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やれやれと、異世界コーナーへと向かう足取りが重い。こんな風に異世界モノが特別扱いされ始めたことにも腹が立つ。流石に神話と一緒に置くのは神話への冒涜なのではと思う。嫌悪感。
異世界コーナーは最近新しくできたコーナーで、それまで展示室として使われてきた15畳くらいの正方形の部屋の中に、いわゆるラノベと呼ばれる本が並んでいる。どうやら近頃そういった本の注文が多いのか、本の様相も他のハードカバーの文庫本と異なるので隔たれた場所に置かれたのであろう。漫画は漫画、ラノベはラノベ、絵本は絵本。異世界モノだから、図書館のなかでも異物を意識してそこに隔離してあるのだろうか。
40のおやじがこんなところに入ってくのなんて見られたくないな。
「ん?」
ドアを開けようとしたが数センチ開いたところで何かにつっかかったのか、開かない。
40のおやじがこんなところに入ってくのなんて見られたくないな。
「ん?」
何かおかしい。この光景どこかで見たような気がする。デジャブ。ドアを開け、中に足を踏み入れる。
「開いた」
何かおかしい。
ドアが開くこと自体、何かおかしい。ドアは開かないはずだ。どうしてそう思うのか。まあ、あまり気にしないようにしておこう。
既視感。
武蔵は神話コーナーの前に足を進め、じっくり眺め始める。数多くある本の中からその日の読む数冊を決めるのに時間はあまりとられなかった。選んだ本は「初めての神話」「神話の神話」「私神と」の3冊だ。今日中に読み終わらなかったら借りていこう。
「すみません」
突然後ろから声をかけられ、ビクッと後ろを振り返る。