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地平いっぱいに広がる町が見えて来た

 結局一番上の一本のみ、それも途中までしか探れなかった。でも、あの場所が何なのかはわかった。


「これは、『迷宮』ですわね……!」


 ヒルダ様とホークさんに動画を見せたところ、二人はそう断定した。すぐに僕を連れて宿を飛び出した二人は、衛兵の事務所を訪れて川に対する厳戒態勢を指示。次に砦へ直接向かって、砦長に動画を見せつつ説明した。


 砦長は驚き、慌てて対策に動き始める。幸い町と川は段差があり、階段を使う必要がある構造。この階段を全て封鎖してしまえば、町が直線的に襲われる事は防げる。砦側も同様で、こちらは町に比べて階段の数も少ない。応急措置としては、ひとまず充分だ。


 次にはもっと根本的な対策。この『迷宮』をどうするのか。


 迷宮と言うのは、魔物達が住み着く地下深い巣窟の事だった。あちらで言う、いわゆるダンジョンだ。トリシアにもあるそうで、プレイヤー達の良い稼ぎの場になってるのだとか。


 この川底の迷宮も利用出来るならば、ここでもプレイヤー達が稼ぎ始めるはず。そうなれば今以上に活気付き、アーシルトはさらに栄える。


 でも、僕は内心で反対だった。


 魔物の巣窟。それはまず間違い無く、混沌の領域だ。つまり魔穴と同種のものだ。大地を枯らせ荒らすものなんだ。


『だが、今のお主一人でどうにか出来るものではなかったであろう。ここは堪えて退き、強くなってから再び挑めば良い』


 ……魚人の群れにね、追い返されて逃げ帰って来たんだ。いわゆる半魚人みたいな造形の魔物がいっぱいいて、連携して銛で襲いかかられた。滅茶苦茶怖かった……。薄暗い洞窟の中で剣の光に照らされた魚の顔、顔、顔。それが一斉にわさーっと来て、次々に銛で突こうとしたり手で掴もうとしたりして来るわけ。逃げ帰る事しか出来なかったよ。


 某クトゥ〇フの怖さって、こういう事かと納得したね……。


 あ、階級自体は三とかだから、個々はあんまり強くない。いや充分強いんだけど、これまで戦って来た魔物が軒並み格上だからさあ。でもあの閉鎖空間と大量な数を前にしてみたら、遥かに恐ろしいと感じた。実際逃げ出してなかったら死に戻ってたと思う。


 まあプレイヤーだから、それで済んじゃうんだけどさ。


 ともかく、アーシルト川の探索はここまで。迷宮を発見出来た事で納得して、今日はもう休むー。仕事に備えよ。







 というわけで帰宅! そしてログイン!


 ベッドに身体を起こすと、ヒルダ様と……リーフ?


 そう言えば、ヒルダ様にこの部屋へ連れ込まれたんだった。


「おはようございます?」


「……おはよう」


「おはよう、ラン。ゲイルとレジーナも来てますわよ」


 何故二人して、ベッドに腰掛けて覗き込んでるんですかね……?


「……遅くまでいたって。大丈夫?」


「へ? ああ、大丈夫ですよ。見ての通り元気いっぱいです!」


 口止め、しておくべきだった? でも結果は話さないといけないし、無意味だね。諦めよう。


 二人の寝室を出て共有の居室へ入れば、従士三人組が待ってた。


「おう、来たな。調査結果は聞いたぜ。お手柄じゃねえか」


「おはよう、ランちゃん。体調は大丈夫? 無理はしちゃ駄目よ?」


「これで揃いましたな。リーフ様、ヒルダ様、出発の予定に変更はございませんか?」


「……迷宮は気になるけど、それで良い」


「かしこまりました」


 今日は予定通りだ。後の事はこの町の問題。任せて僕達はトリシアへの帰途を進まないといけない。朝食を食べた後、宿の人達に見送られて出発した。


 街道に繋がる通りに出ると、行き交う人の数が目に見えて増えてる。もしかしなくとも川底の迷宮のせい?


「既に掲示板じゃ話題になってんだよ。誰かが見つけたって迷宮の事がな」


「ランちゃんだって事はわかってないから安心して大丈夫よ」


 それは良かった。露骨にほっとしてると、ヒルダ様が不思議そうに僕を見ている。


「ランは、名声を得る事に抵抗がありますの? 戦争の際にもいつの間にやら姿を消していましたわね。今回もその可能性を考慮して、誰にも名前を教えなかったのですけれど」


「目立つと、面倒事ばかり舞い込みますからね」


 これまでさ、この容姿で男の子だったからとにかく目立ったんだ。良い事ももちろんありはしたけど、悪い事も多かった。そして良い事が悪い事を呼び込む事があって、結局いつも何かしら嫌な目に遭っちゃって。


 そんな事が繰り返される内に、目立たない方がずっと良いと思うようになってた。だから名声なんてのは、僕にとっては邪魔でしかないな。


「ランが望まないのであれば、そのように取り計らいますわ」


「感謝致します」


「栄達を望まないなんて、謙虚なランらしいとは思いますけれど。わたくしとしては粗略に扱うようで不本意ですわね」


 気にしないで良いのに。


 あっと、そうだ。ちょうど思い出したし、話変えちゃお。


「ところでヒルダ様。お借りしていた魔道具ですけど」


 返しながら話す。


「これ、水中呼吸ではありませんでしたよ。呼吸を不要にする魔道具でした」


「何ですって? 呼吸が要らなくなりますの?」


「水中限定ではないので、多少使い易いかと思います」


「そうでしたのね。感謝しますわ」


 受け取ったペンダントをまた胸の谷間に仕舞い……だから何てところに入れてんのさ。


 見事に話題を逸らせて、それからはたわい無いお喋りに興じた。







 アーシルトを出ておよそ九時間近く。地平いっぱいに広がる町が見えて来た。エーテルの向こう側からゆっくり現れるそれこそがトリシア。ランドバロウ伯爵領の中心となる領都。広い荒れ地の中に作られた、メリアー大陸入植時の最初に築かれた都市。僕が目的地と定めた、この旅の終着点だ。


 とうとう着いた。そんな感慨が湧き上がる。御者台と繋がる小窓に張り付いて、その巨大な都市に目を釘付けられた。


 町の外側には防壁が無い。中央を広く覆うようには存在していた。これは、トリシアが未だに成長を続けているためらしい。防壁の内側だけでもマリシエントより大きく、それでも拡大が止まらず溢れ出してしまった。そしてそれは今尚続いている。そのために、新たな防壁の建築は見送られているのだとか。


 代わりに多くの防衛戦力を各地に配置し、治安も兼ねて整えているそうだ。それで今のところ問題は起きていないという。


 プレイヤーが来るようになってからは、治安はさらに良くなったらしい。魔物は狩られるし、悪さをする不届き者も率先して止めてくれる。一部悪行に走るプレイヤーもいるけれど圧倒的に少なく、そしてそういった者達へもプレイヤーが動いて対処する。


「日本人ってのはよ、基本的には善良なんだろうなって思うぜ。特にゲームなんぞに慣れ親しんで、物語の主人公達を見て来てる連中はな。その主人公になれるってわけじゃねえが、あっちじゃあり得ねえ能力が使えるだろ? だがそれで悪さするかっつったら、案外出来ねえもんなんだよな。むしろ力を持ったら、困ってる奴らを見過ごせなくなるっつーか」


「クエストみたいですもんね。突発的にクエストが発生しようものなら、ゲームやってる人程放ってはおけませんよ」


「そういう奴が、多かったんだろうな。受け入れられるのは早かったぜ」


「君達放浪者に助けられる者が多かったのだ。突然現れた異世界よりの客人という事で混乱も大きくはあったが、放浪者は本当に善良だった。助けられる事ばかりでな。我々としても気付けば受け入れていたという程、自然に打ち解けていた。異世界の存在ではあるのだが、今となってはともにこの大陸を開拓する仲間。心強い限りだ」


 ゲイル達初期のプレイヤーが頑張った結果なのかもね。確かに日本人は義務教育があって、生活環境もそう悪いものじゃないから悪逆非道の人間に育ち難い。でもそれだけじゃないと思うんだ。


 これはゲームだから、ゲームの世界で実在しないから。そんな考えで何をしても良いだなんて思う輩は極めて少数であってもいたはず。さらには何もかもを承知の上で悪に走るプレイヤーも。


 そういった悪人のプレイヤーが暴れる事に対してしっかり対応したから、こちらの人々の抱く悪い印象を払拭出来た、悪い印象に定まってしまうのを防げた。


 それは間違い無く、初期のプレイヤー達の功績だ。


 僕もその頑張りを無駄にしないよう、善良なプレイヤーの一人として振る舞わないとだね。まあ、要は普通にしてようって事だけども。


 常識的な振る舞いを心がけていれば、まず問題は起きないから。







 その後馬車はトリシアの東通りを抜け、防壁にある東門をくぐり、さらにその内側中央にある防壁に向かう。内側を第一防壁、外側を第二防壁と呼ぶそうで、第一防壁の内側は貴族地区なのだそうな。


 馬車はそこへと入って行く。慌てて服をシルクのワンピースセットに着替えた。髪を手早く整え……と思ってたらレジーナさんが櫛を通してくれる。


 すっごいお上手なのか、気持ち良くて思わずうっとり。


「あ、ありがとうございます……」


「どう致しまして。ランちゃん、髪が綺麗だから触り心地が良いのよ。それでつい、ね」


 照れる……。


 それから馬車が停まると、僕達はそこで降りた。目の前に聳えるのはお城。見上げて、その立派な姿に呆けた。


 これ、王様の城じゃないの?


「ランはリーフ様の客人として、わたくしが預かりますわ。あなた達三人の任務はここまで。馬車を片付け次第隊舎に戻りなさい」


「もう時間も迫ってるしな。そっちもあんまり、ランを夜更かしさせんなよ?」


「そうですわね。今日のところは……」


「含み持たさないで下さいません!?」


 従士三人は笑って、ここでお別れとなった。またの再会を約束し、去って行く馬車を見送る。


 それからお城の中に案内されて、今夜は客室に泊めてもらえた。すぐにログアウトしたけど。


 明日ログインしたら堪能させてもらおっと。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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