目論んでた事が出来たので、お披露目です
さてさて、まずは試すでしょ。
グリズールが使っていたのを思い出しつつ、手を前に差し出す。そしてそこに盾の発動を……っと、出た出た。ぺたぺた触ってみると、やっぱり動かない。しっかり硬いから盾としての信頼性は確保出来てるね。
魔力消費は小さな盾なら無し。これは魔導器による魔術と同じみたい。大きさは直径三十センチ程度。グリズールみたいに二つ目は作れなかった、残念。何でだろ? まあでも充分か。防御手段を手に入れられたんだから。
ところでこれ、魔力操作出来ないかな? そう思い付いてやってみると、すすすーっと動く。
『ほほう。これならばあやつのように、使う度に足を止める必要など無いな』
素晴らしい。普通の盾と同じように使えるじゃないの。それどころか、浮いて動く盾だよ。しかも相手には見えない。色々使えそうだ。
例えば走り込んで来る敵の前に配置するとか、真横から叩き付けるとか。しかもその時に横向きにしたら? 痛いよねー。ふっふっふ……。
『お主は本当に、ようもそう簡単に思い付くものだのう』
いやいや、現代に生きる日本人ならこれくらいは朝飯前でしょ。
『恐るべきは日本人であったか』
実際、ゲームやら漫画やらで色々描かれてるからなあ。そういうのに親しんでる人程、こういう事考えるの得意だと思う。
まあ、何はともあれ完成した。そろそろ合流しよう。リーフももう来たみたいだし。
腕輪はインベントリに仕舞い、サロンで合流した。時間的にはまだ昼になってないので特別遅れたという程でもない。軽くお昼を食べたところで、僕達は出発の時を迎えた。バルディア様とメリダ様が見送ってくれて、馬車はゆったりと動き始める。
ヒルダ様とメリダ様のわだかまりは婚姻の話が決着したところで少しは解消されたようで、ヒルダ様の方から歩み寄りがあったらしい。
「お父様をよろしく頼みますわ、お母様」
そう声をかけられたメリダ様の目に、じわりと滲むものがあった。
何の事は無い。無理に婚姻させようとして来るメリダ様を疎んじていただけで、母親としては認めてたんだ。泣きそうな顔を何とか笑みにするメリダ様に、柔らかく微笑むヒルダ様。絵になる二人を大男が抱き締める。
やっと家族らしい姿が見られて、ほうっと思わず溜め息が漏れる。貴族と言えども家族は家族。また離れる事にはなるけど、今度帰る時はヒルダ様も嫌そうな顔をしないで済むね。
心温まる三人の姿を見て、たまには親のところへ顔を出そうかなんて思ったりした。
しばらく会ってないのよ……。
町を出て走り始めた馬車は快調に進んで行く。その道中で、御者台からゲイルが僕に声をかけた。
「そう言やよ。ログインしてしばらく何やってたんだよ?」
あー、聞くのそれ? どうしようか、話しても良いんだけどさ。
まあこの五人なら、良いか。インベントリから腕輪を直接装着した。すると目敏く気付いたのはヒルダ様だった。
「あら、報奨に渡した腕輪ですわね。よく似合って……それは!?」
「目論んでた事が出来たので、お披露目です」
「まさか……まさか魔道具ですの!?」
「何ぃ!? まさかお前、魔道具作れるようになったのかよ!?」
「すごいじゃない!」
「魔道具の作成は魔術ギルドの秘奥のはずだが、それを自ら見出だしたのか……?」
「……綺麗」
女性三人が僕の腕に集まる。御者台の二人も小窓から注目していた。
ファリアが知ってただけで、僕が自分で作れるようになったわけじゃないからなあ。彼女の存在は明かせないし困った。
「お前はまた、とんでもねえな! どうやったのか聞いても大丈夫か!?」
「随分食い付きますね」
「当たり前だろ!」
「魔術ギルドに頼むと、高いのよね」
「独占しているからな。自然とそうなってしまうのだ」
「閣下も苦心されてますものね……」
「……安いと弱い」
切実だなあ……。
とりあえずこの六人での秘密って事で頼んだ。でも、これはむしろ推奨だった。
「既得権益を侵害すると、やべえ事になるからよ」
「魔術ギルドも大きな組織だ。最悪は暗殺者の可能性まで考慮せねばならん」
「そこまでですか!?」
「利益が莫大のはずなのよね」
「富んだ者は、より富もうとしますわ。特に志を持たない者は」
あちらでもよく聞く話過ぎて、容易に想像出来る。
それじゃやっぱり、個人的に作って使うくらいしか出来ないね。
「魔術ギルドのと、どっちが出来は良いんだ? ……つっても、お前はそれしか持ってねえか?」
「ですね」
「比べるにしても、それなりの物じゃないと判断出来ないわよね。それこそ、数万イルするような」
一つで数万イルか……。いや、きっと余程の物なんだよ。
「どんな物です?」
「あー、あれだ。レジーナ、ロンデルの奴が持ってたのはどうだ?」
「あれは確か、三万イルって聞いたわ。筋力強化のネックレスよね」
「あれが三万か。階級三、魔力量六だったな」
「百狼隊の隊長でしたわね。さすがに良い物をお持ちですわ」
魔力量六……僕の作ったのは、ははは。これはまずい。
「えっと、それって素材は何ですか?」
「確か金だな」
「では、そのせいかもしれませんね。この腕輪はミスリルで、魔力量十二ですから」
「あー……そうか、お前は魔力がわかるのか。じゃあ、マジだな……」
「その魔石は、あの悪魔の物ですわよね? 階級は幾つでしたの?」
「グリズールは五ですね」
「では魔術の階級は四ですわね……」
「階級の半分端数切り上げで、一を足しますからそうなりますね」
「これ程の物、魔術ギルドであれば十万は付けるかもしれん。いや、そもそもミスリルとは言え魔力量が十を越えるなど聞いた事も無い。ランは、凄腕の魔道具職人だな……」
ミスリルのせいじゃなかったか……。
いきなり静まり返ってしまった。
最終的には、やっぱりこの事は誰にも話せないとして結論付いた。何処から漏れるとも知れず、その結果どうなるかも予想出来ない。
そっと僕達の胸の中に仕舞い込んで、僕が個人的に作る程度で済ますべきだとして話は終わった。
「そいつも普段は外しとけ。何処の誰が識別しやがるかわからねー」
「そうですね、仕舞っておきます」
残念だけど、使う時だけ付けよう。インベントリで着脱出来るから楽だし。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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