こういう話は弱いんだってば
元ルーゲル家長男夫人のジリエラさんは、ホルンさんの求婚を受けたそうだ。彼女の実家のモルトール男爵家当主もこの話に飛び付いて、あっという間に式まで挙げさせたのだとか。ヒルダ様は余程面白かったのか、こちらでの翌々日に戻った僕に一部始終を聞かせてくれた。
ただ、一つだけヒルダ様は気になる言葉を口にした。
「あの年で、子供がいないんですのよ」
そう言えば子供は捕縛されていなかった。年は三十四歳らしい。長男に嫁いだのが十五の年だと言うから、十九年前の事だ。子供がいないのは確かにおかしい。
ちなみにホルンさんは二十八歳だそう。二人が出会った頃は、まだ九歳だね。
……やばい、微笑ましい情景を思い浮かべてしまった。
ともあれ、子供がいないのは奇妙だ。普通に考えたら、どちらかが不能だったんだろうけど。貴族社会においてこれはきつい。
「まさかとは思いますけど、ジリエラさんは……」
「ええ、散々いびられていたようですわ」
「それじゃ彼女があんなにも気弱なのは……!」
「当然それが原因ですわね」
何て酷い事を……。
「そんなのおかしいじゃないですか! 長男さんの方かもしれないのに!」
「貴族社会とは、そんなものですわ」
ジリエラさんは、十九年もの間肩身の狭い思いを強いられていたのか。想像するだに腹立たしい。さすがは閣下を暗殺しようとした連中だ! ただの悪党じゃないか!
拳を握って一人憤っていると、ヒルダ様がそっとその拳に触れた。
「それももう終わるのですわ。あのホルンという者は、ジリエラを大切にしていましたもの。尊大な態度は鼻に付きますけれど、道理はわきまえている人物だとわたくしの目には映りましたわ」
……そうだ。ホルンさんならきっと大丈夫。懇切丁寧に教えてくれた時の彼は、とっても優しかった。外様の僕にしっかりと対応してくれた。彼ならきっと大丈夫だよね。
ジリエラさん、幸せになって欲しいなあ。
あ、良い事思い付いた。お金引き出しとこ。
その日は魔術ギルドに顔を出して、マーニの練習を見た。ついでに、というわけじゃないけどホルンさんにも会う。
ちょうど休憩してるところだったようで、僕とマーニは中庭に誘われた。そこで事のあらましを改めて本人の口から聞けた。概ねヒルダ様の話そのままだ。
けど、本人からしか聞けない話も飛び出した。
「実はな……。彼女は私が初めて想いを寄せた人なのだ」
それ、僕達が聞いちゃって良い話?
話したいのかもしれないし、大人しく聞くけどね!
「彼女が苦しむ姿は、今も焼き付いて離れん。幾度も反発したが、あの頃の私には何の力も無かった。結局家を追い出され、ここに身を置く事となった。それからは一度として会う事も叶わなかった。だから、という事でもないのだろうが、彼女と再び顔を合わせた瞬間には口を突いて言葉が出ていた。あの痩せ細った彼女を、ジリエラをこの手で……幸せにしたいと、望んだのだ」
……語るねえ。ちょっと涙腺が。早いって? こういう話は弱いんだってば。
ホルンさんは神妙な面持ちで、腕を組んだまま話を続ける。
「彼女は、自分が不能だと言った。自らの口でそう言って、一度は断った。それが私には堪え難い事だった。何年もそう言われ続け、思い込んでしまったのだろう。或いは子を産めない未来を恐れての事かもしれない。だがどちらにしろ、その時の無理矢理な笑顔が私の胸を強烈にえぐった」
彼は直感したという。このまま離れては、必ずや彼女は不幸になると。最悪は自殺もあり得ると、そう悟ったと話す。
長い時を蔑まれ、貶され、罵られて過ごしていた。そんな彼女は自分を卑下し、卑屈になって生きる事しか出来なかったんだろう。どんなに辛くとも、無理に笑顔を浮かべてやり過ごして来たんだ。
好いた人のそんな姿を見ては、ホルンさんの心も平静ではいられなかった。
「私は彼女に誓った。必ず子を産める身体にするとな。どんな手を使ってでも、私に出来なければあらゆる伝手を頼ってでも必ず……」
僕にはそれがどれだけ難しい事なのかわからない。こちらはあちらと違い過ぎる。でも多分、難しいよね。
何かしてあげられれば良いんだけどな……。
『我らに出来る事は無いだろう。だが、フレアならその娘の身体を調べる事くらいは出来るはずだ』
あー、そっか。元は光と生命の神なんだった。
それなら早速話を付けに行こうか。
「もしかしたら、ですけど。ジリエラさんの身体が本当にそうなのか調べる事は出来るかもしれません」
「本当か!?」
「知り合いに医術の心得のある人がいるので」
「何だと……!? 済まないが、頼めるだろうか!?」
「もちろん頼んでみます。ただ、絶対とは言えませんから」
「構わん!」
ジリエラさんはあちらの親御さんの意向で既に同居してるそう。家は魔術ギルドからそんなに遠くない。場所を聞いておいて、魔術ギルドのロビーへと戻った。
それから、マーニにはこの埋め合わせは必ずすると謝る。でも彼女も一緒に話を聞いてたから、すっかり同情的だ。いつものたどたどしい言葉遣いで早く行くよう急かされてしまった。
そうして魔術ギルドを後にし、僕はフレアのところへと急いだ。
事情を話せば、フレアは快諾した。でも身体を調べる事くらいしか出来ないそうだ。治してはあげられないらしい。
すぐにお店を閉じて、出かける支度を整えてくれる。でもそのままだと問題あるかな?
「変装とかします?」
「そうですねえ……。あちらのお二人が秘密を守って下さるのなら、私はこのままでも構いません」
大丈夫だとは思うけどね。クロークで全身を、マフラーで顔の下半分を覆っておいて、大丈夫そうなら外せば良いか。
そう提案すれば、フレアは納得して二つを纏う。
支度が出来たら出発だ。二人で歩いてホルンさんの家に向かう。
フレアとこうして二人で歩く事が無かったから、ちょっと楽しい。道中の中央通りに並ぶ商店をちらちらと覗きながらのんびり目指した。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 強化属性剣
拡張機能 変幻自在 小領域作成
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 識別
軽業 跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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