きっかけ
六月中旬に差し掛かったある日、私は母親からある話を聞いた。
「お腹のMRIを撮ろう」
母は病院に勤めており医師達とも顔見知りだった。それもあって、脳専門ではないものの、何年も一緒に働いてきたある医師に私の症状について話をしたのだという。「こんな事言ってるんですよ」というように。
その時、その医師の頭の中には一つの病気がよぎったようで、それを受けて母は私にそう提案してくれた。
私にしてみれば、それはもう私に残された最後の希望だった。
これによって、私は母が勤める病院に受診してみようということになった。そうして、その病院でお腹のMRIも撮ってもらおうということになったのだった。
しかし、頭がおかしいのに原因がお腹というのはどういうことか。それでももしかしたら、というその可能性に賭け、私は学校を休んで受診した。
脳などを専門とするその先生はあまり乗り気では無かったものの、脳のMRIのついでにお腹のMRIも撮ってくれることになった。
検査結果を聞くためにもう一度診察室に入ると、医師はまず私に幾つか検査をした。正直なんの検査をしたのかは思い出せなかった。きいてみたところ、どうやら認知症の検査をしたらしかった。
一通りの検査を終えてから、医師はようやくパソコンにMRIの画像を表示した。そこには映っていた。素人でも分かる程に巨大な何かが。
見たときは何も思わなかった。何かあるというくらいで。
巨大な何かは私のお腹の中にいた。
奇形腫。アーモンドほどの大きさの卵巣は、およそ6~7センチにまで巨大化していたのだった。