二人とも覚えとれよ……
大広間には魔物の群れがいた。数は十三匹。その内訳はホブゴブリンとオークだ。ただししっかり武装している。名前が変わっていないけど、通常より階級は一つ上だ。個人差みたいなもの? 金属と革を組み合わせた防具を全員が纏い、ホブゴブリン六匹は剣と弓矢で、オーク六匹は斧と盾で武装してる。
そして最後の一匹、魔力が他より強い一匹はホブゴブリン・ファイターのユニークだった。名前は『咆哮のコ・ハ』。何かもう、うるさそうだってわかる名前だ。階級は五。
コ・ハは一匹だけ、金属製の武具一式で全身を固めている。重いはずだけどしんどそうなわけでもないから大丈夫なんだろう。武器は長い曲剣だ。背中ではなく、手に鞘を握ってる。
大広間の四方の角付近に篝火があった。ホブゴブリン達は中央で談笑中だ。一方でオーク達はこちらとあちらの入口付近の警備。立場の違い? ユニークのコ・ハがリーダーだろうし、同族を優遇するのも道理か。階級も上だしね。
そんな大広間を奇襲するわけで。最初のターゲットは当然オーク達となった。通路から刀身を飛ばし槍を投げ、一匹ずつを葬る。残った一匹はセンリに任せ、僕は中央のホブゴブリンへと二発目を放った。これも命中。全て致命傷となる場所に当てて、計四匹を一気に片付けだ。
そうしたら部屋に飛び込んだ。通路に複数の矢を射かけられては、防ぎながらの戦いを強いられてしまう。そうなれば僕が防御に徹するしかなくなり、攻撃の手はセンリ一人だけだ。投げ槍も誘導はするけど、大袈裟に動けばかわせない事もない。ただ無駄に撃ち合うばかりって状況になる。
それでも向こうの矢は尽きるだろうから、ありと言えばあり。でもその後はこちらで、決して広くはない通路で接近戦になるだけだ。しかもその時には向こう側のオークも駆け付けているはず。それならまだ来ていない今の内にホブゴブリンを一匹でも多く倒して相対する数を減らすべきで、そのためには中へ飛び込んで矢を避けながらでも速攻を仕掛けた方が効率的だ。多分。
センリの魔術も通路よりは部屋の方が都合良いらしい。なので僕達の作戦はこちらから接近戦に持ち込むという事に決まった。
「出て来て、ホノカ! ホムラ!」
センリが名を呼ぶと、炎が二つ彼女のそばに現れる。火の粉がはらはら散ったと思った次の瞬間に小さく燃え上がって一つが。そして爆発して噴き上げ、渦を巻いて大きなもう一つが。
小さな炎はセンリの周りを飛び回り、肩の辺りに滞空すると鳥の姿へと変わる。大きな炎はそのうねりが身体をひねったかのようにして虎を形作る。二つの炎はそのまま彼女に追従してそばを飛び、駆けた。
炎の鳥と虎を呼び出す。それが彼女の魔術のようだ。
……やっぱり名前は付けるよね!
「どっちがどっちです!?」
「ホノカが鳥!」
鳥のホノカちゃんに虎のホムラちゃん、覚えた!
いよいよ本格的に戦闘が開始された。オーク三匹という前衛をいきなり失ったホブゴブリン達は、然程慌てなかった。素早く弓を構えて、五匹が一斉に撃つ。僕に来るのは二本だ。これを剣で払い、風の盾で防いで進む。同時に返す刀で刀身を飛ばしたけど、引き抜いた剣で防がれてしまった。
三本の矢がセンリ達を襲う。ホノカは構わず飛び、ホムラは自ら矢を受けに突っ込んで行く。矢はホムラの中で焼かれてしまった。
残りの一本はセンリが避けて、一旦勢いは削がれたけれどまた駆け出す。そのスピードはさすがに陸上部。加速が違う。
センリとホムラがホブゴブリンの群れに駆け込んだ。次の矢を番える暇が無く、剣を抜いた彼らは接近戦に備える。その表情から笑みは消え、鋭く敵である僕達を睨んでいた。
もちろん僕も合わせて飛び込む。剣を二振りして牽制射撃しておき、槍を構えて突進するセンリをカバーするようにホムラと左右を固めた。そして接近戦へと突入する。
甲高く気迫充分に声を上げながら繰り出したセンリの突きは、ホブゴブリンの一匹の胸目掛けて放たれた。半身引いて避けようとしたけれど、センリのスピードが勝り肩を捉える。続け様の連続突きをホブゴブリンは何とか剣で凌ごうと動き、痛みに顔を歪めながら辛くも成功させて飛び退いた。
横合いから彼女に斬り込もうとしたホブゴブリンはホムラが迎える。炎の虎に飛び付かれ、慌てて大きく退いた。そこを上からホノカが襲う。顔面に直撃した急降下攻撃に悲鳴を上げ、転がってのた打ち回るもホノカは離れず、再び飛び上がった時には酷く焼け爛れて動かなくなっていた。気絶したらしい。消えないから生きてはいる。
あ、ホムラが飛びかかった。……その運命は見届けるまでもないか。
そんな一連の攻防を魔力感覚で把握しつつ、僕もホブゴブリンに斬りかかった。剣のぎりぎり届かない間合いから刃を撃ち、防御を誘っておいて伸身宙返りで飛び越える。そして着地と同時に背中を斬った。その速度は魔力操作込みだから当然速い。刃を返して首を斬り裂き、この一匹を仕留める。これでホブゴブリンは残り三匹。
さらに直ぐ様高く跳ぶ。今の今まで僕のいた空間を二振りの剣が通過した。横手からのホブゴブリンと、真後ろからのコ・ハだ。
反撃とばかりに上から刃を降らす。ホブゴブリンはこの雨に抗い切れず、身を固めるようにして頭を守った。けれどずたぼろだ。
一方コ・ハは長い曲剣を巧みに素早く振り回して防いだ。あの剣を僕と同じくらいのスピードで振れるの? さすがに強い。
センリは突撃した一匹に追い縋っていた。剣と槍の戦闘になるけど、既に肩へ一撃を入れている。決着はすぐに訪れると思われた。けれどそう上手くは行かないようだった。ホノカが甲高く一声鳴いて、敵の接近を知らせる。オーク三匹がすぐそばまで迫って来ていた。位置的にはセンリが襲われる。大丈夫だとは思うけど、加勢しておこうか。
「そのホブゴブリンもらいます!」
「わかった! オークに行く!」
返事を待たずに、上からホブゴブリンへ襲いかかる。風盾を蹴って身体を反転、飛び蹴りを見舞った。その蹴りは、斬れる。刃鷲脚を受けたホブゴブリンはざっくりと裂けた自分の身体を信じられないものでも見るかのように眺め、どさりと倒れた。黒く変色し、塵に還る。
ふと、センリの視線を感じた。
……え、待って。何でがん見?
「撮影中!」
「嘘お!?」
「ばっちり! じゃ、行ってくる!」
完全にスカートの中見てたよね、今の。戦闘中に何やってんのさ!? ああもう、八つ当たりだ! コ・ハに向かって憤りをぶつけてやる!
と、思って振り返った瞬間だ。定めた標的から魔力が溢れ出す。それは魔術の前兆。
直後、コ・ハが吼えた。その咆哮に、僕の身体が痺れるような感覚を覚える。膝から崩れ落ちてぺたんと尻餅を突き、後ろへと倒れた。身体が動かない。
そこへコ・ハのそばにいたホブゴブリンがすぐにやって来て、僕にのしかかった。
え、マジですか? そういうのはしないって言うし、食事的な意味で食べられる? でもインキュバスとサキュバスはいたんだっけ。そしたらそういうのもするかもしれない?
なんて思ってると、センリの呼ぶ声が聞こえた。身体はまだ動かない。魔力操作も試すけど、硬直してるらしくて操り人形みたいにすら動かせない。それどころか魔力に乱れがあるのか上手く扱えてない。おかげで魔術の発動も無理だ。
オフショルダーの胸元に手がかけられた。そしてずるっと引き下ろされる。
…………その瞬間の顔と言ったら。
外と中とから笑い声が響いた。
「あ、あははははは! 何今の顔!? すっごい残念そう! 見た!?あははははは、ああ可笑しい!」
『ははははは! これは傑作よ! 何とも表情豊かではないか! まさか魔物が、このように残念がろうとは! いや、これはもしや哀れまれておるのではないか!?』
二人とも覚えとれよ……。
ホブゴブリンはコ・ハに頭をひっ叩かれて、何事か彼らの言葉できつく言われてる。そしたら酷くしょんぼりした顔になって、渋々という様子で脇に放った剣を取った。これはわかったわ。「馬鹿野郎遊ぶな! とっとと仕留めろ!」って感じで怒られたんだ。
コ・ハの判断は正しい。
だって、痺れはもう解けたもの。
ホブゴブリンの首に向けて魔力双角を放つ。この至近距離なら魔力を込めずとも深く突き刺せる。さらに二重の魔力操作で押してやれば、それで致命傷だ。
穿たれた二つの穴から血を流し、僕をどちらの意味でか食べようとしたホブゴブリンは背中から倒れた。床を蹴って跳び、そのまま後方宙返りして立つ。そして魔力感覚で戦況を確認すれば、残っているのはコ・ハとオークのみ。ホムラもホブゴブリンを倒し終わっていた。
オークは任せておける。そうと決まれば……おっとと。服をちゃんと着よう。
「ぷ……くくく」
まだ笑ってんの!?
……僕の相手はコ・ハだ。油断せずに行こう。
「……後で酷いですからね!」
「ごめんなさーい!」
おかしい。緊張感無いししっちゃかめっちゃかだし。これで良いのか。
『いつもの事だの』
……まあそうだけどさ!
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 強化属性剣
拡張機能 変幻自在 小領域作成
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 識別
軽業 跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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