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最善策

劇的に変わる毎日。消えていく記憶。その中で私がやったことは、忘れてしまっても思いだそうということだった。


私の記憶は不確実。数秒後消えるかもしれないそんな中で思いついた最善策。各人から名前の入った写真を送ってもらえれば毎日見て思い出せる。何度も思い出せば記憶は消えないかもしれない!


「顔写真を送って欲しい。その写真の下に自分の名前も書いて欲しい」


簡単に言うとそういう内容のものだった。もちろんきちんと現状の説明もした。その上での頼みだった。


たくさんいた友達全員にそう連絡した。


これで、これでなんとか思い出せれば皆のことを忘れずに済む。大切な友達だけは、絶対に忘れたくない。


しかし、返信があったのは送信した中のほんの数人程度だった。でも、きっと皆忙しいんだ。そう言い聞かせ、私は自分に残された時間に焦りながらも返信を待った。皆からの返信を待った。


待った。


まだかな。


待った。


忙しいのかな。


待った。


どうして返信をくれないの?


待った。


待った。


待った。


待った。


まだ?どうして?私には、私には皆の思う「明日返信しよう」の明日に忘れてしまうかもしれないのに!こんな状況だって、あんなに詳しく伝えたのに!それなのに、どうして!?どうして!?どうして!どうして!!


「どうして!!」


そうしてふと気がついた。「そういうことなんだ」と。


「友達だと思っていたのは、私だけ……?」


一緒に笑った。一緒に話した。休み時間の度に集まって騒いだ。一緒に部活をした。少しずつ消えていく私の記憶の中にあった、幸せな思い出達。そのほとんどはただのまやかしだったのかと。


友達が困ったときは真っ先に手を差し伸べた。

様子がおかしいと思ったらすぐに声をかけた。

相談をきいた。


大切な友達だから、困ったときには絶対に助けたかった。もちろん何かお返しが欲しくて助けたんじゃない。助けたんじゃない。そうじゃない。そうじゃないけれど、私達が過ごした日々へのお返しは「無視」でしかなかった。


私が信じていた大切な、大切な仲間からの返信は数えるほどだったから。


忙しいだけじゃないか。メールが埋もれてしまっただけじゃないか。返信を忘れてただけじゃないか。何を大げさにと思う人もいるだろう。そんなこと誰にでもあると。


明日映画にいくとか、1か月後に飲み会するとか、そういうレベルの話をしているんじゃない。私はその時、もう数秒後かもしれない「自分の死」と向き合い恐怖しながら返信を待ったのだ。友達を忘れたくない、その一心で。


同じ病気だったというのなら何も責めはしない。それでも、彼らはなんとも健康的に記憶し、忘れているだけ。私にはもう時間がないというのに。


あまりに悠長で、あまりに薄情。


私はその時そう思った。


友達だと信じていたのは、私だけだったのか。

大切に大切にしてきた。大切にしてきたからこそ、私には深い深い悲しみと言い様のない見捨てられたような感覚が押し寄せた。


「なんて、虚しいの……?」


勉強に困ってると聞いたら勉強会を提案した。友達がして欲しいと言ったら分からないところを聞いて、勉強会までに家でたくさん勉強し、分かりやすい説明を考え、放課後に一生懸命教えた。


その度に「ありがとう!」「助かった!」と言っていたあの日の思い出も、途端にどうでもよくなっていった。


「この、程度か?はは……この、程度!」


虚しさと同時にこみ上げたのは、 怒りだった。


何かをしてくれと言った訳じゃない。何かを返して欲しくて優しくしたわけでもない。ただ友達として、困ったときはお互い様だよと言い合える友達として接していただけ。


「困ったときは言ってね」


「相談とかいつでも乗るよ!」


私は実行に移してきた。あいつらはどうだ?私が困ったとき何をしてくれた?私が忘れたくないからと、思い出すためにと、顔写真と名前を望んで何をしてくれた?「無視」だ。


忙しい。忘れてた。そんな言い訳聞きたくない!たった一人恐怖の中で賭けたというのに、まるで意味がない!


何が友達だ!


何が困ったとき言ってねだ!


お前達は何もしてくれないじゃないか!!


友達だった者達への激しい怒りがこみ上げた。裏切られたようなひどい怒りを経て、私は友達だった者達に心の底から失望した。

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