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お前がリーフとヒルダより報告のあった、ベルと言う者か

 長い金の髪はさらさらと、歩く姿は楚々として。純白のドレスに身を包んで謁見の間に敷かれた赤い絨毯をヒールのある白い靴で穏やかに爪先から踏む。長い睫毛の目は伏せがちに、その青い瞳を僅かに覗かせる。


 真っ直ぐ正面を向いた顔の白磁を思わせる白い肌は、ドレスの色と相まって見る者に人形の印象を与えた。そして表情の無い顔立ちが近年養子となった次女を思い出させ、成した偉業に説得力を持たせている。


 座する伯爵の前で淑やかに跪くと、幾重にも連なる貴族達から溜め息が漏れた。


 ……変装と完全に付け焼き刃の指導で身に付けた所作。今のところ上手く出来てます。


 ヒルダ様の提案というのが、これだった。







 謁見は十五時の予定。それまでに所作を身に付け、変装し、参列する貴族達を欺く。上手くやり過ごせば、今後彼らに煩わされたりはしないだろう。


 そんなわけで始まった、ヒルダ様とリーフからの美しく見える所作講座。君ら乗り気過ぎない?


 僕はリーフのように凛とした雰囲気は出せないし、ヒルダ様のような溢れる華やかさも無い。なのでまた違った切り口で行く事になった。


「静かに、楚々として、淑やかにしていれば、後にランを見る機会があったとしても気付かれませんわ」


「……良いと思う」


 それからは矯正に次ぐ矯正。わりと自分が意識の外で身体を動かしてたんだなと、初めて知る事になった。小首傾げる動作も、ファリアに指摘されて気付いたっけね。


「今はこうして矯正してしまいますけれど、事が終わったら戻して下さいませ。動きの無いランなど、らしくありませんもの」


「……可愛いから好き」


 あらそう。複雑だ……。


 一番苦労したのはヒールの靴。歩き難いの何のって。何この細いヒール。


「爪先とかかとを同時に、と教えるのですけれど。いっそ爪先で歩くようにしてみなさいな。上手く行くかもしれませんわ」


「……前の膝は曲げちゃ駄目。後ろの爪先で前に進んで」


「爪先酷使し過ぎですね、これ……」


 足の指が疲れる疲れる。世の女性達はこんな靴履いて、大変だね。


「下を向きましたわよ。顔は前ですわ」


「……お腹から脚を伸ばして。真っ直ぐ姿勢良く」


 所作と動作の矯正で時間のほとんどを使い、その後は休む暇も無く化粧のために部屋へ連行される。この監修はヒルダ様。


 担当の召使いさんととにかく白く、という感じで話し合ってた。僕も白い方だけど、日本人だからそれでも肌色なんだよね。それを真っ白にする。こちらの人達の中でも白い方にまで化粧して、睫毛も長くぱっちり。でもあえて伏し目にする。これもまた印象操作のため。


 僕は目を大きく開けてる事が結構多いらしい。だから伏せる事で第一印象を変える。


 唇にも淡い色の紅を差して、鏡を見ると最早別人。さらに自前の黒髪は小さくまとめてアップに留め、金髪のかつらをかぶって固定する。白いドレスに着替えたらアンティーク人形の完成だ。これは酷い。


「表情は出さない事。よろしくて?」


「はい。リーフ様を参考にします」


「……簡単、だよね?」


 難しいよ?




 そんなこんなで、謁見に挑んだ。


「よく来たな。お前がリーフとヒルダより報告のあった、ベルと言う者か」


「……左様にございます、閣下」


 ベルと言うのは、母さんの名前から持って来た。『鈴』と書いて『りん』と読む。これを英語にしただけ。僕の名前も英語にしただけだし、単純。


 謁見自体は特別な事も無く、つつがなく終わった。魔穴を消し去った事へのお褒めの言葉と後程授けられる報奨の事、従士へのお誘いなどが話され、この謁見の後に会食するので詳しくはその時にとの言葉をいただいたところで退場となった。


 退場したらその足で再び上階へ。そちらで変装を解いて一息。


「……可愛かった。静かなのも似合う」


「所作も問題ありませんでしたわ。ランは物覚えが良いのですわね」


 魔力操作でインチキしました。二人の見本を見てたから、それを思い浮かべながらやってたよ。上手く行って良かった。


 でももうこんな事、やりたくはないね。


 留めていた髪を解いて頭皮を揉み解し……え、やって下さるんですかヒルダ様。うわお上手……。







 会食は本当に開かれた。もちろん他の貴族なんて一人もいない。いるのはリーフとヒルダ様と、他には召使いの皆さんが数人。領主様の護衛をやってる大柄な男性もいるけど、彼は壁際で静かに佇んでる。専属の護衛なんだと思うけど、物静かな方みたい。


 よく見たらわりと年配な方だ。耳はまるいから人間かな? 五十代くらいの、白髪が目立つ黒髪の人物。体格が良いのに存在感が全く無く、護衛と言うより執事と言った方が印象にはぴったりだ。服装はヒルダ様と同じ青の軍服。近衛騎士の制服なのかも。それか、二人とも襟に同じ記章があるから騎士の制服? 彼は着崩したりせず、きっちりした着こなし。


「あれはアルベルト・ボイド。俺の近衛騎士だ。ボイド家は代々セルティウス家に仕えている貴族でな。男爵の位を与えているのだが、今もこうして騎士を続けている。アルベルトは当主だ」


 紹介されたアルベルト様は恭しく一礼する。物腰丁寧そうで、素敵なおじ様って感じがするね。良いな、僕アルベルト様みたいになりたかったかも。


 赤ワインを味わいながら、領主様がにやりと笑う。


「アルベルトが気に入ったのか? 何なら今宵一晩の相手をさせよう」


「いやいやいや! けけけ結構です!」


「遠慮は要らんぞ? あれも老いたりとは言えまだまだ現役で動ける男。そちらも現役であろう」


 リーフとヒルダ様が吹き出してるじゃないか! 何て事言うんだこの人は! ああもう脳内には笑い声が響くし!


「閣下。ランは放浪者ですわ」


「ん? そうか、では無いのか。だがそれならそれで楽しみようもあるだろう。なあ、アルベルト?」


「お戯れを……」


「はっはっは。愛らしく見つめているものだからな、からかってやりたくなったのだ。許せ」


 全く、困ったお方だよ……。でも、あの筋肉はちょっと興味あるかな。正直触ってみたい。肉厚ですごそう。


 なんて見てたら、またからかわれた。


「アルベルト、ランは興味津々らしいぞ?」


「閣下……」


「若い女もたまには良いだろう? 本人が満更でもないのだ、遠慮は要らん」


「ちょ、違……」


「……ランは男性。聞いてない?」


「……何?」


「……ヒルダ?」


「あら? 忘れておりましたわ」


 おおい……。


 絶対わざとだよね!? 面白いと思って言わなかったでしょ!?




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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