ふ……まるで運命のようだのう
ジナス様は結局、町の放棄を選ばなかった。籠城戦ではなく野戦で持ち堪える方を選択して、僕達はすぐに砦を出発する事となる。その頃にはカーマインもログインして来ていて、砦に泊まってるプレイヤーで来ていないのはハイボールさんのみ。彼女へは光秀さんがメッセージを送ったけど、仕事の関係で深夜帯しか来られないだろうとの事。
南の陣地までは馬で向かう。レジーナの魔術の馬にはゲイルが、光秀さんの馬にはゾーラさんが相乗り。僕はカーマインが乗馬の経験者だったので、後ろに乗せてもらおうとしたら、前に横向きで乗せられた。スカートだからこの方が良いのかな。
他の人達は全員一頭ずつに乗ってる。リーフはこちらで馬に乗る機会が多くて、覚えてしまったらしい。僕も覚えた方が良いんだろうけど、普段は必要無いからなあ。
「師匠はオレが乗せるっすよ!」
「頼りにしてます」
力強い腕に抱かれるようにして、ぴとっとくっ付く。あ、これ駄目だ。胸が普通に当たるって。思わず身体を離した。
「しっかりくっ付いてないと危ないっすよ?」
「む、胸が……」
「あ……。し、師匠なら大丈夫っす」
今躊躇ったじゃん。僕は魔力操作でバランス取れるから大丈夫大丈夫。くっ付くのは遠慮して、鞍の前の辺りに掴まる。次からは後ろにしようね。
「と言うか師匠、このゲームだと触れないはずっすよね?」
「あ、そうでしたね」
だからって、遠慮無くとは行けないけども。
……ヒルダ様は触れたな。何でだ? 自発的だったから? それともこちらの人だからとか? いや、こちらの人だからって触れるのはおかしいね。どうなってんの?
なんて思ってたら、手を取られた。そしてそのままむにゅっと。
「なな、何してんですか!?」
「何で師匠……触れるんっすか……?」
「いやいや、こちらが聞きたいですよ!?」
感触が、感触があああ!
じゃなくて。やっぱり自発的だからじゃない? それ以外には考えられないし。
「どうしたよ?」
ゲイルとレジーナの馬が隣に並んで来た。他は全員前を行ってるので、小声で話せば聞こえなさそうだ。でも一応端末を使う。
ふわっと出して、そのままちょちょいと。
「し、師匠!? 何で端末が浮いてんっすか!? それに、操作まで!?」
「あ、忘れてました。魔力操作で扱えるんですよ」
「マジか」
「また便利ね……」
早速カーマインが試すと、あっさり動かせた。僕もこれは全く苦労しなかったしね。
「こりゃ楽ちんっすね……」
「ですよね」
それで、四人だけで話す。
「カーマインの胸に触らされました……」
「それだけだと誤解招くっすよ!? 何となく試しただけっす!」
「何となくで触らすなよ……」
全くだよ!
「でも、それで触れちゃったのね?」
「そうなんっす」
「手に感触が残ってます……」
「はっはっは、良かったな。しかしこりゃあ、どういう事だ?」
「自発的だったからじゃないですか?」
「いや、それでも普通は触れねえんだ。だがお前は色々普通じゃねーからな」
自発的だったのが原因じゃないんだ? それじゃ僕だけ、触れちゃうって事? 尚更わけわかんないよ……。
その時、レジーナがふとしたという感じにメッセージを入力した。
「同性だと、触れるのよね」
直後ゲイルが吹き出す。
「それだぜレジーナ! こいつよ、初期服女用だったんだよ! 内部的に性別女なんじゃねーの!?」
「マジですか」
「無えとは言えねーだろ?」
そんなの、バグじゃん! だからヒルダ様に触られたし、触れたって事!? 酷い!
ゲイルめ、大笑いが止まらなくなってるし。
「何か腑に落ちたっす。師匠は女の子過ぎて、ゲームの方で女性と判断されちゃったんっすね」
「でもステータスはちゃんと男性ですよ!?」
「だから内部的な話なんだろうよ。ああ腹痛え」
「ねえ、もしかして両方って事は無い?」
レジーナがまた爆弾を投下する。今度はカーマインまで吹き出した。
「り、両方っすか!?」
「内部的には女性で、でもステータスは男性。それなら両方って可能性もあるんじゃないかしら?」
「おし、ちっとこっち来い!」
何するかは見えてるんだけど、気にはなる。でも、触られるのかあ。しかも胸とかお尻じゃない。前だ。正直きっつい。
ええい、ままよ! 調べておいた方が良いに決まってるし、それならゲイルに頼むのが一番だ。
思い切って後ろに飛び移った。そうすればゲイルは身体を少し傾けて、僕の方に手を伸ばす。僕は馬の上に膝で立ち、少し股を広げて待った。
「触んぞ」
「は、はい」
「絵面が危険っす」
「言うんじゃねえよ!」
うん、思った。これ以上無いくらいまずい絵面のはずだ。
レジーナの苦笑いが見える。つまり彼女もこちらを見てるわけで。まあ、気になっちゃうよね。
そうしていよいよ、ゲイルの手がスカートの中に入った。……うん、触れてるね。
「うげえ……」
「うげえて。触られてるの僕なんですけど。こっちの台詞じゃありません? 後レジーナは顔赤過ぎです」
「だって……」
だってじゃないよ可愛いなあもう。
とりあえず、さっさと戻ろうか。カーマインの後ろに飛び移る。そこで横向きに座って後ろからくっ付いた。
「こりゃレジーナの説が有力だな」
「男でも女でもあるんっすね」
「でもそうなると、ランちゃんは誰からでも触られてしまうって事よね?」
「一人だけR十五の限界越えてやがんの。くくく……」
おのれゲイル。
……そっか。僕は最初から性別の判定がおかしかったのか。初期の服があんなだったのは、そういう事だったんだね。運営にお願いして直してもらう?
でもその運営も、ちょっと怖いんだよなあ。だって、運営はあちらとこちらを繋いでるんだ。そんな事出来るの、神様以外にいる? そしたらその神様って、四神の可能性が高くない? それに調べられるとファリアの事を知られちゃいそうで、その事もまた怖い。
このままでも特別困って…………うん。ヒルダ様の事は困ってると言えなくもないけど実害と言う程じゃない。触られるくらいしか影響も無いし、僕が触らせなければ良いだけの話だね。
よし、このままで良いや。
「この事は秘密で」
「おう、わかってるって」
「もちろんよ」
「了解っす!」
何かこう、色々腑に落ちた。つまり僕は、スタートの時点からおかしかったんだ。そんなバグの結果、何がどうなってかファリアのところに放り込まれた。バグがどう働くかなんて起きてみなければわからない。偶然の産物だ。だから僕達の出会いは全くの偶然で、奇跡みたいなものだったんだ。
再現性が無い事を祈ろう。仮にあったとしてもキャラクターを作り直せば良いだけだと思うし、放っといても大丈夫だよね。
『偶然や奇跡の類いか。ふ……まるで運命のようだのう』
またそういう事言う!
『運命によって、我らは巡り会ったというわけだな。ならばそれは、最早必然と言うても過言ではあるまい』
過言だよ!?
全くこの神さんは……。ああ、顔が熱い。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 強化属性剣
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 識別
軽業 跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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