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もうヤダこれ

 残るヒルダ様に見送られて、僕達は馬車で出発した。戦士ギルドまで移動し、こっそり裏手から中へ入る。ホークさんが段取りしてくれていたようで、僕達は応接室へと真っ直ぐ通された。そこにいたのはキリーさんだ。登録のための準備は全て整えられてる。


 ホークさんはここまで。彼女に後を任せるそうだ。


「問題無いな?」


「うん、任せて」


「では、プレイン。セブン様をしっかり守るのだぞ」


「承知し……じゃなかった。あたしに任せて!」


 キリーさんまで吹き出すし。


「あ、あたし? ふ、ふふふ……やばい可愛い……」


「もう! キリーさんまで!」


「……仕方ない、諦めろ」


 リーフ……じゃなくて、セブンは楽そうで良いよね。ぶっきらぼうな女性戦士だもん。


 物すんごく恥ずかしいんだからね?


 笑顔で去って行くホークさんを見送ったら、早速登録に移った。


「名前はセブンにプレインね。種族はハーフエルフと人間にしとこうか。性別は二人とも女性っと」


「そうなるよね……」


「そうなるねえ」


 くすくす笑いながら、キリーさんは書類を書き進めてる。


 階級は三。一応放浪者の戦士の平均階級が三になるらしい。なのでそれに合わせた。この数字に添うよう動かないといけないわけだね。


 と言っても、僕……あたしは! もうヤダこれ。


 あたしはそんなに変わらない。技術を一つ隠しておく必要があるけど、看破を隠す事にしておけば不便しないしばれもしない。


 問題はセブンだ。彼女の魔術は『練気』という特殊な属性らしい。気の力を扱うこの属性を使える人は、今のところ彼女ただ一人なのだとか。


「……強化と回復に絞ればばれないはずだ」


 能力値を上昇させる練気強化を身体強化、怪我や体力を回復させる練気回復を治癒の魔術として使うそうだ。


 ……一人だけの属性だって。やっぱり主人公じゃん。勇者か何か?


「魔導器の威力はどうにも出来ないから、それは自分でどうにかしてね」


 魔導器、強化させてたっけね。セブンもそうなんだ? これはどうしたら良いんだろうね? あたしはまだ試してもいないから、対策なんて思い付かないよ。


 道中の魔物で確認して、何か考えないとだね。


「それとプレインちゃんは魔力操作、気をつけてね。ランちゃんみたいな使い方出来る人なんて、聞いた事無いからさ」


 そうだった。ハンデどころじゃない事を強いられるんだ。実質、刀身を飛ばす事しか出来ない。


 戦闘大丈夫かな。あたし、魔力操作に頼りっきりなんだけど。


 ……あのね、脳内で吹かないでくれる? 言ってる自分が一番きついんだから。何の罰ゲームさ。




 書類が出来上がれば認識票もすぐに手渡された。プレイン、人間、女性……。IDは適当な文字列になってる。


 インベントリに仕舞ったら、いよいよ出発だ。


「いってらっしゃい」


 応接室で見送るキリーさんに別れを告げて、あたし達はギルドを表から出た。真っ直ぐ南へ向かい、トリシアを出てしばらく歩いたところからスピードアップだ。人の目を気にしながらだけど、全速力で街道を駆け抜けた。……セブンが。


 普通に歩いて行くと、目的地のソーセリエントと言うランドバロウ南部の中心都市まで三日かかる距離らしい。さすがにそんな時間はかけられない。なのであたしは彼女に抱き上げられて、お姫様抱っこの状態で魔力操作を使う。セブンのスピードに合わせて移動させた。なので抱き上げられてるけど負担は一切無い。


 本当は逆が良いんだけどなあ。


 魔物がいたら、試しに戦ってみた。見つけたのはコボルド四匹だ。ホルダーから柄を抜いて刀身を発生。


 ……見た目は然程変わってない。輝きが増してるくらいで、見慣れてないとわかんないレベル。ただし、そこに込められてる魔力は大幅に上昇してた。大丈夫かな、これ。


 まずは一匹。刀身を飛ばして斬る。飛ぶ速度は魔力操作によって向上したくらいで、特別変化は無い。けど、当たった後が違った。すっぱり真っ二つ。刀身だけで斬るのでは余程柔らかい相手じゃないとこうはならないはず。それなのに、真っ二つだ。


 これは強過ぎるなあ……。


 怯んだ二匹目には接近戦。手応えを確かめる。飛び込むようにして襲いかかり、袈裟斬りにする。飛ばした刀身であれなんだから両断するのはわかり切ってた。でも、手応えがほとんど無い。バターでも切ったようだなんてよく言われるけど、まさにそう感じた。


「怖っ!」


「……見事だ」


 他の二匹はセブンが片付けてる。素早い踏み込みから繰り出す一瞬の二振りでずるりと崩れ落ち、そのまま塵に還ってた。


 鞘にかちんと収めて、すっとあたしを抱き上げる。慌てて刀身を消してホルダーに収めた。


 そしたらまた移動だ。その間は、どう誤魔化すべきかに頭を悩ませた。


「……気にしても仕方ない。強い放浪者なんだと思わせれば良い」


 なるほど、逆の発想か。弱く見せるんじゃなくて、自分達は強いんだと思い込ませてしまうわけだ。プレイヤーには一部すごい腕前の持ち主がいる。彼女もそうだ。そういう放浪者だって事にしちゃうわけだね。


 それによく考えてみれば、彼女の強さを隠せるわけがない。今のを見てまた思い知らされた。刀を扱う一挙一動が素人目にも違うってわかるもの。自然体の構えを見れば常日頃から刀を握ってる事を察せるし、身体と刀の動きを見れば迷いの無さや磨かれた技術の高さが窺える。それを隠そうとしたら、逆にわざとらしくて気取られちゃう。


 それならいっそ、強いって事にしてしまった方が怪しくないね。


 でもあたしと彼女は違うからなあ。強く見せるにも、何か考えとかないと駄目そう。難しい。


「……遠距離攻撃だけでも構わない。剣を振る速度だけ見せれば良い。……それで充分強い事がわかる……ぞ」


 うっく……危ない。吹き出しかけたじゃないのさ。演技忘れて、無理矢理付け足したんだね? 不意討ちは卑怯だ。


 ちょっと顔が赤くなった。吹き出すのは止められたけど、にやけてしまうのは止められないね。




 そうして三時間程。町を二つ越えて、あたし達は目的の城郭都市ソーセリエントへと到着した。東側に城塞のある大きな都市で、しっかりと防壁に守られている。門には番兵達がいて、厳しくはないようだけど検問がある。


 戦士ギルドの認識票を見せれば通してもらえた。ぶっきらぼうでも本物の女性のセブンより、愛嬌良くしてる偽物の女性のあたしに視線が集まってるのは、わかり易くて笑ってしまった。


 町に入って通り沿いに歩くと、トリシアやノリアエントと変わらない賑やかさに包まれる。活気のある、普通に良い町だと思った。


 ここで僕達は、ゴラースティン家についての調査を行わなければならない。


 隠密なお仕事なんて初めてだから、ちょっとどきどきしちゃうね。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  四


  筋力  六

  敏捷 一六

  魔力 二〇


 魔導器 強化属性剣

  魔術 魔力操作   魔力感覚


  技術 看破     識別

     軽業     跳躍


  恩寵 旧神ナルラファリア


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

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