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切っ先を貫き通す

 圧縮作業は順調だ。でも生命力の残りは少ない。本っ当にじわりじわりと削られてる。


 とんだどSだよ、このワンコロは!


 ……後ね、その……何て言うの? この犬、雄なんだよ。そしたら下腹部にさ、ぶら下がってるじゃない? アレがね、物凄いのよ。おっ勃っちゃっててさあ……。


 見えちゃったんだよ! 不可抗力だよ! 覗き込んでなんてないから!


 魔物って、やっぱりそういう事するんだ? ウ=ス異本展開なんてお断りなんだけど。


『聞いた事は無いのう。あやつらにとって生命はあくまでも食らう物。こうして戯れに嬲る事はあっても、そのような行動に出るなどと聞いた覚えは無い。魔物が変質しておるのならば、その限りではなかろうが。我の知識も随分と古いはずであるからの』


「単純に嬲ってたら興奮しちゃった、とかなら良いんですけどね……」


 それはともかく。


 度重なるぎりぎりの攻撃によって、とうとう生命力が一点に。持久力も削れてて、こちらも限界が近い。そんなところで、魔力二点の圧縮が完了した。やっと攻勢に出られる!


 問題はこれを何処に突き刺すか。体毛の時点で結構硬いみたいだし、身体に刺せるとは思わない方が良い。だったら、口とか目? そういうところって、基本的には難しいんだよね。不意でも突かないと、まず避けられるでしょ。


 狙うなら炎を吹く瞬間かな。危険が付き纏うけど、それ以外のタイミングでやろうとしても普通に避けられて終わりそう。


 そしたら、何とかして炎を誘わないと。離れ過ぎたら剣が届かない。剣の届く距離で炎を吹いてもらう。そのためにはどうしたら良い?


 …………炎は二つの口から吹ける。それは範囲が広いって事だ。範囲の広い攻撃を誘うなら、ちょこまか動いて面倒臭いと思わせれば良い。ブーレイの周りを動き回って、鬱陶しいと感じさせれば良いんだ。


 僕に出来るかわからないけど、やるしかないよね。




 爪や牙が届かない距離を維持するように、ブーレイの周りを回り始める。魔力の圧縮が終わって余裕が生まれたからか、これまでより上手く回避出来るようになった。ファリアの声にも直ぐ様反応して動けて、手を抜かれた攻撃なんてもう当たらない。何せ本当にぎりぎりを狙ってるんだ。半歩ずれただけでかわせてしまう。


 そうしたらもっと強烈な攻撃をして来るかも、なんて心配は必要無かった。ブーレイはこれまでのやり方を変えようとまで思わなかったらしい。


 爪も牙も体当たりも回り込んで距離を取って避けるならば、炎で制限すれば良い。これまでと同じように、僕の左右に炎を吹いて壁を作る。そのための体勢に入った。


 四本の足を踏ん張って大きく息を吸い込んでいる。狙っていたチャンスだ。僕は全力疾走して、一気に接近する。


 けれどこれまでと違う僕の動きに一瞬戸惑って、ブーレイも違う動きを見せた。その顔は完全にこちらを向いている。


『いかん、直撃するぞ!』


 頭ではわかってた。でも身体はもう止まらない。口が開く瞬間も少しずれて、目論見は見事に外れてしまった。でも身体は、もう止まらないんだ。


 予定よりほんの少し遅れた炎は、僕の眼前に吹き付けられる。視界いっぱいに広がりゆく赤。一瞬前までには無かった熱量が膨れ上がるように広がり、焼き尽くさんと生み出されつつあった。


 それに対して僕は、反射的に跳んでいた。脳裏に浮かんだのはやはり、体操選手達の競技する姿。馬の背を短くしたような形状の器具に手を突いて宙を舞う、跳馬の競技。


 炎を飛び越えるようにしてブーレイの背へ手を伸ばし、片手での前方転回にひねりを加えて背後へと着地した。そして閃きのまま、目の前に見えたその穴へと剣の切っ先を貫き通す。


「あ」


『おう……』


「ワオオオォオォォォオッ!?」


 悲痛な叫びを聞きながら、思い切り横へ跳んで伏せた。直後に、轟く爆発音。


 ……ああ、僕は何て事を。




 ブーレイは、口にするのも憚られる状態だった。ひくひくと痙攣しながら倒れ伏していて、その下半身は見るも無残なあり様。


 あんまりにも可哀想だったので急ぎ刀身に魔力を込めて首を刎ね、とどめを刺して差し上げた。


 そうするとその死体は形を失うようにして、ぐずぐずと崩れ始めた。まるで固まっていた砂の結び付きが解けたかのように塵と化してゆく。そしてやがてはその塵も消え去ってしまい、跡形もなく消滅した。


 魔物は、こうして消えてしまうもの? それともこの個体が特別?


『魔物は全て、このように消える。稀に一部を残すが、それは強い力を持つ特殊な部位のみ。昨夜話した、魔道具に使う物だ』


 あの話ね。じゃあブーレイは何も……じゃなかった。インベントリに入るんだっけ。


 と思ってたら、短い振動を感じた。端末の揺れに似てたけど、もしかして?


 出してみると通知が来てた。端末を外に出してなくても振動は感じられるんだ。これまた便利。


 通知は……階級上昇? え、もう? ブーレイは、こんな悲惨な死に方しちゃったけど階級六だっけ。そのおかげかな?


 ステータスを見てみると敏捷が一点、魔力が三点増えてた。順に十四、十八だ。おかしいね。新しい階級の数値と同じだけ成長するはずなのに、何故か一点多い。これも恩寵のおかげ?


『我の恩寵か? 残念だが魔力を増やす効果など無いぞ。飲まず食わずでも死なず、眠りも要らず、老いる事も無い。それが我の恩寵の力よ』


 おー。老化についてはゲームで実感出来たりしないと思うけど、食料や水が要らないのはすごい助かるね。お金がかからないで済む。


 処理としては、魔力が全快した後に自動回復される余剰の魔力をそちらに用いる、というものだそうだ。すんばらしい。


 でもそうなると、魔力については不明なままだね。


「では魔力が増えたのは……?」


『お主の魂が再生により強くなったためよ』


 筋肉みたいに超回復で増強された? という事は!


『だが、次があるなどと思うでないぞ。再び魂が酷く傷付けば、今度こそ砕けて消え去ろう。そのような事は我が断じて許さぬ』


 あ、はい。肝に銘じときます……。


 これはゲイルにも話せないな。恩寵について勘違いしたままになるけど、魂が傷付いてパワーアップしただとかそんな馬鹿げた話…………ちょっと待って?


 ファリアって、あちらに付いて来れたよね? って事は、ゲームのお話だとか設定だとか、そんなもので僕の中に入ったわけじゃないんだよ。


 …………僕の魂って、本当にやばかった?


『今更それを言うのか。当然であろうに』


 何と恐ろしい。




 さて、気を取り直して。魔術が増えてる。その名は『魔力感覚』。魔力を知覚する感覚を得る、という持続型の魔術だ。


 早速使って試……魔力が無い。回復を待とう。


 技術も一つ選べるね。今度は何にしようか。傷の治療に手当が欲しいけど、これ道具が必要みたいだ。何にも無いから無理だね。そしたら攻撃を避け切れるように回避? 自分で出来るようになった方が良いってわかってるから、ちょっと躊躇う。


 敵との距離を詰めたり離したりに、跳躍は使えるかな。もしそうなら今のオルトロスとの戦闘だって、ここまで傷を負わずに済んだはず。単純にジャンプ力を強化するとしか説明に無いのが困る。でも使えそうだよなあ。


 ……よし、跳躍にしよう。駄目なら駄目で、他の使い道を探す!


 結構強くなったね。魔力三点を込められるようになったから、それだけでも相当違うはず。後は諸々の自動回復を待って行動開始だ。




 そう言えば、結局ブーレイの『凶爪』は見られなかったね。油断していたぶる事ばっかり考えるからこうなるんだよ。おかげで助かったけど、僕も油断だけはしないよう心がけよう。


 あんな死に様はちょっと、ねえ。




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  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  三


  筋力  六

  敏捷 一四

  魔力 一八


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     軽業

     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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ブーレイ「あァァァんまりだァァアァ」

ラン「正直済まんかった」


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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろう物凄くお尻がキュッとなるw
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