おい馬鹿名乗れ
「同行するに当たって、我はお主の中に隠れていようと思う。四神に気取られると面倒だからのう」
「そんな事が可能なんですか」
「うむ。早速入ろうと思うのだが、良いか?」
四神と言うのが、彼女を封じた四柱の神々の事かな? 見つからない方が良いのは理解出来るし、拒否する理由は無いね。
「はい、どうぞ」
そう答えれば、彼女は艶然と微笑んだ。小首を傾げているといきなり顔が近付けられ、そのまま柔らかなものが唇に触れる。さらに抱き竦められて頭の後ろへと手を回された上に、内側へと侵入されてしまった。撫でるように差し込まれ、ねっとりと絡められ、水の音が聞こえる程濃密に、された。
突然の事に何もかもが吹っ飛んで思考停止する。そうしてされるままを許したものだから、たっぷりと時間をかけて味わい尽くすように続けられた。
触れ合う柔らかな感触、込み上げる得も言われぬ感覚、手で触れられて掻き抱かれる激しい抱擁。熱で浮かされるようにして脳まで蕩けさせられて、抗う意識なんて一欠片程も頭に浮かばない。
気付けば押し倒されて身体を重ね、その手が着ている服の内側に這わされていた。波のように押し寄せるものがあって、その未知の体験に思わずか細い声を鼻から漏らす。そして途端に恥ずかしくなり、それで何とか理性を取り戻す事が出来た。
「ちょ、待っ……何してんですか!?」
「ふふふ、心地良かろう? 遠慮は要らぬ、最後まで楽しませてやろう」
「けけけ結構です!」
このゲームはR十五指定だから、さすがにそこまでは出来ないよね? NPCから誘っておいてアカウント停止とかは無い?
まあそういうつもりでゲームやってないし、どちらにしたってお断りだけども!
「うぶだのう。くっくっく……。ならば今はここまでとしよう。内に宿る支度は整った。邪魔するぞ」
そう言ってもう一度口付けすると、ファリアは全身が薄れてそのまま消えてしまう。
直後、彼女の慌てたような声が聞こえた。
『な……何だこれは!? お主、ぼろぼろではないか! 何故このような事に!?』
ぼろぼろ? 中が? どういう事?
『……まさか、我を助けるために……? あの鎖を斬ったせいでこのような事になってしまったのか……?』
「話が見えないんですけど」
『あの鎖は四神が我を封じるために作ったもの。存在を束縛して石に変えるよう混沌の力を加工して鎖とした、神にあるまじきおぞましい呪物。その力は、人の身には強過ぎる。お主はその力に身をさらして、長く受け過ぎてしまったのだろう。自身の存在が危うくなる程にな』
「では、僕はどうなるのですか?」
『このままでは魂の崩壊による消滅を待つのみであろう。だが、それは我が何とかする。幸い我はこの道の専門家よ。権能を奪われ封じられはしたが、だからとそれまで積み重ねた技術が消え失せるわけではない。安心して良いぞ、すぐにでも修復してみせよう』
そういう設定? 何かストーリーでも展開して行くのかな? 本筋とは違う裏側ストーリーとか!? 大好物です!
ともあれ、その件はお任せした。早速作業に入ってくれるそうだ。
僕は端末を弄ろう。友人と連絡を取りたいし。
そんなわけで端末を見ると、チュートリアル終了の文字があった。続いて、街への転送を開始する許可を求められる。
なるほど、ここはチュートリアル用の場所だったわけか。了承をぽちっと。
………………何も起きない。
おのれ、やっぱりチュートリアルがおかしくなってる。となると自力で出なければならないわけだけど、チュートリアル専用の空間だったら、出口なんて無いよね?
大丈夫なのかな……。
さて。ひとまず友人に連絡しようか。
ゲーム内ではIDを使って連絡する事が可能だ。彼のIDは既に聞いている。これを端末にあるSNSの機能に入力すれば良い。彼のIDは『〇一三五FE〇一二二』。ここにメッセージを送っておけば、今はログインしていなくとも後で返事があると思う。
「もしもーし。僕ですよ、僕」
「おい馬鹿名乗れ」
早っ。
ゲイルと言う名前の人物から素早い返信があった。強風とか疾風とか、そんな意味の英単語だっけ?
「とりあえずフレ登して、だ。お前今何処にいる?」
通知にフレンド登録申請が来た。許可して登録完了。
現在地は地図から確認してみた。
「今は『追放の玄室』と言うところにいますね」
答えると、返事が途絶えた。少し間が空いてから文字が流れる。
「いやいや、何処だよそれ? そんな名前の場所は聞いた事無えぞ」
「そう言われましてもね」
「わかった、ちょっと待て。パーティーに誘う」
このSNSの機能を使えば、表示される相手の名前を長押しする事で出せるメニューから仲間に誘えるらしい。試してみればパーティ加入だとか勧誘だとか、フレンド登録だとか色々表示された。ステータス閲覧の許可を頼む事も出来るみたい。
パーティーへのお誘いが来たと通知領域に表示された。ささっと開いて承諾。そしたら専用のチャットルームが利用出来るようになった。そちらにメッセージが来る。
「マジかよ」
「マジですよ」
確認出来たらしいね。
「お前、大陸地図は確認したか? 中央にいるじゃねえか」
マルチタスクの機能を使って画面を上下に二分割して地図を表示。切り替えて大陸地図を呼び出すと確かに僕は大陸の真ん中にいた。
一方でゲイルは大陸の西端、トリシアと言う場所にいるみたいだ。遠いぞ。
パーティメンバーの位置はこれで確認出来るわけね。便利便利。
「通常、チュートリアルの後は何処に行くんです?」
「俺がいるトリシアだな。お前は何でそんなとこにいるんだよ?」
「スタート地点ですけど」
「……バグ、かあ?」
それっぽくはないけどね。
通常のチュートリアルについてもう少し聞くと、どうやら本来はキャラクターを作ったあの白い空間で行われるものだったらしい。
「そこで魔術の属性に合わせた神から話を聞きつつ、チュートリアルを受けるって流れなんだが」
「神様なら会いましたよ。旧神のナルラファリアですけど」
「知らねえな……」
まあ、旧神だしね。設定上だけのキャラクターか話が進んでから名前が出て来るとか、そんなところでしょ。
「何でそんな事になってんのか、原因はわかるか?」
「いえ、全く」
「だろうな。ステータスで何かわかんねーか? こっちでも見てえところだが……」
「別に構いませんよ?」
許可して見せた。その代わりに彼のを見させてもらう。
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名前 ゲイル
種族 人間
性別 男性
階級 五
筋力 二〇
敏捷 一四
魔力 一〇
魔導器 大剣 重鎧
魔術 風波 風壁
風刃
技術 剣 挑発
護身 反撃
抵抗力
ID 〇一三五FE〇一二二
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強っ。
いわゆるレベルに相当する階級は五だ。筋力が高い。僕の三倍以上だ、とほほ。敏捷も僕より高い。魔力は低めという感じなのかな。平均がわからないから何とも。
魔導器も魔術も技術も多い。技術は階級と同じ数だけ習得出来るってキャラクター作る時の説明にあったけど、魔導器と魔術も増えるんだね。これは楽しみだ。僕も早く色々覚えたいな。
「お前、筋力六て。まあ、リアルでも貧弱そうだったからな、妥当だ」
「余計なお世話ですよ!」
「あー? 能力値おかしくねえか? 階級二の能力値合計は三十二のはずだぞ。二ポイントも高えじゃねえか」
言われてみて確認すると、魔力が十五になってた。何でだ?
「あれ、増えてますね。何ででしょう? 魔力は十三でしたよ?」
「お前がわからねーんじゃなあ。……おお? 恩寵って何だ? これのせいか?」
「あら本当ですね。納得です」
「心当たりはあるかよ?」
「僕の事を気に入っていただけました」
「このゲームのAIは、恐ろしく自然だからな。気に入られれば能力値が増えるってわけか。そうなると俺の方は、気紛れなオルトマを選んじまって失敗だったかもなあ」
オルトマと言うのは、風と精神の神らしい。気紛れな神なんだね。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 二
筋力 六
敏捷 一三
魔力 一五
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作
技術 看破 【取得可】
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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サブタイトルに深い意味はありません(笑)。
友人の発した最初の言葉って事で。
本日の更新は以上になります。読んでいただきありがとうございました。
明日の元旦にも五話を投稿する予定ですので、引き続きよろしくお願い致します。
モチベーションが段違いですのでブックマーク、ポイント評価などをしていただけると幸いです。