属性剣を使いたかったからですよ
こちらからの疑問として、魔導器や魔術について聞いた。それによると魔導器は階級四で、魔術は階級三と五で一つ増やせるそうだ。
魔導器については、増やすのではなく強化する選択肢もあるらしい。単純に性能が向上するから、基本的には強化する方がお勧めだという。でも、ゲイルは重鎧を選んでるね。
「魔導器の防具は一式なんでな。金がかからねえ。そんで基本的には壊れねえ。性能も良い。前に出て暴れるにはお誂え向きなんだよ」
「見たところパワー型の能力値と技術でしたし、確かにそんな防具があったら飛び付きますね」
護身の技術で防御したり受け流したりして、反撃の技術で手痛いカウンターを決めるわけか。強そう。
ついでにこちらの技術の事を相談してみたけど、反応は難しそうだった。
「魔力操作で戦う事になるんだよな? つーと魔導器を操作しながら振るのか。剣の技術は、もしかしたら要らねえかもな。お前が使いこなせるかわからねえけどよ、技術のアシストが無え方が魔力操作を邪魔しねえで済む。だがこれは、魔力操作で正確に剣を使えればの話だ。自信が無えなら、取っちまった方が良いと思うぜ。もっと言えば、キャラの作り直しを勧めるんだがよ」
魔力操作は、魔導器を操作して戦う程度の事しか出来ないらしい。そのため、使ってるプレイヤーはほぼいない。むしろ何でこれを選んだのかと聞かれるくらいに、選択肢からは外れてしまう魔術だったみたいだ。
「何でって、属性剣を使いたかったからですよ」
「阿呆か……」
酷い。
「でも、刀身を飛ばして戦ったり出来るんですよ!」
「ほー、そうなのか。だがな、飛び道具なら弓だのクロスボウだの他に色々あるだろ?」
「そちらでは接近戦出来ないじゃないですか」
「あのな。一人で戦うつもりかよ? 器用貧乏がこういうゲームじゃ一番求められねえって、お前もわかってんだろ?」
ぐうの音も出ない……。
戦闘に限った話ではあるけど、剣を選ぶなら接近戦を前提とした魔術にするべきだったんだろうね。遠距離戦なら当然そもそも射撃武器を選ぶ。さらに言うなら補う武器を買って済ます事も出来た。
つまり魔力操作は、戦闘向きじゃない魔術だったわけだ。
と言っても、今のところ他に何が出来るのかわからない。剣なんて戦闘でしか使えないような魔導器を選んでしまった以上、使いどころは戦闘になる。なのに戦闘向きじゃない魔力操作が僕の魔術だ。色々失敗してしまってるんだね。
でもキャラクターを作り直す気にはならないかな。気に入ってるし、ファリアの事もある。作り直した時、またここに来られるとは限らない。もし来られなかったら?
自然なNPCを謳い文句にしてるなら、その挙動や状態は維持されるはず。つまりその時ファリアは、ここに一人残されるんだろう。封印は解けたから以前よりマシと言えるけど、置き去る事に違いはない。そんなのは嫌だからね。
幸い階級三になれば新しい魔術を取得出来る。それまで頑張れば良いだけの話だよ。
「ま、作り直す気が無えならそれでも構わねえ。俺が何とかしてやるからよ」
おー。漢らしい台詞だ。
「お世話になります。お礼に熱い抱擁を」
「そういう冗談は女に生まれ変わってから言いやがれ」
「女性だったらゲイルは既婚者ですからねえ、出来ませんよ」
男同士だから許される事もあるわけで。
ゲイルの奥さんはお綺麗らしいよ。会った事無いから本当かどうか知らないけども。趣味の時間を一日二時間から三時間程度許してくれるという理解あるお方だそうな。
子供はまだいないって言ってたかな。出来たら是非とも抱かせていただきたい。
それで、技術だよ。話逸れちゃった。
「そうだな……。その筋力じゃ重装備なんて夢のまた夢なんてレベルじゃねえしな、回避辺りはどうだよ?」
「防御手段ですね?」
「おう。それか軽業だろうな。回避に関してなら、軽業を取って自力で出来るようになっちまうっつー手もあるからよ。反応出来る奴が取るには、かなり良い技術らしいぜ」
出来るようになる、と来たか。大変だろうけど、自前で出来てしまえば多少厳しい体勢を取る事になっても動ける軽業の方が有効って事か。なるほどねえ。
後は、僕のやりたい事次第だそうだ。それはそうだよね。生産系の技術で物作りとか探索系の技術で偵察とか、色々選択肢はあるんだもの。
とは言え魔物との戦闘は視野に入れておいた方が良いらしい。
生産系技術で遊ぶのだとしても、いきなりそれだけでやって行ける程甘くはない。物作りには材料が不可欠で、それを手に入れるには買うか自分で用意する必要がある。でも始めはお金なんて幾らも持ってないし、そんな資金で始めたって軌道に乗るよりも早く頓挫する。だから自分で採集するなり狩りするなりしなければならないんだ。となれば、戦闘は避けられない。
それに四倍速という時間の流れが、町で普通に生活する事を難しくしてる。
僕達は普通仕事だったり学校だったりがあって、ログイン出来る時間が限られてる。けどその間もゲーム内の時間は流れてるんだ。僕の生活リズムで言うなら、ログイン出来るのは基本夜になる。二十一時から二十三時の二時間程が、大体使える時間だ。
これって、こちらには四日間で八時間しかいられない計算になるんだよね。例えば酒場や商店などで雇ってもらうとして、その程度にしか働けない人材が喜ばれるはずない。
そんなわけで僕達プレイヤーは、普通の仕事が出来ない。そうなると一番楽なのは魔物を狩る事。魔物から得た素材を売る稼ぎ方が無難なんだ。
「だからその前提でいた方が良いぜ」
「それなら軽業を選んでみましょうか。身のこなしを向上させる技術なら、攻めるにも使えるかもしれませんし」
アクロバティックに戦えたら格好良いし、属性剣は軽いから邪魔にもならない。自前の反射神経で対応出来るか不安は残るけど、それは場数を踏んで鍛えたら良い。
それに軽業なら、戦闘以外でも使う機会はあるかもしれないしね。戦闘でしか使えない技術はつまらない。
そんなわけで、軽業取得!
軽く身体を動かしてみるとかなり身軽に感じられて、試しにやってみた側転やら後方宙返りやら前方転回やらがあっさり出来てしまった。
元々身体は柔らかくて、身体を反らして手を突いたり脚を百八十度広げたりは出来るんだけど、それがゲーム内でも適用されてた。そこへさらに体操選手のような自在さが軽業によって適用された。結果、そんな事も簡単に出来てしまう身体能力へと繋がった、というわけ。
これは楽しいぞ。
ああでも、持久力の消費が結構激しい。自動回復は早いけど、数秒で全快したりはしない。困憊寸前から全快までは結構かかりそうだ。
「おう、ぎりぎりまで持久力減らしてどうした?」
「ちょっとはしゃぎ過ぎました……」
「軽業が楽しかったか? 取った奴は最初、大抵そうなるな。気持ちはわかるぜ」
楽しいんだもの、仕方ないよね。自分がそんな動き出来るようになるなんて、現実ではなかなか難しいからさ。
でもこれを戦闘に組み込むのは結構難しいな。しっかり練習して、使いこなせるよう頑張ろう。
アクションゲームみたいな動きをやってみたい。具体的には某闇魂の暗い木〇指輪みたいな。無敵時間は発生しないだろうから注意だね。
ゲイルとのお喋りもここで一段落。出口を探さないといけないから探索開始だ。
「何かあったら言えよ。今日はのんびりしてるつもりだからよ」
なんて言って、パーティも組んだままでいてくれる。本当に面倒見が良いんだから。
このゲーム、ASについては知らない事ばっかりだし嬉しいね。遠慮無く頼らせてもらおっと。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 二
筋力 六
敏捷 一三
魔力 一五
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作
技術 看破 軽業
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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