからっぽだった
学校の放課後
とくに一緒に帰る相手もいない
俺はいつものように、一人で家路についていた
猫背を丸くしポケットに手を突っ込んで、
トボトボと歩く
たまに道端にある、汚物のような
自信ありげに咲き誇っている花を
足で何度も踏みつぶした
汁が出て、スニーカーの底を汚す
家に着くころには、まっ黄色
笑みはこぼれない。醜悪の果ての様な
行動だな。と思ったら、なぜか満足感のような
ものが沸いてきた
それのみ
あとは、無感情。
足元に空き缶が落ちていたから蹴ってみた。
思ったより勢いを増して宙を舞い、
知らない星に着地した
「夕焼け空が奇麗だから、人を殺してみたよ。
沢山の人が泣いたよ。
でも俺は思うよ。
それって、きっと夢だからいいんじゃね?」
イヤフォンから、大好きなバンドの曲が流れてくる。
一緒にくちずさんでご機嫌モード。
だが一瞬でそれをかき消す。濁った記憶
昼休み時間の俺の居場所は便所だった。
一緒に過ごす相手もいない、だからと言って
カーストで言うと、下から二番目くらいの
連中のたまり場になってる教室内にいるのも、
自分としては癪だった
一度、ギリギリ聞こえるような小さな声で言ってるの
が聞こえてきた
うぜーうぜー。うぜー。
絶対聞き耳立ててるって。
こっちに来たいんじゃね?
仲間には、いれねーけど
あははははははは
その日から、昼休み中の俺の居場所は
男子トイレの奥から二番目になった
特に何をするわけでもない
ただ、思案していた
思案して、出た結果をさらに思案すると
訳が変わらなくなって、嗚咽を漏らして泣いた
パニックになっても大丈夫
誰も見てないから
声さえ出さなかったら大丈夫
数十分後、普通の俺に戻ればいいだけ
俺は心がからっぽだった
そのからっぽを、埋めるための材料は、多分俺には
永遠に手が届かないような遠くにあるんだろうな
「死にたい死にたいっていう人は意外と中々死なないんですよね。
本当に死ぬ人は誰にも言わずひっそりと死ぬんですよ。
そういう傾向にあるとわたしは思いますよ。」
テレビで、アメリカ人と日本人のハーフのタレント
が言っていた。
あまりに頭を掻きむしったせいで、血が出てきた
俺は、最近自分の感情が分からない
他人の感情がわからないのは当然で、よくあることだが、
自分の感情がわからないとは、はて?
俺にはちょっとした奇怪な性癖があった
精液を口内に取り入れる
それも自分の身から出てきたそれである
コップに上手に放出した其れを口に
運ぶ瞬間だけが、生きてる実感がした。
そして俺の性器は固くなり、またエンドレスで
同じ行為に及ぶ。
もちろん誰にも言ったことはない
ネットで同じ行動をする人間がいないか
調べてみたが、エロサイトばかりが引っかかって
よく分からなかった
俺は、最近自分の感情が本当にわからないのだ
「死ぬことは恐怖なのにどうして生まれることが幸福なの?
要するにお前は、その過程の順序を間違っているんじゃないの?」
大好きなバンドの、アルバムの最後の曲が歌う
終わった頃になると、現実に戻り、何かとても空しくて
よく分からない感情に襲われる
とにかく家路に急いでいた
急ぐ理由もない気がするが、学校からできるだけ
離れた場所にいけるなら、自分としては満足だった
コツコツ。
コツコツ。
今思えば、ふと気が付いた時には遅かったのだろう
早歩きになったころには、それは確信に変わっていたから
明らかに誰かに後をつけられている
女?男?分からない
若いのか、年寄なのか
それさえも判別がつかない。
出来るだけ、ルートを変えて家に帰ろう。
今日はオカシイ。いつもに増してオカシイ。
誰か後をつけられるような理由は何もない
だが不可解ではあるが、俺の勘は間違ったことがない
それは、段々距離を縮めてくる
角を左に曲がろうが、右に曲がろうが、
それは同じ方向に進んでくる
30分くらいその存在からの逃亡は続いた
気が付いたら、自分の家どころか
全く知らない場所にいた。
俺はどこにいるのだろう?
それは予想外に急な結末だった
いきなりその存在に肩をつかまれ、引っ張られ
おかげで俺は尻もちをついてしまう
あまりに、びっくりし過ぎて、反射的に
ごめんなさい。と訳の分からない言葉が出た
反射的に存在のほうを見上げ
はっきりとその存在を確認できた
笑っていた。
幸福そうだった。
「どこに行けば良いんですか神様」
その存在は言った
「どこに行けば良いんですか神様」
何度でも繰り返すつもりらしかった
三度めの問いが終わるや否や、
俺は反射的に、近くにある大きめのコンクリート片で
その存在を、何度も何度も殴打した。
顔がめちゃめちゃになった。
気持ちが悪かったので、少し距離を置いた。
だが、まだユラユラ揺れてこちらに向かってくる。
顔面に蹴りを入れた。
倒れたところを、馬乗りになり
更にコンクリート片で、殴打した。
暫くすると動かなくなり、静かになった。
俺は血だらけで、自分の指の血も交じり、
とにかく飛び散った血液で、血まみれだった。
今気づいたのだが、そいつは左手に紙を握りしめていた。
くしゃくしゃになったその紙を広げた。
その紙にはこう書いてあった。
「心が空っぽになった。
以前空っぽの中にあった唯一のモノ。
小さい空き缶をけると、
シロがそれを追いかけて取ってきて、
缶を俺の前まで持ってきた。
何度蹴っても、同じようにしっぽ振りながら
持って来るんだ。
シロの頭をなでてやるとうれしそうに
俺のほほを舐めたっけ。
でももう缶はない。
だからシロが現れることはない。
完全に空っぽになった。
さよならシロ」
ねぇ、シロってなに?
俺は死体の髪の毛をつかむと言った
死体は面倒くさそうに起き上がると答えた
「シロ?シロは俺だよ。」
言った瞬間、世界は消えた。