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アーティファクトサガの世界へようこそ

 没入型のVR技術を使った最新の大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム、いわゆるVRMMORPGを始めようと思ったきっかけは、同窓会で久しぶりに会った古い友人からのお誘いを受けた事だった。


 パソコンのMMORPGなら遊んだ事がある。けれどその一度で食傷気味になって離れてしまって、以来この類いのゲームには触れてない。


 それでも話を聞いてる内に興味が湧いたのは、僕が根っからのゲーム好きだからか。


 とまあそんなわけで入手に踏み切って、でもハードウェアが品薄なせいで手に入れるまで丸々三ヶ月はかかってしまった。


 何とか購入する事が出来て、早速勧められていた『アーティファクトサガ』と言うゲームをダウンロード。仕事から帰った後の、そう長くない時間を使って始めてみた。


 このゲームは自分の分身となるキャラクターを作って西洋風のファンタジー世界で遊ぶという、よくある類いのものだ。けどこのアーティファクトサガ、通称『AS』は強力な独自要素を備えている。ゲーム内キャラクター、いわゆるNPCのAIが自然過ぎる事や現実の四倍で流れるゲーム内時間だ。漫画とかではよくある設定だけど、これを実現させてしまったところがこのゲーム機とASのすごいところなんだ。


 その代わりにゲームシステムはわりとさっぱり気味だそうだから、人気はあるものの賛否もあるのだとか。


 昨今のMMORPGは職業やスキルなんかをてんこ盛りにして自分のキャラクターをひたすら強化するものが流行ってるから、そういうのを期待して始めると肩透かしになるって彼は話してた。


 さらに現実で習得したものが反映される設計になってるそうで、ここも賛否分かれる部分だった。現実で武道を嗜んでる人程強くなる。素人は当然の如く弱い。そこにはどうしたって歴然とした差が生まれてしまうという。


 ただしこれはファンタジー世界のゲーム。魔法的なものやスキルなんてものもあるそうだから、現実の技術だけで最強になれるわけでもないらしい。


 ゲーム的な要素に適応出来るか、受け入れられるか。その感覚には、現実で身体を鍛えたり腕を磨いたりした人程悩まされるそうだ。現実には無い魔法やスキルという要素が感覚にずれを生み出してしまい、その違和感が意識と身体を引っ張ってしまう。そんな事も無くはないのだとか。


 現実の身体を動かす事に長けた人程、魔法とスキルが邪魔になるなんてね。何だか皮肉な話だ。


 もっともこれも、今では対策が判明してる。それは自分が現実で身に着けた技術に関わらない魔法やスキルを選ぶ事。剣道などを嗜んでる人は剣のスキルを選ばない、能力値を強化するような魔法は覚えない。そんなやり方で一応解決出来る。ゲーム的なアシストが邪魔をするわけだから、それを自ら切ってしまえば良い。わかってしまえば単純な話だったんだ。


 さらには結局、人は慣れる。そうなればやっぱり鍛えてる人が強くなるわけで、この兼ね合いがどうなるかはやっぱり個人差が大きい。そんな話だった。




 それはともかく、始めようか。


 ゲーム機本体、『swivel』と名付けられたこのハードはヘッドホン型で、操作するためのスマートフォンのような端末が付いて一セット。本体の起動や挙動は端末で全て操作出来る。


 装着して寝転がったら端末の画面を点けた。そこにはゲーム一覧がアイコンの形で表示される。一覧と言っても今はAS一つだけ。設定などはダウンロードする前に済ませてあるから準備は万全だ。


 アイコンに指先で触れればゲームが起動された。十秒の秒読みの間に端末の画面を消して、枕元に置いて待つ。秒読みが終わったら身体の全感覚が一瞬途絶えて、次の瞬間には真っ白なだけの空間に立っていた。


 さあ、ゲーム開始だ。







 見渡す限りに白いこの空間には、透き通った灰白色のタブレット端末のような板が浮いている。高さはちょうど胸の辺り。きょろきょろと見回してみたけど、他には何も見当たらない。足には床を踏むような感覚がある。歩く事は出来るようだ。


 軽く跳ねてみるけど現実と遜色ない感じ。手を動かしてみても腕を振り回してみても同じだ。まるで身体そのままにここへ入り込んだかのような感覚。すごい。


 そんな風に少し確かめてみたところ、現実の僕の身体をそのまま再現してるらしい事がわかる。でも何故か白の短いキャミソールと紐パンという姿。どういう事なの……。


 ま、まあいいや。


 目の前に浮いた端末には黒でメッセージが表示されていて、円に囲まれた次へ進むための文字もある。


《アーティファクトサガの世界へようこそ。こちらの世界『アルス』におけるあなたの身体、あなたのキャラクターを作りましょう》


 ゲーム世界の名前はアルスね。次へ進めると画面が切り替わる。そこにはキャラクター作成という文字が書かれていて、髪の色と瞳の色を設定出来るようになっていた。どちらもRGBで色を自由に変えられるみたい。


 キャラクターを作ると言っても、容姿についてはプレイヤーが設定出来る事はあまり多くないと話には聞いてる。何でかと言えば、実際の姿をそのまま使うから。精々この端末に表示されてる通り、髪と瞳の色を変えられるくらいだった。髪型だけはゲームが始まってからも弄れるそうな。


 なので、僕の容姿も当然僕そのままになる。母さんと瓜二つの、長年男の娘と呼ばれ続けた、この少女のような姿のまま……。


 気に入らないわけじゃないんだ。もう慣れたし、吹っ切れても開き直ってもいるから。


 少し考えたけど髪は黒のまま、瞳はほんの少し紫がかった鮮やかな青にする。ラピスラズリの色だね。僕の好きな色だ。


 設定を弄り始めると、端末を挟んだ向こう側に僕そっくりの人影が現れた。背中中程に届く長い黒髪は僕自身と変わらず、瞳だけはラピスラズリの色、瑠璃色だ。すっきり整った細面は母さんそっくりの少女の容貌。目の形は父さん似なんだけど、大きめで垂れ気味だから母さんよりも女の子っぽくみえるんだよなあ。


 体型も同じく母さんそっくりで、身長百五十センチの細身な体格。撫で肩から深いくびれを辿って大きめの腰回りと形良いお尻に繋がる曲線は酷く女性的。当然男なので胸は無いよ。


 周りから眺めてみた容姿もぺたぺた触ってみた感触も、そのままに再現されてる。特に問題は無い。僕自身と同じく白いキャミソールに紐パンという格好に目を瞑れば……。


 決定すると、今度は『魔導器』というものを設定するようだ。これは一人一つだけ持つ事の出来る特殊能力的なアイテムで、プレイスタイルへダイレクトに関わるとの事。


 タイトルにあるアーティファクトとは、これの事らしい。ルビとかは無いけど、魔導器と書いてアーティファクトと読ませるとか?


 それはともかく、辺りに幾つもの灰色の光が現れてファンタジー世界らしい様々な物を形作った。剣や鎧、ローブやランタンなどが雑多に浮いている。


 種別としては武器、防具、衣類、道具と言ったところ。端末を操作して選ぶ事で、各種別のみにする事も出来た。


 選択肢は多いけど、こういうゲームなら武器とか選びたくなるよねえ。


 迷わず武器の項目から、定番の剣を選択。すると古今東西様々な形の刀剣類が周りに現れた。いわゆる一般的な西洋の剣であるブロードソードから日本の刀、決闘用と言われるレイピア、中近東のシャムシール、波打つ短剣のクリス、刺突特化のスティレットなど、目移りするくらい種類が豊富だ。


 その中に、某SF映画にあったような物が一つだけ混ざっていた。二十センチ程度の長さの細い柄の先に一メートル程の光が集束したかのような刀身を浮かせた、まさに光の剣と言った形状の一振り。


 思わずそれに手を伸ばし、掴み取った。


 その瞬間、灰色だった全体の色が突如として変わる。柄は黒に、光の刀身は瑠璃色に。


 振り回してみると軽くて扱い易い。柄の長さは両手で掴めるくらいあるけど、この軽さなら片手でも充分扱える。


 剣なんて学生時代に剣道の授業でかじったくらいしか経験が無いから、これを選ぶ事に不安はある。でもせっかくのゲームなんだ。有利不利に囚われてやってみたい事を我慢するなんて、現実だけで充分だよね。


 端末には『魔術』という項目が現れていた。そこに『魔力操作』という四文字がある。


 注釈があった。魔術はプレイヤーが任意に選べない要素みたい。ランダムというわけでもなくて、プレイヤー本人から読み取った何らかの情報と選んだ魔導器によって決定するシステムらしい。つまり、僕がこの光の剣を選ぶ限り同じ魔術になる。そういう仕組みのようだ。


 魔力操作は、魔力を操り動かすという効果だと説明された。漫画や他のゲームだと魔法や魔術を使うためだったり、より使いこなすためだったりするスキルだけど、それが魔術として選ばれてるのはどういう事なんだろ?


 ともあれこの魔導器と魔術が、聞いていた魔法的な要素か。僕は現実で武道を習得してない。ど素人だから慎重に選びたいところだね。


 試しに他の武器を手に取ってみると、魔術はころころと変わった。魔力を捉える感覚を得る魔術だとか、魔力の鳥を作り出して使役する魔術だとか、色々ある。


 ……何故か、魔力をどうこうする魔術が多い。何を読み取ってるのかわからないけど、それが魔力という要素に偏らせてるって事かな。


 魔力と言えば霊力だとか妖力だとかと同じで、魔法やら魔術やら神通力やら諸々に使うものだろう。そういう事に向いてるって扱い? でも結局どの魔導器を選んでも魔術は一つしか表示されないし、向いていたとしてもそんなに意味は無いね。


 あれこれ悩んだ結果、選んだのは光の剣。このゲームでは属性剣と呼ぶらしい。魔術も魔力操作に決定された。


 端末の表示が切り替わる。今度は『技術』の取得。これは複数ある中から選択式だ。一つだけ取得出来る。


 技術は階級、いわゆるレベルの数値と同じ数だけ使えるみたい。最初は当然一だから一個だけなんだね。基本的には動作とか知識の補助をするけど、耐暑とか耐寒とかは成否判定に働くらしいね。解錠とか罠解除とかも同じのようだ。これは現実での悪用を避けた?


 ともあれ技術があれば、現実で格闘技とか習得してなくても戦えるってわけだ。これが他のゲームや漫画なんかで言うところの、スキルだね。スキルの意味が技術なんだから当たり前か。


 武器に習熟する技術とか生産系の技術とか色々あるけど、何にしようかな……。戦う術なんて持ち合わせてないし、剣の技術とか取った方が良いんだろうとは思うんだけど。攻撃よりも防御手段の方が欲しいような気がしてるんだよね。


 でもそういう、戦闘にしか使えないものを取るのは何だか勿体ない。となると、定番と言えば定番だけど『識別』が良いかな。それとも隠しているものが見えるという『看破』か。


 識別はアイテムの詳しい情報が見れる。看破は隠されているものを見抜く。説明にはそうある。


 汎用性なら識別だけど、例えばダンジョンとかがあったとして隠し扉なんかは看破で見つける事になるよね。そうなると看破に浪漫を感じちゃうよなあ。でも使う機会は絶対的に少ない。悩ましい。


 ……ええい、看破で行こう! 浪漫には抗えない!




 最後に名前を入力する。このゲームでは個人をIDで管理してるらしく、かぶっても大丈夫なのだそうな。なので普段から使ってる、普通にかぶりそうな名前で決めた。


 そしたらステータスが表示された。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  名前 ラン

  種族 ハーフエルフ

  性別 男性

  階級  一


  筋力  六

  敏捷 一二

  魔力 一二


 魔導器 属性剣

  魔術 魔力操作


  技術 看破


  ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 種族や能力値は、容姿や体格によって自動で決まるらしい。僕はハーフエルフに設定されたけど、このゲームには耳の丸いタイプもいるという。僕はそちらのハーフエルフだ。


 能力値は筋力、敏捷、魔力の三つ。それぞれが生命力、持久力、魔力量に対応する。これがゼロになるとそれぞれ重体、困憊、昏倒という状態異常を受けてしまう。困憊と昏睡は自然回復するけど重体のみ放っておくと死亡に移行するとの事。


 しかし、筋力六て。実際僕は筋力無いけどさ、ゲームでまでかあ……。


 まあ仕方ない。


 最終確認されたので了承。端末を操作すると周りが暗転して、また全感覚が失せた。いよいよゲームが始まる。楽しみだ!




 新作を始めさせていただきました。

 十話までは一気に二日程度で、その後は一日一話か二話程度の更新を予定しております。

 拙い文章ではございますが、ブックマークやポイント評価などしていただけると幸いです。

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