我の恩寵を受けておる事、忘れたのかのう?
今夜はこの館に泊めてもらえた。放浪者はログインが安定しないけども、一部屋なら特に問題でもないそうで。
一応僕が明後日か明明後日に、他の三人は明明後日に戻るという予定で部屋を借りた。
案内されたのはちょうど四つのベッドがある部屋で、せっかくだしと四人それぞれで横たわった。結構良いベッドだね、これ。
「ああ、このまま寝れそう……」
わかる。お酒入ってふわふわするし、このまま寝ちゃいたいよね。
ちなみにゲーム内での飲酒は、未成年だとただのジュースと同じ扱い。成人なら今の僕くらいまでなら酔える。これ以上は酔えない仕様だから、お酒弱いのに大好きな僕に優しいゲームだ。素晴らしい。
「ちゃんとログアウトしなきゃダ・メ、だからね?」
「やめて!」
「かっかっか! しばらくは使いそうじゃの!」
「女のあたしでも結構どきっとしたよ?」
「言われた俺は相当だったって……」
そして言った僕はこうして弄られると。
あ、そうだ。あれどうするんだろ?
「カインさん、ちゅーします?」
「ぶほっ……ごほっ……」
カインさんはむせて、他二人は大笑い。
うん、やっぱり弄られるより弄る方が好き。
「儂は死んでしもうたからのう! 羨ましいのう!」
「あたしは生き残ったし、してもらお!」
「ぐ、くそっ。俺も、し……して」
ちゅっと。
こういうのは不意討ちに限る。真っ赤になっちゃってもう。
明らかに一回り以上年下だからね、可愛いとしか思わないなあ。頭も撫でてあげよう。
ベッドに伏せて枕に顔を突っ込んじゃった。悶えてる?
次は大笑いしてるアッシュさんだね。ちゅっと。
……良いのかな、これ。女性相手だと罪悪感が。
「ありがと! あたしからも……ランちゃん。ちょっと赤いの付いてるよ?」
「あ、さっきヒルダ様からいただきました。それじゃ反対側に」
「はいはい」
いただきました。柔らかーい。
このまま勢いでお爺様にもあげようじゃないか。ちゅっと。
「ふぉっふぉっふぉ」
普通に喜んでいただいた。
「そうだ! フレ登しようよ!」
そう聞いてがばっと起き上がったカインさん。大丈夫だろうか。新しい扉、開いてないよね? ともあれ、フレンド三人獲得。五人になったね!
そんなところでお開き。またいつか遊ぶ事を約束して、今日はお別れだ。
「では、またの」
「連絡するからね」
「おー……おやすみ?」
「はい、おやすみなさーい」
端末を操作してログアウト。楽しかったあ!
自室のベッドに起き上がると、ファリアがいつも通りに飛び出す。
「我も、欲しいのだが」
……何を言いたいのかはわかった。でもさ。
「ファリアとはもっとすごい事してるじゃないですか」
「それとこれとはまた違うのだ!」
「別に構わないですけどね」
ちゅっとしてあげる。そうすると嬉しそうな笑みを浮かべた。可愛い事だねえ。
さて、妙な違和感がある。……いや、あるって言うか無いって言うか。
「何か、眠気が無いんですよね。これやってる間って、眠ってる扱い……なわけないですよね。いつも普通に眠ってましたし」
「何を言っておるのやら。お主は我の恩寵を受けておる事、忘れたのかのう?」
……へ?
「いやいや、それはゲームの中の話で……」
「我がここにおるのにか?」
「……それもそうですね」
そう考えてみると、お腹も空いてないような……。
え、恩寵? 本当に? こちらでも? おおー?
「これ、すごくないですか?」
「すごかろう」
それじゃ僕は、もう眠る必要無いんだ。それに食事も水も……。あ、食費浮くね。食べたくなったらゲーム内で食べれば良いし、生活費が軽くなるじゃない。すごい。
何だっけ。余剰の魔力を諸々に流用するんだっけ。
「魔力って、こちらでもあるんです?」
「あるようだの。我の恩寵は正常に働いておるぞ」
「最高じゃないですか」
「ほう、最高か!」
それなら何の心配も無く食費を浮かせられるし、飲み物も同じく特に必要無いから買わなくて済む。全く食べないとお昼時に心配させちゃうから、そこだけ必要経費と割り切らないといけないけどね。
正常に働いてるって保証の言葉はもらえたし、今日からは少し生活が楽になるよ。
……はて、もう一つ恩恵があったような。
「…………老いないんでしたか」
「そうだの」
「これは……今は大丈夫ですけど、いつか困った事になりますね。今から対策を考えておかないと」
老いないって事は、老衰では死なないってわけでしょ? 元気な限りは永遠に生き続けちゃうんだよね?
実感はまだまだ湧かないけどさ、ぞっとする話じゃない? そんな事態にいきなり陥ったって、不安しか感じないよ。
心構えだけは先にしておかないと。多分この社会で普通に生活していられるのは、五十過ぎの年までだ。それ以上は奇異に見られて、普通にはいられない。そうなったら、僕はどう生活したら良い? 何を生業にしたら良い?
何か考えなきゃ。人と会わないで済む仕事? それだって年が八十や九十や百や、それ以上になってしまったらさすがに出来ない。普通の仕事じゃ無理なんだ。
第一戸籍がおかしな事になる。百を越えたら、もう使えないと思った方が良い。その時には、何をしたら良いんだろ?
……幸いな事に僕は食べないで良い。衣食住の内、衣だけでもあれば生きて行けない事もない。
その時は、僕にはファリアしかいなくなるんだね。
まだ実感なんて湧かないけど。それは酷く、寂しい気がする。
でも今まさに、ファリアがそんな状態にあるのか。ファリアには、僕しかいないんだ。
しっかりしなきゃ、駄目だね。
「よし。先の事はその時考えます。今は……掃除と洗濯をしましょう」
「うむ。だが、休む事を忘れるでないぞ? 眠る必要が無いのは肉体の話だ。疲れた精神を癒すには、やはり眠りは必要なのだからな」
「あらら。そうなんですね。じゃあ、やっぱり先に寝まーす」
「ふふ、それが良い」
今日はファリアの添い寝が、少しだけ心強く感じた。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 三
筋力 六
敏捷 一四
魔力 一八
魔導器 属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 軽業
跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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