行くのか
階段を下りたところで、リーフは打刀を引き抜く。すらりと伸びた銀光に炎のような刃文が揺らめいた。直後、翡翠の輝きが溢れて刃を覆う。練気の光が広い部屋を照らし、おぞましい不死の魔物達を露わとした。
目も眩むような閃光に、暗闇へと潜んでいた者どもは怯む。そしてその煌めきに、僕はそっと瑠璃色を乗せた。
たちまち光は膨張する。眩く迸り、鮮烈な輝きに辺りを満たす。その色は、一言で言えばシアン。深く濃い色合いで、浅葱色に近くなっている。今や刃文だけでなく刀身の全体が光を帯びて、握ったリーフの手を震わせていた。
「いつでもどうぞ」
「……放つ」
脇構えから刀を一閃、水平に振り抜いた。瞬間、部屋全体を圧倒的な光量で練気のエネルギーが駆け抜ける。不死と化した魔物達はこの瞬き程の間で、その全てが吹き飛ぶように塵へと姿を変えてしまった。
灰が突風で吹き散らされたかのようなあり様で魔物達の塵は舞い上がり、そのままこの場から消え去る。
練気は生命の力。不死の魔物達にとって天敵とも言えるだろう力。この結果も納得だ。
というわけで、ただの一撃でもってこの部屋の敵は一掃された。これを後四回繰り返せば、この第二層の魔物は殲滅されてしまうだろう。
……やっぱり、破格の強さだよなあ。
同じ事を四回繰り返し、結局僕達は第二層の魔物を本当に殲滅してしまった。そもそもあまり広くない階層だって事もあるけど、数は多かった。でもそれも、もう一匹すらいなくなってる。
結局全ての魔物がアンデッドと化していて、しかも原因はわからず終い。経験値は稼げたかもしれないけど、徒労だった。
第三層への門の向こうには異常無さそうだ。魔力感覚で探ったそちらにいる魔物達の様子に、アンデッドらしきところは見られない。第一層と第二層にだけ起きてる事態なんだろう。
「……今は戻る。アンデッド化の原因を調べる方が先」
リーフの決定は早かった。踵を返して、僕達は下りてきた階段を上る。そして第一層十階から上へと向かい、アンデッド化した魔物達を殲滅しつつ原因を探った。
九階八階とリーフの端末にある地図を確認しながら探索し、七階六階とさらに範囲を広げる。五階四階と尚も探すけれど収穫は無く、三階二階と至る頃には他のプレイヤー達と鉢合わせる事が多くなった。
そうして日付が変わった頃合いに、僕達は地上へと帰還を果たす。
「何も、わかりませんでしたわね……」
それらしい何かが一つとして見つからず、ただアンデッドになった魔物達を狩り続けただけ。わかった事は、アンデッド化が広く進んでいるという一点のみ。
第一層と第二層は、ほぼアンデッドの勢力圏とされていた。恐ろしく感染が早い。
迷宮で何が起こってるのか。原因への糸口すら探し出せずに、僕達は領城へと馬車を走らせた。
リーフのログアウトを見送ってから一眠りした翌日。お仕事を終わらせた僕はいつもより早いけど一旦ログアウトして、家事の諸々を済ませていた。考えるのは迷宮の事ばっかりだ。
こんな事、少なくともヒルダ様の知る限りではこれまで一度も無かったという。
「迷宮の、魔物達の事とは言え、わたくし達は素材を様々な事に利用していますわ。それが途絶えるとなれば、一大事ですわね」
彼女はそう話して、この事態を憂いていた。
迷宮から全てを賄っているわけではないけれど、トリシアが迷宮に依存する度合いは大きいという。アンデッド化した魔物の素材は、果たしてこれまで同様に使えるのか?
感染の事を考えれば、答えは当然不可だよね。一刻も早い解決が望ましい。
……そう思う一方で、僕はこの事態を好都合のようにも感じていた。
僕が目指しているのは、混沌の領域の消滅だ。それは迷宮だって例外じゃない。迷宮が消滅したなら、当然だけどそこから得ていた素材は得られなくなる。まさに今と同じ状態になるんだ。
トリシアは、しばらく迷宮からの素材の利用を停止する。領内の他の土地から物を集めて賄うよう動くはずだ。迷宮に頼らない、本来あるべき状態になる。
僕が目的を果たすには、今この時が好都合だ。
『行くのか』
階級が上がって強くなった。ラズリも最大で四匹呼べる。ルリもいてくれるし、多重行使で魔力操作も大幅に強化された。全ての攻撃に乗る凶爪もあって、ベンケイが作ってくれた銃と短剣も使える。そして魔道具を魔力の補給に使う事も思い付いた。
機は、熟したと思うんだ。
『そうだな。我も今なら、止める理由が無い』
『何処までもおともしますにゃ!』
アンデッド化の原因はわからない。でも混沌の仕業だと思うし、だとしたら原因を探ろうとしてもきっと無駄だ。それよりも魔穴同様に、さっさと迷宮を攻略して消滅させた方が良い。大地を蝕む混沌の領域ごと、この事態を無くしてしまえるんだから。
迷宮が無くなって大地が蘇ればトリシア周辺の荒れた土地も元に戻る。ここでも作物を育てたり出来るようになる。
しばらくは苦しいかもしれないけど、そこは閣下に頑張ってもらうしかない。僕も精一杯お手伝いするよ。空を飛んで各地から食物運んだりね。
そんな事を考えていたら、やっておきたい事は片付いてた。窓からは光が差し込み、人々が眠りから覚めて動き出す頃合いだ。
僕は逆にベッドへ転がった。そしてswivelを装着してログインする。
工房で目を開けると真っ暗闇。こちらは日付が変わる時間のはずだ。魔導器を出して合成魔術一つと魔力操作をとりあえず二つ発動させたら、窓から出発した。
今日の服装も水龍セット。青いタートルネックのニットワンピースに暗い紺に染めた毛皮のケープ、瑠璃色のハイヒール……はやめて革のショートブーツ。
魔道具の魔力はエーテルを回収させてもらって補充。大地のために使うから許して。
『気にせずとも大丈夫だと言うたろうに』
いや、何となくさ。魔道具の作成に使っておいてとは、自分でも思うんだけども。
ともかくこれで準備は完了だ。空を飛んで迷宮に向かう。
迷宮入口は、さすがにこの時間帯だと人も多くない。でも見張りの兵士は変わらずに配置されてる。お勤めお疲れ様です。軽く挨拶など交わしながら入って行く。
迷宮内で人の目も無くなったら真っ暗なままダッシュ。大穴まで一気に駆け抜けた。隠し扉の横穴も浮いたまま通過し、そのままダイブ。真っ直ぐ一番下まで降りる。
そこは浮遊の円盤を見つけたあそこだ。先へ進めば、そこは階級七や八の魔物が巣食うだだっ広い空間。
以前来た時より、僕は遥かに強くなってる。多重行使は魔力五点を使う事で六つまで重ねられる。魔力操作二つを既に重ねてるから、残りは四つ。ラズリを四匹呼び、凶爪も二重に発動させて攻撃力を強化。これで多重行使はいっぱいいっぱい。
属性剣を浮かべて左手には銃。そして肩にはルリを乗せた。ここまですれば、恐ろしく強いはずだ。
今ならきっと……多分……行けたら良いな……。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 五
筋力 六
敏捷 一八
魔力 二四
魔導器 強化属性剣
拡張機能 変幻自在 小領域作成
魔術 魔力操作 魔力感覚
魔力封印
技術 看破 識別
軽業 跳躍
耐寒
精霊 風猫ルリ
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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