恐らくは名前にある通り、風の盾であろうよ
そう言えば、まだ日曜なんだよね。夕方って事は、あちらは二十二時過ぎから半ってところかな。明日からまた仕事だから、あんまり遅くなりたくないなあ。
さくっとは倒せないと思うけどさ。
グリズールは悠然とこちらに歩いて来る。近付けたくはないから、刀身を連続で飛ばした。一つ、二つ、三つと撃った刃はグリズールの前で何かに当たって砕ける。見えない何かがそこに現れていた。
そこにあるものについてはすぐにわかった。魔力感覚のおかげだ。
『円盤のような物が浮いておるな。これは盾か。恐らくは名前にある通り、風の盾であろうよ』
目に見えない盾だ。何の情報も無かったら面食らったろうね。
「ふ、無駄だ。そのような稚拙な力、我には通じぬ」
稚拙だって。酷い。気に入ってるからいいもん。
「風の盾ですか。脆そうですけどね」
「む! ……よくぞ今の一度で見抜いた。目は良いらしい」
目はそう言えば、長年ゲームを趣味として来たわりに悪くならなかったな。特別良くもなくて、普通だけど。
近年は結構目の悪い人が多いように思うけど、どうなんだろ。僕の回りだけ? 携帯端末が当たり前になって皆使ってるからその影響かな、なんて勝手に思ってる。
普通の水準が下がって相対的に良くなってる、なんて事かもしれない。
『呑気な事を考えておるものだの……』
戦闘中だったね。
もう少し攻撃して、様子を見よう。続けて飛ばしまくる。これもさっきと同様風の盾で防がれてしまった。特にひびの入るような気配も無し。普通に飛ばしたんじゃ、破壊は難しいかもしれない。
それに一回一回作ってるみたい。盾のダメージが蓄積しないね。魔術を消費無しで使うのに似てるのかな。消費するならこういう運用はしないはずだ。
こっちも消費無しの魔導器による攻撃だし、それなら防ぐのも簡単か。
でも現在の魔力量は九点。あまり無駄には出来ないし、盾の破壊より直に当てる事を考えた方が良いと思うんだ。どうせ破壊したって、また作り出されるだけだしさ。
そうなると、遠くからぺちぺちやってても仕方ない。接近戦で盾を回り込み、一撃を当てる。そんなやり方が正しい。
……そうは思うんだけど。多分、この悪魔は機敏だよね。あちらからの攻撃をかわし切る自信無いよ?
『ならばやはり、盾を破るしかあるまいな。幸いな事に、恐らくあやつ自身はお主と同じく、あまり強靭ではないように見える。その証拠に、ただ飛ばしているだけの刃を律儀に全て防いでおる』
あー。当たったら痛いんだ。そっかそっか。それなら破ると同時に撃ち込めば大ダメージになるんだ。よし、それで行こう。
とは言え、ばれたらもっと硬い盾を使われちゃう。そしたら破れなくなる。ばれないように、またこっそり圧縮しなきゃね。今はもう簡単に出来るけどさ。刀身を牽制に何発か放ち、最後の一発の後に圧縮した刀身を生成。これで圧縮した事はばれない。
これも流れのままに撃つ。そして直ぐ様短剣にまで圧縮して、続けて撃つ。一撃目が盾に当たって爆発し、盾は砕けた。直後に飛ばした短剣は見事にグリズールの胸へ吸い込まれて命中、そこで爆発を起こす。
連続した想定外にグリズールは吹き飛び、荒れた地面へと激突した。魔力感覚はまだ生きている事を伝えてる。追撃しなきゃ。
急いで三発目、二点の魔力で剣を放つ。刀身は突きの形で素早く飛んで炸裂。けど、間に合わなかった。
『盾が間に合ったか!』
風の盾の向こうで、ぼろぼろになったグリズールが立ち上がってる。惜しい。
「貴っ様あ……! このような手を隠し持っていようとは!」
グリズールは盾の向こうから出て来ない。その盾もひびが少し入っている。でも僕には破る手段が無くなってしまった。魔力量は残り一点。これ以上は使えない。
さて困った、どうしようかな。今のぼろぼろのグリズールなら接近戦も出来るかもしれない。挑んでみようか。
たん、と音を立てて踏み込んで跳び、盾とグリズールの頭上を伸身で越える。ムーンサルトのようにひねりを加えて向きを反転、着地と同時に剣を振り下ろした。がんと強い手応え。音が鳴り、風の盾で防がれた事がわかる。けれど、ひびの入った盾はそのまま同じ位置にある。別に盾を作ったようだ。何で?
疑問には思ったけど、今は反撃を避ける。両手の爪が振り回されて二連の攻撃が間断無く、予想以上の素早さで繰り出された。
受けたダメージに顔を歪めながら、僕の服と皮膚を浅く切り裂く。何とか直撃は避けてるものの、接近戦はやっぱり厳しそうだ。一旦離れて仕切り直す。
『根性あるのう』
だねえ。嫌いじゃないなあ。
……そうじゃなくて。このままじゃ攻め切れないよ。やっぱり速い展開の接近戦には全く付いて行けそうにない。シュテンの方が戦い易かったくらいだよ。あちらはタフ過ぎで倒せなかったけども。
生命力は……二点持って行かれた。思ったより浅く済んでる。でもこちらの剣は防がれて、接近戦の収支は完全に真っ赤。くそう。
「腕は未熟のようだな。何故わざわざ近付いた? くくく、当ててやろうか。貴様、魔力が尽きたのであろう?」
ばれた。
グリズールはぼろぼろの身体に鞭打って駆け出した。僕も逃げるように走る。そして牽制に刀身を放つ。これを盾で防ぎ、再びグリズールは僕を追った。
そんな事を繰り返すけど、変だ。何で盾で防ぐ度に足を止める? 衝撃に耐えるためとは考えられる。でも受けた時、盾はほとんど動いてない。それだけ衝撃が少ない?
嘘お。かなりショック……。
『そのような事があるか。あれでも魔物を斬れる程度に威力はあるのだ。全く衝撃が無いなど奇妙な事だぞ』
それもそうだった。さっきだって二匹倒したじゃないのさ。
だとすると、風の盾の能力? 立ち止まって防ぐのに関係がある?
『ふむ……。そもそも何故衝撃を全く受けていないかのように防げるのであろう?』
確かに不思議だ。手をかざして、そこに盾を作って防いでいるけど、その腕に衝撃の伝わった感じが一切無いんだ。盾か微動だにしないし……。
まるで固定されてるみたいだ。
『……まさか、そういう事か? 大気の中にある事で固定しておるのか?』
え? でもそれだけじゃ無理じゃない? 周りの空気で固定しても、引っ張られたら簡単に動くよね?
『恐らくは概念だ。盾という物の概念、守るための物である事が鍵なのだ。風の盾というあの力は、大気の中にあって守る力を最大限に発揮するのであろう。そのためには、作り出した位置から動いてはならない。動くようでは守れぬからな。そうして衝撃を後ろへ通さぬ代わりに、動く事を捨てた。そのような力なのだと、我は考えたが』
おお……。なるほど、魔法っぽい。物理的な考え方だけじゃ駄目なんだ。その意味合いとか役割とか、内包してる様々な要素が力を作り上げたりするんだね。
これは難しいぞ……。
まあでも、からくりはわかった。足を止めないといけない限り、僕は追い付かれないって事ね。今みたいに。
「おのれ、小癪な……!」
追いかけるには、絶望的に向かない能力だよなあ。
どうしよう、すごく不憫……。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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