行けそうだったら、突っ込んでも構わねーんだろ?
斥候兵が戻って来た。
道程はまだ半ばに到達したかしていないかという辺り。そんなところに斥候兵が帰還して来た。そして、魔物の軍勢が動き出したと報告された。
兵士達はざわめき立つ。
「ならばここに陣を敷きましょう。戦いに備えて休息を取らせなさい」
ヒルダ様が指示を出し、各部隊へ通達されて行く。兵士達は訓練通りに陣を整え、それから食事などの用意を行って行軍の疲労を回復させる事に努めた。
プレイヤー達にも連絡が行って、そちらも同様に休息を取り始めた。
兵士達はいよいよ戦争が始まるとあって戦々恐々とした様子。一方プレイヤー達はと言えば、空気が違った。彼らにとってはゲームでしかない。オンラインゲーム内のイベントの一つ、ちょっとしたお祭り。そんなものだから笑顔は絶えないし、緊張感なんてまるで無い。
そこに、少しばかり溝を感じた。
本陣として立てられた天幕にはヒルダ様とホークさんとゲイル、それと兵士長らしき三人やプレイヤーらしき三人が集まっていた。中心に置いたテーブルの上へ紙を広げ、そこにチェスの駒のような幾つかを並べての作戦会議だ。
リーフとレジーナさんの姿もあるけど集まりからは離れてる。僕も会議に参加するつもりなんて無いし、二人のところに混ぜてもらった。
会議は白熱、なんて盛り上がりは特に見せていない。淡々と情報の確認を行って、それぞれの担当や動きのすり合わせを進めてる。それによれば兵士の部隊を中央に広く配置して、プレイヤーの部隊に両翼から攻め上がらせる作戦みたい。従士は各自で得意分野が違うという事から、一括で何処かに配置するという運用にはなってなかった。
ゲイルは戦闘向きの従士を率いて中央を守る事になるらしい。何気に重要なポストにいるの?
「ゲイルはね、初めて従士になったプレイヤーなのよ。階級も現状で一番高い五だし、ゲイルが率いるなら誰からも不満が出ないの」
「そうなんですか」
従士一番乗りだったんだ。それじゃ、プレイヤーの従士をまとめる役割にいたりして?
ところで、何故レジーナさんが得意げ? 可愛いんだけど。
ちなみに所属は第三従士隊らしい。隊長はホークさん。トリシア離れちゃってて大丈夫なのかなと心配したら、副長がいるから大丈夫なのだとか。どちらにしろヒルダ様の指名だから断れないらしい。
ホークさんもそうだけど、この副長さんもこちらの人。でも他の第三従士隊隊員は皆プレイヤーだって話だ。そして今ここに来てる従士は、皆この第三従士隊。第一、第二の従士隊は今頃こちらに向かってるところだろうとの事。増援と一緒に来るわけね。それじゃ間に合わないな。
会議はわりとすんなり終わった。平地だから作戦と言ってもあまり大それた事は出来ないし、策の巡らしようも無い。各部隊の担当も最初から想定済み。情報や連携のすり合わせと共有が主な目的だったから、特に紛糾する事も無かった。
兵士長には不満が少し見えた。けどそれはヒルダ様に封殺されてしまった。
彼らは魔術持ちの戦力や魔道具の支給が少ない事に不満を抱いていた。従士は四十人程来てる。でもその半数はゲイルの指揮下で中央。残りの従士も半数程は戦闘向きの魔術を使えるから戦えば強いのだけど、彼らは連絡要員としてあちこちに散って配備された。少しでも魔術による攻撃手段が欲しい兵士長達は、その扱いが不満だったらしい。
端末を持つプレイヤーである彼らは連絡要員として優秀だ。ただ魔術を使わせるよりも効果的な運用になる。だからそちらの役割に優先されたんだけどね。勿体なく思う気持ちはわかる。
そして魔道具は、あまり多くを支給出来ていない。単純に数を用意出来なかった。それでも百程度は確保出来て、そのほとんどは兵士に渡されてる。けれど一部はゲイル指揮下の従士にも支給された。
まず絶対数が少ない。魔道具は込められた魔力を使い切ると機能しなくなるようで、百というのはすぐに使い切ってしまう程度の数なんだそうな。それを魔術が使える従士に支給してしまった事も、不満ではあるらしい。
僕個人としても、兵士達には死んで欲しくない。出来るだけ戦力を整えてくれると嬉しいんだけど。
「中央ならばリーフ様がいらっしゃるはずです。リーフ様とゲイル殿であれば、お二人でも充分なのでは?」
「……あなたその言葉、閣下の前でも吐けますの?」
その瞬間のヒルダ様の眼光は怖ろしかった……。
実際彼の言い分は、二人を戦力と見た場合は理に叶ってて正しいんだろう。けどリーフに対して言って良い言葉じゃなかった。兵士を率いる立場とて伯爵令嬢を扱うような、その動きを決め付けてしまうような発言は許されないんだ。
ただの伯爵令嬢であれば、もしかしたらこんな事を彼も言わなかったかもしれない。
放浪者で、強い力を持ってて、養子だから。そんな特殊な立場のリーフ相手だから、つい口を突いてしまった。そんな風に思える。
理には叶ってるんだ。ただ、伯爵令嬢という立場がその言葉を許さなかった。
それ以降、顔色を失った彼は静かだった。他の兵士長も不満を口に出来る空気じゃなくなって、すんなり会議は終わりを迎えた。
「おい、ヒルダ」
「なんですの?」
「行けそうだったら、突っ込んでも構わねーんだろ?」
「それを期待しての配置ですわ」
「へっ、そうかよ。わかってんじゃねえか」
悪い顔してるなあ……。付き合わされる従士の皆さんが無事に済むよう祈っとこ。
「それからリーフ様とランは、判断をお任せしますわ」
「……うん。ありがとう」
「リーフ様はともかく、僕もですか?」
これは意外だった。いつまで経っても何処とはっきり言われないから変だとは感じてたけど、まさかの自由行動とは。
「シュテンとの戦いで理解しましたもの。ランは基本的に攻撃能力不足ですわね。魔導器の剣を持っているにもかかわらず筋力が無いのでは、戦争における前衛としての働きを期待出来ませんわ」
「酷い!」
「魔術の一端は見ましたけれど、後衛として配置するには飛ぶ剣の速度が劣りますわ。指定して発動する魔術はもとより、撃ち出す魔術にも弓や弩にも負けてますもの。まあ、これは然程問題でもないのですけれど」
うう、やっぱりそうなの? そりゃそうだよね。その辺りの魔術に勝てるはず無いんだよなあ。僕の魔術はあくまでも操作。飛ばすんじゃなくて動かすんだ。だから振る事で初速を確保しないと、そんなに速くないんだ。
でもそれが問題じゃないなら、何か別に理由がある?
「あなたの長所は自身の速度。それは一つところに留まって攻撃の雨を降らす後衛にも、乱戦に身を置いて敵を引き留める前衛にも不向きの特性。ですから、あなたはあなたの判断で遊撃なさい。それが恐らく最も効果的な、あなたの運用ですわ」
うーん……。何か、すごくよく見られてたみたい? 嬉しいけど、この言われ方は複雑だよ。
でもまあ、ずばっと短所を挙げてもらえてよくわかったかな。要するに大規模な戦いには向かないんだ、僕は。
戦場って広いけど、局所的に見るとお互いの戦力が集中してて狭いんだよね。だから動き回って戦う事が難しい。その上攻撃力不足じゃ前衛は圧倒的に不向き。爆発させる事は出来ても、それは前衛に配置する理由になんてならないし。
後衛なら刀身を飛ばしまくって戦えない事も無いけど、その速度は弓や弩の半分より少し速い程度。僕の刀身が二発届く間に、他の人達は三発は届けてしまう。それくらいの差がある。代わりに命中率はほぼ必中だから上。でも弾幕を張る理由って、敵を殺すよりも足止めだったり勢いを弱めたりとかだから。必中であっても意味は薄い。爆発もあるから不向きではないけども、あえて配置する理由も特別には無い。
それよりはいっそ、一人での遊撃をさせてしまえと考えたわけだ。それなら僕は、僕自身で有利に戦える場所へ足を運んで戦える。広い戦場を広いまま使えるんだ。
「ついでに情報を集めてもらえると助かりますわね」
仕事増えた……。散って配置されてる従士達と同じ仕事?
連絡先はレジーナさんという事でフレンド登録。まだしてなかったね。
「レジーナはわたくしのそばへ。あなたの馬に乗らせていただきますわ」
「手は出さないで下さいね?」
「……………………仕方ありませんわね」
間が長いよ! そんな残念なの!? 仕事に集中して!?
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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