両親の会話にそっと耳を傾ける
「葉子は最近、少し変わったか?」
「そうねえ……。表面的には見えないけど、仕草が少し年相応になったかしら?」
ASからログアウトして二階の自室から一階へと下りた葉子の耳に、両親の会話が聞こえた。その話題は娘である自分の事で、二人は変化があったと認識しているらしい。
本人にはそのような意識など全く無い。けれどこういうものは自身よりも周りが気付くものなのかもしれない。そう考えた葉子は、両親の会話にそっと耳を傾ける。
「やはりそうか。急いで部屋に戻ったり夜更かししてみたりも、以前は無かったよな」
「それを言うなら先週よね。まさか友達と泊まりに行くなんて」
「ああ、あれには驚かされたな。しかし、何がきっかけだったんだろう?」
「時期的にはやっぱり、あの……何とかって言うゲームじゃない? 高校三年生になった事も時期は重なるけど、変わった様子からしたら違うわよね」
「swivelな。だとしたら、嬉しい誤算だったか」
「そうね。誰かさんが剣道なんて教えちゃったものだから、あの子全然笑わなくなってしまったものね」
「それは言わないでくれ。まさかこんな事になるなんて思わなかったんだ。ただ、人より強くなれればと、あの子を守りたい一心で……」
「ごめん、わかってるわ。ちょっと意地悪言ってみただけ」
「酷いな……」
二人の笑い声が聞こえ、葉子のどんなところが変わったのか代わるがわる挙げ始めたところで居たたまれなくなって居間へと足を踏み入れた。
両親は突然の事に驚いたが、そのほんの僅か赤に染まった顔色を見てまた大いに笑う。
「聞こえていたか。済まん済まん」
「……別にいい。でもわたしの前ではやめて」
葉子が正座で座ると、母親が湯飲みに茶を注いで用意する。それを一口啜り、変わったという心当たりを自分なりに考え始めた。
強さに関しては、考えるまでもなく明らか。今の葉子は、ASを始める以前よりもさらに強くなっている。様々な姿形をした、人より遥かに身体能力の高い魔物達を相手取って今尚不敗。立ちはだかる全ての魔物を彼女は斬り伏せて来た。その戦いと旅路の間に葉子は研鑽を重ねている。大きな者との戦い方、素早い獣との駆け引き、飛ぶ敵への対策などなど、考えねばならない事は多く、その全てが彼女を強く成長させた。
人との戦いでも同様だ。日本にいては戦えないような実力を持つ者との稽古は得難い経験をもたらし、彼女の腕をより高みへと押し上げた。絶対の自信を持って、今なら誰に負ける事も無いと考えている。
精神に関してはどうか。こちらについて、葉子は変化を感じていない。いや、いなかったのだと振り返って自覚した。確かに自分は変わったのかもしれないと、今更ながらに考え直していた。
何故自分は、他人にこんな執着を抱いているのだろうか。振り返った瞬間浮かんだ顔があったために、葉子は自問する。
少女のような青年の、可愛らしい笑顔が真っ先に思い出されたのだ。
そしてそれは、そのまま心当たりであった。自分が変わったのなら、それは彼のおかげだとはっきり感じた。それは急激な変化だったか、或いは緩やかな変化だったか。彼女にはわからない。
しかし出会っておよそ一ヶ月、まさか恋人になろうとは思いも寄らなかった。それも彼からではなく、自分から求めた。これを変化と呼ばずに何を変化と呼ぶのか。
そして到達したこの答えをそのまま、口からこぼした。
「……変わったのはあの人の、恋人のおかげ」
「こ、恋人!?」
「あらまあ……」
父親は驚きのあまり慌てふためく。危うく湯飲みを取り落としかけ、辛くもそれを立て直して机に置く。そして念のためにと、一度尋ねた。
「恋人が、出来たのか?」
「……うん。……駄目?」
「いや、もちろん構わないとも。それでやるべき事を疎かにしなければな。『お前に娘はやらん』なんて時代錯誤な事、父さんは言わないよ。だが、紹介はして欲しいぞ」
「そうね。どんな人なの?」
「……年上の、可愛い人」
両親は揃って疑問に首をひねる。年上であれば普通、可愛いという印象はなかなか抱かないものだ。特に十代の少女であれば。
しかし二人はすぐにその考えを改めた。自分達の娘は、普通と言える範疇から随分と逸脱しているのだから。
「まあ、そういう事もあるか?」
「あるかもしれないわね。どんな風に可愛いの?」
そうして尋ねた問いに対して出て来る言葉が、両親をさらなる困惑の渦へと飲み込んで行くのだった。
一頻り恋人の話をして部屋へと戻る娘の背中を見送り、残された二人は安心したような顔を見せた。特に父親……渡は深い溜め息を吐き、机に突っ伏してしまう程。胸のつかえが取れたような様子に、母親……美樹はくすりと笑みをこぼす。
渡の趣味が娘の葉子に与えた影響は大きい。そして渡は、この事に長らく頭を悩ませていた。それが少しばかり解消されたのだ。夫婦のどちらにとっても喜ばしい事だった。
「気に病み過ぎなのよ。剣道を始めたからって、それだけであんな風に育たないわ。きっと葉子なりに思う事があって、ああなったのよ」
「そうかもしれないが、親がそれで良いのか?」
「良いのよ。悪い子に育ったわけじゃないもの。勉強は変わらずしっかりやってるし、趣味が剣道なのは変わってるけど、悪くはないでしょ」
美樹はあっけらかんと、そんな風に言う。
何が原因で今の葉子があるのかは、両親すらわからない。心当たりが全く無いため、剣道のせいと考えてしまうのも無理のない話だった。けれどそれだけとするのは理屈に合わない。何かしら、もっと根本的な原因があるはず。
しかし美樹にとっては、それもどうでもいい事。娘が健やかで、幸せであってくれればそれで充分。そんなところで恋人が出来たと言うのだから、これ以上の事は無いと思っていた。
ただし、気になる点が無いわけでもない。
「年がねえ……」
「倍だという話だからな。俺達の世代じゃないか」
「同い年かもしれないのよね」
「正直、複雑なところではあるな」
娘の連れて来るだろう恋人が同世代。正確に倍なのか、或いは上や下に多少なりともずれているのか。何れにしても、世代としては同じなのだ。
これをどう感じ、どう考えれば良いのか。
「ま、まあ話は合いそうじゃないか?」
「そうね。ところで、もしかして……先週の旅行って……」
この言葉に、渡は顔面を蒼白とさせた。思わず腰を浮かせたが、膝を机にぶつけて苦悶する。
そんな様子に美樹はくすくすと笑みをこぼした。余程したたかに当ててしまったのか、渡の目に涙が浮かんでいる。
「わ、笑い事じゃないぞ」
「葉子も大人になったものねー」
渡は慌てたが、美樹は何処か安堵した様子だった。訝しんで見る渡に、美樹は胸の内を明かす。
「このまま誰とも一緒にならず、自分を鍛える事ばかりで、一人のままでいるのかもしれないって考えた事もあるのよ。不安だったわ。だから少し、ほっとしたの」
「そうか……」
「もちろん今の恋人と添い遂げるまでは行かないかもしれない。でも私達は、あの子の想いを後押ししてあげるべきじゃない? 例え年がどれだけ離れていたとしても、あの子が選んだのだもの。それに……このタイミングを逃してまた鍛える事ばかりになったらと思うと……」
それは自分の気持ちの問題だから、口に出すのを躊躇った。けれど抱え込むには不安が強く、脳裏に浮かぶただひたすら竹刀を振る娘の姿に、つぐむ事が出来なかった。
ぽつりと、呟く。
「怖い」
その横顔に、渡は何も言えなくなってしまった。
今芽生えた恋心が娘の心を健全に育んでくれるなら良い。しかしただ一時の偶然であったなら。ただ一時、心が揺らいだだけであったなら。娘は再び、己を研鑽する日々に戻るだろう。
その後もう一度心が揺らぐのはいつになる? もう一度はあるのか? それは誰にも、本人にすらわからない事だろう。
そしてそのもう一度が来なければ。
娘は、それでも良いとその時には考えるかもしれない。しかし、そのような人生は幸せだと言えるのだろうか。一人寂しく、家族も無く息絶えてゆく人生が、幸せだと言えるのだろうか。
そのような日々に娘を置き去って、自分達は先に逝くのだ。恐らくは、酷く後悔する事になる。
「大袈裟かもしれないが、葉子は……普通の子とは言えないからな」
「結局自分が安心したいだけなのかもしれないわ。でも、私はあの子に当たり前の幸せを知って欲しい」
ならばどうするべきなのか。答えは出ている。娘を応援し、支援し、成就させて漕ぎ着けさせるのだ。
美樹には最早、躊躇いは無かった。無理にそうなるよう仕向けるなどとは考えていないが、娘が望む限り力を貸そう。背中を押そう。そう決めていた。
そんな伴侶を複雑な思いで眺める渡。父親というものはなかなかに難しい。可愛い娘が奪われるような感覚は、理解していても湧き上がるのだ。しかもその相手が自分と同世代だなどと聞けば、尚更に難しい。
しかしどうするべきなのか、答えは出ている。感情に任せては愚かな父親となるだけだろう。
せめてその男が、納得出来る相手ならば。そう願う事を止められなかった。
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名前 リーフ・セルティウス
種族 エルフ
性別 女性
階級 五
筋力 一六
敏捷 二〇
魔力 八
魔導器 強化打刀
魔術 練気放出 練気強化
練気治療
技術 剣 格闘
軽業 看破
抵抗力
恩寵 旧神フレーティア
ID 〇二五〇〇〇〇〇〇一
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