預金が百万に到達しましたわ……
六月五日。
梅雨の時期には入ったものの、まだ梅雨と言える程には湿っぽくならない。日本はそんな、夏を前にした金曜だった。
風鳳の月、八週の十日。
日々寒くなる一方の、吐息が白く天に上るような時期。冬となる水龍の月の目前となる最後の週の僅か一歩手前。アルスはそんな、風の冷たい朝だった。
暑くなって来たなと思いながら帰宅して汗を拭い、ログインすれば冷えて来たなと服を着込む。不思議な感覚に襲われて、思わず苦笑いを浮かべた。
そんな僕を見たヒルダ様は、くすりと艶やかな美貌を可愛らしい笑みに変える。
『何だ、今日は趣が違うではないか』
…………台無しだよ!
「あちらは暑くなる時期なのでしたわね。こちらはフレアがそろそろ水龍の月用コートを用意している頃ですわ」
「コートですか?」
「従士に着せる物ですわ」
「あるんですか!?」
「無ければ寒い中の行軍など不可能でしてよ?」
何と……!
行けば受け取れるだろうって話なので、早速……
「ところで、ラン」
後回しか。
「はい、何でしょう?」
「預金が、百万に到達しましたわ……」
「何ですと……!?」
正確には百万と六千イルあるそう。こんな大金、全く使い道を思い付かない。うーむ。
ちなみに大金貨十枚と大銀貨六枚だね。シルクの袋に入れてわざわざ持って来てくれてた。あんまりかさばらないね。テーブルに並べると大金貨がさすがに壮観。黄金色に輝く大きな硬貨が十枚も!
……本当どうしようか。
「ランは無欲ですものね……」
無欲かなあ。一般的に高価だとされてる物には興味薄いけどねえ。僕が欲しい物って言うと、良い素材とか服とかかな? 後は美味しい物食べたり飲んだりは好きか。
他には何か………………思い付かないぞ。
素材はどうだろ? 強力なのは自分で狩りに行くよなあ。でも、端末で買えるサービスで買ったりもしたね。後でまた覗いてみようか。
服はフレア手製の物だ。これは一着当たり三桁にも届かないから、物凄く高価な服ってわけじゃない。ドレスの一着か二着でも買えば……普通にドレスを考えてしまった。礼服だよ、礼服! でもフレアが売ってくれるわけなかったね!
美味しい物は、お茶とかお酒が欲しい。これはそこそこする物がありそうだ。お酒もこちらだと未成年のリーフに飲ませても大丈夫だし、成人が飲んでもほろ酔い程度だしで都合が良い。お茶とお酒はありだ。
でも百万イルなんて大金だと、多少目減りする程度に留まっちゃうよなあ。何か一気に使えてしまうような使い道があれば、ぱっと使っちゃうんだけどね。
まあ、とりあえず受け取ってしまおうか。手元にあれば、何かで使う気にもなるかもしれないし。
インベントリの所持金が、七桁……あははは。
お買い物をするとなれば、まず覗くのは端末にある青の扉。色々な物が並んでるし、特に素材を買えるのがありがたい。もちろんお茶やお酒などの類いも種類豊富に揃ってるから、じっくりと説明を読みながら探して買うつもりだ。
場所はフレアのお店に移した。ヒルダ様に見られるのはまずいだろうし、コートの事も聞きたい。
「というわけで、僕のもあります?」
「はい、ございますよ」
渡されたのはお尻を隠すか隠さないかという丈の、薄い緑のコート。デザインはシンプルそのものだ。従士用だし、ごてごてしてても特徴的でも良くないからこんなものかな。
早速羽織らせてくれたので、くるっと回って見せる。ファリアとフレアからは太鼓判をもらえた。
生地は厚めで丈夫。それでいて柔らかさも保っている。そして何より暖かい。今はまだ着るのに早いかもしれないけど、飛ぶ時にはちょうど良さそうだ。
支払いは領地から出るので受け取るだけ。インベントリに仕舞った。
「ソファを借りますね」
「はい、どうぞ」
ファリアはそのままフレアと雑談を始めた。話題は僕達の近況だ。伏せるところは伏せたりぼかしたりしてくれてる。フレアの方も察してくれて、深くは追及しない。ありがたいね。
さて、それじゃ青の扉を開こうか。
あちこち眺めつつ欲しい物を購入する。お茶を数種類、お酒も数種類、美味しそうなお茶請けやおつまみも数種類と色々衝動買い。お酒に似合うグラスなどもあって、目移りしつつやっぱり数種類買った。この機能本当に便利で素晴らしいなあ。
そうしてあれこれお買い物を楽しんでいると、装飾品の一覧で気になる物を一つ見つけた。その説明を読んで目を疑った。そして即購入した。
まさかこんな物が売ってるなんて……。
インベントリの画面に映るその宝石を見つめて、僕は沸々と込み上げる歓喜に口元を緩ませた。
うふふふ……、お金貯めといて良かったあああ……!
「どうしたのだ、ラン?」
「これですよこれ! 見て下さい!」
こちらにやって来た二人に端末の画面を見せた。そこに映る宝石の名前は『魔晶』。その効果は『魔術を吸い込んで一つを維持し、利用する』というもの。しかも『身体の何処にでも取り付けられ、任意に取り外せる』そうだ。
お値段なんと百万イル。ぽんと吹っ飛んだ。
早速出してみると、ダイアモンドみたいに透明な小粒の宝石だ。それを試しに左手の平へ取り付けようとする。
……お、埋まった。痛みは全く無く、半分顔を出す形に収まってる。つんつん突っついた感覚としては、爪とかかさぶたとかに触れるのと似てる。多少違和感あるけど問題にはならないね。
見ているとゆっくり色を変えて瑠璃色に、僕の魔力の色に染まった。ぼんやり光ってとても綺麗。
「このような物もあるのか……」
「魔晶ですか。この国の王様が一つを所持していると、来店された貴族様から伺った事があります。不思議な宝石だと」
確かに不思議だ。何でこんな風にくっ付くんだろ? 魔力感覚でわかるかな?
調べてみると、仕組みはそう難しいものじゃなかった。肉体もエーテルで出来てる。そこに半分融合するような形で定着してるみたい。面白いね。
ちなみに階級の設定は無し。魔力量は二十。でも現在値は〇だ。回復させとこうか。
色々試してわかったけど、魔術を維持させてると吸い込めないみたい。しかも解放には最低三秒、魔力量を回復させていればその数値と同じ秒数がさらに必要。その際には魔力も一緒に解放しちゃうから魔力量が〇に戻る。
防御手段として使うには中を空けておかないと駄目だ。でもそれで吸い込めるのは一発だけ。魔晶の用途としては勿体ないね。
これは魔道具と同じ運用をするのが一番だと思う。魔術を切り替えられる魔道具だ。それだけで充分便利で強力だよ。
高かったけど良い買い物だった。所持金はごっそり減ったね。魔晶が百万で諸々買ったのが三万。残りは一万四千イル弱。
ま、また貯金しようか。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 強化属性剣
拡張機能 変幻自在 小領域作成
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 識別
軽業 跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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