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我は戦えぬからの

 僕達は、大広間から出られなかった。


 その理由は目の前にいる。頭の二つある大型犬の魔物が立ち塞がったからだ。


 爆破するのにあれだけの音を立ててたからね。そりゃ来るよね。ガッデム。


 端末のホーム画面に相手の簡単な情報が表示されてる。それによればこの魔物の種族はオルトロス。個体名は『凶爪のブーレイ』。階級は六。それ以上の事はわからない。識別でもあれば、もっと色々わかったりしたのかな。いや、あれはアイテムだけだっけ?


 剣を構えてじりじりと、素人なりに間合いを測る。対するオルトロスはその口から、ちろちろと赤い光を舌のように覗かせている。炎の息だ。その一吹きだけで、僕なんて焼き殺されてしまうだろう。


 名前から判断するに、きっと爪も厄介だ。と言うかこのオルトロス、ブーレイの真価はそちらでしょ。警戒しなきゃね。


 記録しておいたら何処かで役に立つかもしれない。カメラの機能を使おう。端末を操作して視界を使った動画撮影モードに。設定しておけば消してしまっても大丈夫みたいだ、便利。


 さて、格上も格上の四つ差。どうやって覆そうか……。


『先に言っておこう』


「何です?」


『我は戦えぬからの。何もかもを四神に持って行かれてしまったからな、戦闘能力は皆無だと思うて良い』


 おのれ、四神め!


 ちなみに魔導器すら持たない常人とほぼ同じ程度だそうな。戦うための技術はあっても単純な能力値が軒並み低く、戦闘能力としては差し引きで常人並み。筋力や敏捷が六とか七くらい。魔力は高いけど使う手段が無い。そんなわけで、到底戦えないとの事。


 頼ろうとは特に思ってなかったけど、ここまで弱体化させる事ないでしょ。四神は許さんからね。


『ここから声をかける程度ならば出来る。何かあれば我が知らせよう』


「充分助かります」


『うむ、任せよ』


 ブーレイに集中してても大丈夫って事だね。増援なんて来ちゃったらその時点で終わりだけどさ。


『いや、お主の視界外のものは見えぬからな?』


 あらー? でも、言われてみればそうか。中にいるんだから、外を知るには僕の感覚を使うしかないのか。となると、集中してしまって見逃したり聞き逃したりとかをフォローしてくれるのかな?


 まあ、それで充分充分。僕がなるべく広く情報を集められるよう感覚を研ぎ澄まして、得られた情報を二人で精査する感じで考えたら良いんだと思う。


 と言っても、気をつけておくべきなのは視界くらいだ。他に使える感覚は聴覚と嗅覚くらいだけど、どちらも受動的なものだからね。広い視野での情報収集を心がけよう。




 さて、ブーレイは低く唸り声を漏らしている。距離はまだ十メートル程あって、炎の息を吹き付けて来ないから多分射程外。でもこちらの剣は飛ばせば届くはずだ。


 剣を八相に構え、まずは小手調べに袈裟斬り横薙ぎ逆袈裟斬りと連続射出。ブーレイはこれを避けようとしたけれど、こっちだってただ飛ばしてるわけじゃない。魔力操作で軌道を曲げてやった。これは想定していなかったんだろう。三発とも見事に命中した。


 けど、残念な事にほとんどダメージが無かったらしい。驚いたような鳴き声はあったものの血の一滴も流れず、その体毛すら斬れなかった。


 まずいじゃん……。


『オルトロスは、これ程に強靭であったかのう……?』


「個体名がありましたし、特別な個体なのかもしれませんね」


 ゲームではよくあるね。一般的にはユニークモンスターとか呼ばれる類いだ。通常の個体より遥かに強く、特殊能力も備えてるパターンが多い。


 ブーレイの場合は爪で何かしてくるんだろうね。単純に強化するのか、はたまた僕みたいに飛ばすのか。搦め手としては毒なんかもあり得るかも。何にせよ、一撃でも食らったら僕はアウト。覚えたばかりだけど、軽業を駆使して避け続けよう。


 一方攻撃が効かないとわかったブーレイは、露骨に警戒を緩めた。笑いはしないし出来ないっぽいんだけど、その態度は悠然として如何にも余裕綽々だという風だ。むかつく。


 そうなると僕が出来る事なんて一つだけだ。魔力を込めて、圧縮して突き刺す。これしか無い。幸い壁の破壊が良い練習になったから、要する時間は現実的な範疇にまで短くはなってる。


 でも、気付かれたら危険だ。見逃してくれたりはしないだろうからね。ばれないように圧縮を進めないといけない。


 どうしたら良いか。その答えは簡単だ。魔力二点を一気に込めるのではなく一点ずつ、もっと言えばその半分ずつとか、少量を段階的に込めてやれば良い。時間をかけてゆっくりと、今の刀身の大きさを変えないように圧縮する。そうすれば気付かれない。


 というわけで早速始めるんだけど、もちろんブーレイがただ黙って見てるだけのはずがない。まるでいたぶるかのように、一息に仕留めるのではなくわざと手を抜いた攻撃を繰り出して来た。


 それは薄皮一枚だけを切るような爪であったり、行動を阻害するだけの炎であったり、体勢を崩す程度の体当たりであったり。格上過ぎて、僕はそんな攻撃すらも対処し切れなかった。一度目で僕の実力を見て、二度目からはぎりぎり避けられない、防げない攻撃でいたぶる。えげつない奴だ。


 おかげで服は切れたり焦げたりしてぼろぼろに、肌には赤い線が幾つも刻まれた。


「どS!」


『こやつに言うても仕方あるまいに』


 言わずにはいられなかったんだよ!


 傷は何て言うか、そっくりそのままじゃない。血は出ないし、傷口と言うより本当に赤い線。ゲームだし、あんまりグロくならないよう配慮されてるんだね。痛みも攻撃を受けた瞬間にほんのちょこっと感じられただけで、すぐに消えちゃった。それだって軽く爪で掻いたくらいのものだった。


 ただしブーレイの迫力はかなりのもの。傷付く怖さはほとんど無いけど、襲われてる怖さはばっちり。


 僕、今顔色悪くなってると思う。


『何とも、恐ろしい事よ。これがゲームであるという、証なのだな……』


 僕達にとってはゲーム、だけどさ。この世界が実際にどうなのかって話なら、まだ何とも言えないよ。あくまでも、僕達がゲームの形でここに来てるというだけの事だからね。


 知りたいような気もするし、知らない方が良いような気もするし、知るには面倒事を抱えなきゃならないような気もする。なんて考えると、触らぬ神に祟りなしって言葉が浮かんで来ちゃう。


 何かわかりそうなら突き止めるべく動いても良いけど、その程度に思っておくのが精神衛生上は良さそうだ。


『戦いの最中に余裕があるのう、お主』


 戦いながら魔力の圧縮を進め、並行して考え事もする。一度にあれもこれもと出来るようになったのは、完全に仕事のせいだなあ。ブラックなわけじゃないよ。わりとホワイトだよ。ただ、人手は足りてないかな……。


 おっと、ゲーム中に思い出す事じゃないね。あちらの事はここまで!




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  二


  筋力  六

  敏捷 一三

  魔力 一五


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作


  技術 看破     軽業


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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