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開かないで下さいません!?

 砦に入ると、光秀さんは……ドワーフ? の女性を紹介してくれた。彼女も従士のプレイヤーだという。所属は当然第三。連絡要員としてこちらに来ていて、その関係で一緒に来た第二従士隊の人達とは扱いが違うそうだ。


 ちなみに二人とも、僕とは会った事があるらしい。その時は他にもいっぱいいて、多分埋もれてるだろうからともう一度自己紹介してくれた。


「それじゃ改めて。俺は光秀。彼女はゾーラ。それと今はいないがもう一人、ハイボールと言う女性が来ている。よろしく頼むよ」


「よろしくね、ラン! それで、彼女は?」


「僕の弟子になってくれたカーマインです。リーフ様の推薦で、閣下から従士となる事を認めていただきました」


「新しいお仲間ってわけだね! よろしく!」


「まとめてよろしくお願いします」


「お願いするっす!」


 面識が無い、もしくはほぼ無い僕達二人を除くと全員知り合いらしいので、握手もとりあえず二人で交わす。


 そうして挨拶が終わったところで場所を移動しようとすると、二階から階段を下りて来る音が聞こえた。見ればそこには、如何にも貴族の好みそうな衣服を纏った姿が。黒に金の縁取りで装飾した詰め襟の上着とズボン、金の細工と鎖で留めた赤いマント、かつかつとよく響く足音の革靴。にっと口の端を持ち上げて笑みを見せる金髪のキザな男。


 光秀さんが一瞬眉をひそめて、ゾーラさんは苦笑いで、リーフに彼を紹介してくれる。


「ゴラースティン家の前当主によりこの地を任された、ジナス・グラッフェン男爵です」


「反乱には反対して、セルティウス家への忠誠を誓ってますよ!」


「ありがとうミツヒデ、そしてゾーラ。紹介の通り、わたくしはゴラースティン家ではなくセルティウス家に忠誠を誓う者。リーフ様、この砦に配された者は全てあなた様に従います」


 歩み寄ったジナス様はさっとリーフの前に跪き、その手を取って口付ける。それを何とは無しに見下ろしていた彼女は、どうも対処に困ってるっぽい。


 するとそばに控えたヒルダ様が直ぐ様リーフの手を奪ってハンカチで拭い始めた。


「失礼ではないかね、ヒルダ殿」


「黙りなさい。誰の許可があってリーフ様のお身体に触れたんですの?」


「これは異な言葉を。挨拶をさせていただいただけの事をそのように咎められようとは」


「ジグラードの息がかかっていた者は誰であろうとその信用を失っているのですわ。あなたの行いは、本来ならば斬り捨てているところですのよ。反乱には反対したという従士の言葉によって、今は生かされているのだと心得なさい」


 立ち上がったジナス様の目には、特別怒ったような雰囲気は無い。にべも無いと言わんばかりに肩をすくめて、リーフから一歩退いて離れた。


「なれば軽率にお身体へ触れた事、謝罪致しましょう。平にご容赦を」


「……許す」


「感謝致します」


 ……ヒルダ様とは相性悪そうね。何事も無ければ良いんだけど。


 と言うか僕、とっとと魔穴に行きたい……。すんごく面倒臭そうな状況じゃない?







 その後、食事の際にも一悶着……と言うとちょっと違うんだけど、僕達は騒ぐ……って程でもないか。まあ、少しうるさくしてしまった。


 それは久しぶりに行う事となった毒見だ。当然のように僕が指名され、以前同様やろうとしたところでカーマインが自分がやると言ってくれた。けれどこれがヒルダ様に拒絶されたんだ。


「毒見はランが適任なのですわ。あなたには務まらない事ですのよ」


「何でっすか!? こんな危ない事、師匠にさせられないっすよ!」


「カーマイン。気持ちは嬉しいですけれど、ここは押さえて下さい。ヒルダ様の指名は僕なんですから」


 そう僕から言ってたしなめる。しかし彼女は納得しない。


「でも、オレの方が生命力は高いはずっす! オレなら本当に入ってても師匠よりは耐えられるっすよ!」


「あのな、カーマイン。それが問題なんだ。ランが適任なのは、生命力が低い上に身体が小せえからだ。毒に弱えから、その分早く効くだろ? それだけ早くわかるんだよ。それに抵抗出来ちまったら毒が入ってるってのも端末にすら出ねえじゃねえか。それじゃあ毒見役としては失格も失格だ」


「おお、そういう事だったんですか!」


「お前はわかってなかったのかよ!?」


 あははは、お恥ずかしい限り……。


 だって、毒なんて普通の日本人は気にしないでしょ!


「まあほら、放浪者は仮に毒で死んでも死に戻るだけですから。だから大丈夫ですよ」


「でも、師匠を危険にさらすなんてオレ……」


「カーマインは良い弟子ですわね。けれど主人はリーフ様ですわ。主人より師を優先するようでは、従士など到底任せられませんわよ?」


 厳しいようだけど、ヒルダ様の言葉は正しいね。師匠と慕ってくれて、大切に思ってくれるのは嬉しい。でも僕は従士としてここに来てる。だったら従士としての仕事が出来なきゃいけない。彼女も従士になるのだから、そこはわきまえなければならないんだ。


 従士なら主人のために、最善の判断と行動を選ぶ必要がある。だから今は僕が毒見するのが一番正しい。従士になるならそれを理解して、受け入れられないと駄目だ。


 でも従士の話なんて、彼女にとっては突然降って湧いたような事だろうしなあ。なってもならなくてもどちらだって構わない、得になりそうだからなる事にした、そんな程度の話なんだろう。従士の心構えなんて、彼女には無縁のものだ。だから難しい。


「カーマイン。あなたが僕の事を思ってくれるのはとても嬉しく感じています。ですが、同じように僕はリーフ様を大切に思っているんです。どうせ毒なんて入っていないのですから、形だけでも格好付けさせてもらえませんか?」


 僕にとっても、実のところ従士なんてそこまで執着のある仕事じゃない。リーフやヒルダ様、ゲイルやレジーナがいるからやってるみたいなところが少なからずある。でもそんなのだから、リーフのためを思えば動こうと思えるし毒見役だって厭わない。


 結局、僕もカーマインとあんまり変わらないんだよね。仮に閣下かリーフかどちらか選ばなければならない状況に陥ったとしたら、従士ならば閣下を選んで当然だろう。けど、僕はリーフを選ぶ。彼女と同じだ。


 よくわかるから、こんな言い方しか出来ないね。


「……わかったっす。でも師匠に何かあったら、オレはただじゃ済まさないっすから!」


 しかし、慕われたもんだなあ……。魔力操作について教えた事、ここまで恩に思ってくれるなんてね。義理堅い人だ。後で頭を撫でくり回そう。


 ヒルダ様も納得したように頷いてくれて、この場はようやく落ち着いた。ジナス様なんてカーマインの熱い心情に感動したと言って憚らない。でも口説くのはやめたげて。顔を真っ赤にして困ってるから。可愛い。


「オ、オレには師匠がいるっすから!」


「おや、師弟愛以上のものを持たれているのかな? しかし女性同士だろう? 君もそういう好みの方なのかね?」


「師匠は男っすよ」


「な……まさかだろう? あんなに愛くるしい者が、男だなどと……!?」


 まあ、いつもの奴。


「……いや、しかしそれもまた……なるほど。これが新しい扉が開くという」


「開かないで下さいません!?」


 違った! いつもと違ったよ!




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  四


  筋力  六

  敏捷 一六

  魔力 二〇


 魔導器 強化属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     識別

     軽業     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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