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いつもの事よいつもの事

 徒弟さん……マーニさんが淹れてくれたお茶を楽しみつつ、支部長のテートさんと話をした。……このお茶美味しいなあ。後で銘柄聞いてみようかな。


 閣下からも聞いていた通り、僕のお仕事は魔道具の作り方を教える事。とは言え僕のやり方は魔力操作が前提にある。はっきりとは言わないけど、人を選ぶ方法だとは前もって言っておく。


「多少は聞いておるよ。儂ら魔術ギルドとは違う方法かもしれないとな。じゃが、ランの視点からわかる事を教えてもらえるだけでも違うじゃろう。まずはこの仕事、やってみてくれんか」


「もちろん構いませんよ」


 テートさんは第一印象通り、良さそうな人物だ。言葉遣いそのままの年齢なら油断は禁物だけど、今のところおかしなところも無い。


 それに、とにかく見てて可愛いし話し易い! それだけでもう好印象だよね! これはずるい!


 子供好きの僕には、わりとクリティカルヒットなんだよなあ。やばい、甘やかしたい。


 脳内にファリアの笑い声が響いた。


『お主、本当に子供好きだのう!』


 大好きさ!


 でもテートさんは子供扱いされたら嫌がるよね、本当の子供じゃないんだから。気をつけないと。


「ではランの世話じゃが……マーニ、このまま頼んでも良いかのう?」


「はい、あの……わたくしで、よろしければ……」


「お主ならば儂も心配せんで済む。よろしく頼むぞ」


「マーニさん、よろしくお願いしますね」


 微笑みかけると、彼女は酷く恐縮した様子を見せた。それがどうにも過剰に窺えて、僕は怪訝に思ってしまう。


「あ、その……マーニと、お呼び下さいませ」


「そうですか? では僕の事もランと」


「そんな! 畏れ多い事です……!」


 畏れ多いて。ちょっと大袈裟じゃない? 何か、やっぱり変だね。


 今度は顔に出てしまったようだ。テートさんが苦笑いして事情を話してくれた。


「済まんな、ラン。この魔術ギルドは、長く厳格な身分制度を敷いておってのう。払拭するために動いておるのじゃが、見ての通り容易には抜けんのじゃ。この身分制度が腐敗の温床となり、ギルドをここまで追い詰める原因となった。これではいかんとその問題を何とか片付け、表向きには身分の差を無くす事に成功したのじゃがなあ」


「未だ根強く残っている、と」


「そういう事じゃ。このトリシア支部はメリアー大陸全土の支部を統括しておって、代表たる導師の儂を置いているからまだマシじゃ。しかし他の支部などはまだまだでのう」


 ゆっくり時間をかけてちょっとずつ無くすしかないよなあ。長い間に染み付いたものって、例え悪い慣習でもおいそれとは変えられないもの。


 ま、僕が首を突っ込む事じゃない。既に動いて変革させてるんだ。必要なのは時間だよね、きっと。


 ともあれ、今の彼女に無理強いするのは忍びないか。


「それならせめて、名前で呼んでいただけますか? 役職で呼ばれるのはどうにも慣れないので」


「か、かしこまりました……ラン様……」


 これも辛そうね。どんな環境にあったって言うんだろう。酷い話だ。


「気弱じゃが良い子じゃ。女同士で仲良くしてやってくれんか」


「……僕は、男なんですよね」


「何じゃと!?」


「……え……」


 まあね、いつもの事よいつもの事。


 ……ちょっと。今日はよく笑うじゃないのさファリアさんよ。







 僕達がさっきまでいた南西の建物は、応接棟と呼ばれてるそうだ。魔術ギルド外との接点となる業務を行うための場所で、テートさんの支部長室もここにあった。そこで諸々の執務に当たってるそうだ。


 北西にあるのは居住棟。読んだそのままで、ギルドに所属する人達の寮になってる。南東は書庫棟。書物に限らず様々な物が資料として保管されているという。


 そして今いる北東が研究棟。魔術の数々を研究したり、魔道具を作成したりするのに使う建物だ。


 今日はここで、魔術ギルドの魔道具作成方法を見せてもらう事になった。魔力操作によらない作り方なら、まずそれを見ないと教え方すら考えられないからね。そもそも僕が役に立てるのかが全く判断出来ない。だから見るのは必須。


 テートさんもそれを望んでいたんだ。問題は無い。


 そんなわけで研究棟へ来た。


「貴殿が支部長の話していた新しい導師か」


 金の髪をオールバックにした男性が挨拶してくれる。


「私はホルン・ルーゲル。魔道具に関する一切を監督している者だ」


「ランと言います。今日からよろしくお願いします」


 握手を交わした。


 ホルンさんは灰色のローブに白いケープという姿。襟にきらりと輝くのは金の十字架、上位術師の記章だ。


 見た目は尊大そうな印象を受ける人物だね。口元には笑みを浮かべているけど、目元は笑っていない。歓迎はされてないらしい。


 これは仕方ない事だ。僕は言わば商売敵。しかも彼らからしてみれば、今の窮状の原因そのものだろう。そんな相手に頼る事となってしまったんだから、表向きだけでも友好的なのはむしろありがたい事だ。


 年は三十……少し手前かな? あくまで見た目の話だから、種族次第でかなり変わるけども。人間には見えるね。


「貴殿の資料を見たが、魔力の扱いに精通しているそうだな。その知識とその見識、大いに期待させてもらおう」


「期待に添えるよう努めましょう」


 資料? どんな事が書いてあったんだろ? 必要以上の事が書かれてないと良いなあ。


 ところでマーニの様子が変だ。はらはらしてると言うか、落ち着かない感じ。


『身分の事を気にかけておるのだろうよ。導師であるお主に対し、こやつは態度が大き過ぎるからの』


 でも身分制度は撤廃されたわけだよね? マーニが抜けてないだけかな。


『いや、このホルンという男にお主が侮られておるだけよ。身分制度が撤廃されようと、階位は依然として存在しておる。お主の通う職場でも、立場が上の者は形だけでも敬われておるだろう。それをしないという事は、そういう事よ』


 まあ、別にいいや。僕は気にしないもの。


 むしろ外の者が偉そうに振る舞って引っ掻き回す事の方が問題でしょ? それをさせまいと態度に表す彼は、この場所にとって頼もしい人だと思うよ。逆に好感を持ったかな。


『お主らしい考え方だの』


 ただね、行き過ぎると部署のためにならない事もあるから心配。人間って理性と感情の間で揺れ動く生き物だから。上の人間の不興を買って部署丸ごと冷遇されるとか、聞かないわけじゃないからさ。


 もちろん僕はそんな事しない。彼とも仲良く出来たら良いよね。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  四


  筋力  六

  敏捷 一六

  魔力 二〇


 魔導器 強化属性剣

拡張機能 変幻自在   小領域作成

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     識別

     軽業     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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