そういうものですにゃ
工房に戻るとヒルダ様がちょうどお仕事を持って来ていた。棚の整理をしてくれてる。
僕を見て一瞬ぎょっとしたけど、フードを外せばほっとした顔になる。
「ランでしたのね。普段しない格好ですので、少々驚きましたわ」
「済みません。ちょっと寒いところへ行ってたもので」
「寒いところ、ですの?」
「はい。上に向かって飛んでみました」
「……また何かあったのですわね?」
「風鳳様に会いましたよ」
別に話しちゃって構わないよね。リーフやゲイル達にも話すつもりだし。
ヒルダ様は手をぴたりと止めて微笑む。でもその口元は引きつっていた。
「……あなたは全く。けれど嬉しくもある報告ですわ。空には風鳳様がいらっしゃって、わたくし達を見守って下さっている。そういう事ですものね」
「だと思います。でも初めはどうもソールに向かってると思われたようで、襲われてしまいました」
「よく無事でしたわね……」
「様子見されていたのだと思います。ただ突撃して来るだけでしたから」
思い返してみれば、明らかに手加減されてたよね。魔術の類いは一切使われなかったしさ。そう考えると、確かに穏やかなお方だったのかも。
……あの大きさでの突撃が穏やかって。
『そうだの。殺すつもりならば、他に幾らでもやりようはあったはずだ』
追い返そうとしてただけってわけね。もっともその手段が、僕達人族にとっては穏やかじゃないレベルのものなんだけども。勘弁して下さいよ。
お姿を聞かれたので教えた。透き通った薄い緑の巨大な鷲。言い表すのは簡単だけど、あの威圧感は実際に会ってみないと伝わらないな。
それから精霊のルリを紹介する。
「ルリ、出て来て下さい」
『はいですにゃっ』
ぽんっと僕の肩に現れた黒い子猫を見ると、ヒルダ様は一瞬にして相好を崩す。猫の愛らしさはあちらでもこちらでも共通のものだよね。
「この子は風鳳様から授かった精霊です。名はルリと名付けました」
「何て愛くるしいのでしょう!」
そっと手渡せば、大切に扱ってくれる。大きく開いた胸元に抱き寄せて、優しく撫で始めた。
ルリは高い声で鳴いてる。
『ふわふわですにゃあ』
喜んでるけど、別にえっちな感情は伝わって来ないね。種族が全然違うし、そういう事考えたりするわけないか。
単純に感触が楽しいらしい。前足でふにふにとして遊んでる。その様子は非常に愛くるしい。
「あら、ランと同じ瞳ですわね。体毛も同じですし、そういうものなんですの?」
多分?
『そういうものですにゃ。ルリはご主人の魔力で形をいただきましたから、ご主人に似るんですにゃ』
ほうほう。
「そういう事みたいですよ。僕の魔力で形を得た、という仕組みらしいです」
「魔力を捧げたんですのね。ランに似て、小さいところが素晴らしいですわ」
え、僕の小さいところも気に入ってたんですか。
『ヒルダは女性的な者が好みだと言うておったからのう。大きいよりは、お主のように小さい方が良いのであろうよ。くくく』
もっと大きくなりたかった本人にとっては複雑だからね?
しかし、ルリが子猫なのも僕に似たからだったのか……。大きい方が良かったり?
『ルリはご主人と一緒が良いですにゃ!』
嬉しい事言ってくれるじゃない。それなら良いか。
上機嫌になって、ついにこにこする。現金だね、わかってるって。
服装をいつも通りの従士一式に戻す。そしたら温かいお茶を淹れて、ヒルダ様と一息入れた。
さて、今日はこれからどうしようかな?
手元のお金が減った事を思い出したので、四万イルを引き出した。預金はそれでもまだ十万程あるらしい。稼げるなあ。でもお仕事の件数が減って来てるから、そろそろ稼ぎも落ち込むはずだ。価格競争もこれから起きるはず。そこはまあ、閣下とテートさんの匙加減次第だね。
その後はフレアにもルリを会わせたいので、彼女のお店に向かう。特別急いでないから歩いて行こうか。
城内は動物厳禁という決まりがあるわけじゃないけど、一応見せない方が無難だとヒルダ様に教えてもらったのでルリは中へ入れた。動物を連れ込む人がいないから、そんな取り決めを定める必要が無いんだろう。
わざわざ波風立てる意味も無いし、感謝して従った。
通りすがりに挨拶など交わしながらお城を出て北門へ。さらに北通りを歩いて東の路地に入る。そうして到着したフレアのお店には、オルトマ……じゃなかった。トーマの姿があった。
「お久しぶりですね」
「うん、久しぶりー! 噂は色々聞いてるよー?」
「お恥ずかしい限りで」
単純にお買い物で来てるだけだよね? あまりにタイミングが悪過ぎて、つい警戒心が湧き出てしまう。でも顔に出ないよう注意だ。笑顔笑顔。
『オルトマ様ですにゃ!?』
あーっと。色々、色々あるけど全部丸ごと秘密だからね?
『ご、ご主人に従いますにゃ!』
『事情説明は我に任せておけ』
よろしく!
さて、ルリの驚く声が何度も聞こえて来るのを余所に、僕はトーマやフレアとのお喋りへと集中した。
いよいよお金が貯まったそうで、新しい服を買いに来たらしい。ちょうど今着ている物が買った物だと言うので、上から下まで眺めさせてもらう。
上はざっくり開いた胸元を紐で留める、濃い色合いのベージュのチュニック。縁取りに緑の糸で花の刺繍がしてあってお洒落だ。内側にビスチェを着ていて、お腹は冷えないようにしている。わざわざめくって見せなくていいから。チュニックの上にはケープを羽織るそうなので、それで今のところ暖は取れるのかな。
下は濃い茶色の、極端に短いホットパンツ。黒い革で作ったニーハイブーツを履いて、太腿の肌色を際立たせてる。パンツの方はともかく、このブーツは暖かそうで良いな。
くびれには布製の幅が広いベルトを軽く巻いてる。バックルではなく、二つの輪で留めるタイプの物だ。細いくびれのおかげでその上下の広さ大きさがよく目立つ。視線は確実に誘導されちゃう。
全体的にお色気増し増しの格好。完全に目の毒。ファリアがテンション上がっててうるさい。ちゃんと説明しててくれる?
「ふふーん、どうどう?」
「素敵ですよ。世の男性は放っておけないでしょうね」
「それってランちゃんも?」
「ノーコメントで!」
オルトマだって知ってるからね。出来るだけお近付きになりたくないのよ。でも目は引き付けられちゃうから、意思力でねじ伏せる!
くすくす笑われてしまった。
しかし彼女がいると、ルリの紹介は出来そうにない。冬物の服を見させてもらおうか?
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 強化属性剣
拡張機能 変幻自在 小領域作成
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 識別
軽業 跳躍
精霊 風猫ルリ
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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