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お手々が可愛いです

 場所は研究棟の一室に移った。昨日も使ったあの部屋だ。


 テートさんはたくさんの魔石が入った袋と三人分のナイフをマーニに持たせている。これを使って教えてくれるわけだ。


 費用については、僕の派遣のお礼だと思うように言われた。要は無料だ。


「さて、まずは簡単な説明から入るかのう」


 ナイフを受け取ったテートさんは、魔石を一つ取り出してそう話し始めた。


「魔具とは魔力を具象化する技術じゃ。魔導器が四柱の神々から授けられる以前、魔物へと対抗するために用いたと伝えられておる。しかし残念な事に全ての人族が魔導器を備えた事によって廃れ、一時は失われておった。これを魔術ギルドが蘇らせ、魔道具の作成に用い始めたのじゃ」


 という事なんだけど、ファリアは何か知ってる?


『魔導器以前、様々に体系化された力が存在していた事は確かだ。だが全ての力は魔導器によって淘汰されてしまった。それ程に魔導器は手軽く強力なのだ。何年何十年という鍛錬の末に掴んだ力が魔導器より劣るなどという事が、当時は当たり前にあった。そうしてあらゆる力、技術が姿を消した。今魔具と呼んでいるこの力も、その中の一つなのであろうな』


 ほうほう。そういう事があったのね。確かに魔導器って、誰でも持ってる物だもの。鍛えれば魔術だって取得出来るんだろうし、わざわざ劣るものを何年もかけて習得しようとは思わないか。


 ちょっと寂しい気もするけど、淘汰ってそういう事だからね。


 で、魔具については覚えてない?


『うむ。とにかく多かったからの。管理などは我もフレアもせんかったぞ』


 そりゃそうか。


「魔具を使う事で引き起こされるのは、魔力の具象化じゃ。この魔石に秘められた魔力を具象化すれば、こうなる」


 魔石をナイフで傷付けると、昨日ホルンさんが見せてくれたように灰色の煙が噴出し始めた。この煙が、具象化された魔力ってわけだよね。


「これは儂が具象化しておるから目に見え、こうして触れる事も出来る」


 噴出する傷口に手をかざすと、煙のような魔力は手に当たって流れを変えた。物理的に接触出来るようになるのか。ほー。


 ……これはやばい。魔力操作と組み合わせたらとんでもない事にならない? 武器はもちろん鳥とか犬とか馬とかさ。自分で作れるって事? わーお……。


「ランは気付いたようじゃの。そうじゃ、魔力操作との相性が恐ろしく良いのじゃ」


「あ! ……え、そんな事が……!?」


 マーニも遅れて気付いたみたい。口元を隠すようにして驚いてる。


「とは言え、あまり期待し過ぎん事じゃ。魔導器や魔術にかつて淘汰された技術。そこまで強力な使い方は出来んからのう!」


 そうだった……。上げて落とされた気分。







 説明を受けたところで、僕達はいよいよ習得のための第一段階に入る。


「儂らは魔導器に魔力の扱いを依存しておる。慣れてしまえば魔導器無しでも出来るようになるが、初めは使っておいた方が良いぞ」


 僕の魔導器は常に出したままだ。今ももちろんベルトのホルダーに入ってる。一方マーニは仕舞いっ放し。真逆だね。


 二人揃って魔導器を柄だけの状態で手に持った。形状はそっくりだ。そこはもしかしたら誰でも同じなのかも。違いはエーテル核だけ。


「何か付いとるな……。ま、それは良い。ランとマーニは魔力を内側から出せるのじゃったな? ならばまずはそれを使うのじゃ。ほんの少しで良いぞ」


 僕は人差し指の先に五ミリ程度の球体を作る。マーニもこれを真似して、同じ物を作ってみせた。ついくすりと笑ってしまう。


 本当にもう、可愛い弟子だなあ。和むー。


「仲が良いのは素晴らしい事じゃの。では、それを維持したまま魔導器を仕舞うのじゃ」


 お、なるほどね。それが出来るようになれば、魔具への第一歩となるわけだ。よし、頑張るぞー。


 ……なんて思ってたんだけど。


「ランは、どうなっておるのじゃろうなあ……」


「さ、さすが……です」


 一発で出来てしまった。


 思わずきょろきょろして魔導器を探す。うん、無い。ちゃんと消えてる。


 どうして? こんな簡単に出来る事じゃないのは、テートさんの呆れたような顔を見ればわかる。それにマーニは失敗して、魔導器と一緒に魔力も消えてしまってる。


 自分でやっておきながら、わけわかんない。


「ランはあれじゃな。魔力の扱いに馴染み過ぎたのじゃ。普段から魔導器を出しておるという事は、普段から魔術を使うておるのじゃろう? 何かにつけて魔力を使うてないかのう? その影響が出たのじゃと思うぞ」


 確かにテートさんの言う通り僕は当たり前に魔導器を出してて、魔力操作と魔力感覚をいつも発動させてる。あちらでまで使えるようになってるから四六時中使いっ放し。その上でエーテルを集めて魔道具を作る日々だ。


 魔力も魔術も常に何かしらで使ってるわけか。これなら馴染んでてもおかしくないね。


「では、ランは次じゃの。とは言うても、もう出来そうじゃがのう。ともあれじゃ。そのまま儂が良いと言うまで維持しておくのじゃ」


「それだけですか?」


「……本来は難しい事なのじゃ」


 そ、そうでしたか。別に指は意味が無さそうなので手を下ろし、ぺたんと座ったまま魔力の粒を維持し続けた。じっと見つめるだけなので、暇!


 マーニは魔力を出しては魔導器を消してを繰り返している。けどテートさんが方針を変えて、僕が魔力に馴染んだ方法で試す事にした。つまりは、昨日と同じだ。魔力で様々なものを作ったり動かしたりして、ひたすら魔力の扱いに慣れる。そうして馴染む。それがもしかしたら近道になるかもしれない。この考えに則って、彼女は魔力を操作し続けた。


「焦るでないぞ、マーニ。ランは異常じゃからの」


「ラン様と……同じに、考えるなど……畏れ多い、事です」


 異常て。


 ところでこれ、いつまで?


「ちっとも消えんのう……」


「消えるまで!?」


「拡散するはずなのじゃ、普通ならばのう。じゃが少しも薄れんし、小さくもならん。どうなっておるのか甚だ疑問じゃ……」


 これまでの蓄積が生んだ結果だし、単純に嬉しくはあるね。ASを始めてからずっと魔力操作についてはあれこれ考えに考え続けて来たんだもの。それがこうして意外な形でも結実してくれたんだ。


 この調子で一気に習得まで行っちゃいたいな。


「ランはもう、そのままその魔力を具象化出来てしまうんじゃないかのう?」


「どうやるんですか?」


「魔導器と変わらんぞ」


「思うだけですか?」


「そうじゃな」


 早速お試し。具象化しろー!


 ………………ふむ? 何も起きないね。指先で突っついてみるけど触れない。


 そう上手い話は無いか。ここからが大変なのかもしれない。ひとまずもう一度テートさんにやって見せてもらえるよう頼もう。


「構わんぞ。必要になると思うてこれだけ用意して来たのじゃからな」


 また一つつまんでナイフで傷付けた。魔石からはさっきと同じく灰色の魔力が噴出。僕はテートさんの魔力が与える魔石内部の魔力の変化に意識を集中して、魔力感覚でじっくり観察した。


 ……お手々が可愛い。


 そうじゃなかった。ファリアを笑わせてどうすんのさ。


「何処を見とるんじゃ?」


「お手々が可愛いです」


 マーニも吹き出させてやった。巻き添え。


「ちゃんとやらんか!」


 大丈夫大丈夫、ちゃんと調べてるから。


 でもよくわかんないんだよね。とりあえず真似してみようか。


 魔石を一つもらって傷を付けて、全く同じになるよう魔力操作で動きをトレース。テートさんの中から働きかける魔力と魔石の中で働きかけられる魔力と、しっかり真似して再現してみる。


 ……うーむ、何も起きない。そういうものじゃないか。となるとやっぱり考え方? どう考えたら良いのか全く想像も出来ないけどね。魔導器みたいにはやってるのに何も起きないんだもの。


 難しいなあ。一筋縄には行かなそうだ。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  四


  筋力  六

  敏捷 一六

  魔力 二〇


 魔導器 強化属性剣

拡張機能 変幻自在   小領域作成

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     識別

     軽業     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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