表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
9/27

帰郷

「おばあちゃん、おじいちゃん。ただいまー」

「あらあら、柚ちゃんおかえり」

「ゆっくり出来るんだろ?」

「うん、少し長めに休みをもらったから……」


 柚はうらめし気に、隣のマネージャーを見る。若さで売るジャンルの消費期限はかなり短い。

本人のブログのコメント欄にまで、「最近見ないね」とか「死んだんじゃない?」とか書き込むやからまでいる。

更新しないで放置しているケースもあるので、自業自得と言えなくもないけどね。


「今日はお世話になります」

「佐々木さん。柚ちゃんのことお願いね」

「あれ? まこと君は?」

「勉強でもしているのかしら? 頭が良いのに、わざわざこんな田舎で勉強しなくてもね」


 心配するおばあちゃんを柚がなだめる。

生き方も多様化している今、若いうちから無理に人付き合いで疲れることはない。

職人のように技術があるならば、我侭は押し通せる立場にもなれると説明した。

現に佐々木はまことを呼ぶこともせず、待つと言っていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 東日本の某県、山間部に近い仙道家は先祖代々農家の家系で、それなりの家と土地を持っていた。

ところが子供世代が、全員農業を継がないと宣言した為、祖父母達は徐々に仕事をセーブする方針に切り替えた。

そんな折、とある事情で『お世話になる』ことを父から伝えると、祖父母達は張り切りだした。

長期休暇の時は親族が一同に介することになるが、父の仕事は暇そうに見えて意外と忙しいようだ。

公務員とは言ってたけれど、本当はどこで何をしているのか……母にも教えていないらしい。


 本当に金持ちは、平屋で暮らすものだ。

特に田舎は土地が安いのか余っているのか、二階建てでこぢんまり作る家は少ない。

無駄に部屋数も多いけれど、何故かこの家には『はなれ』があるので、ここを使わせて貰えることになった。

『思春期』だし『若者は夜更かしをする』という理由で、勉強・趣味・就寝とプライベートな時間はここで過ごした。


「もう夕方か……、柚姉ゆずねえは今日あたりかな?」


 勉強も捗ったし、そろそろ食事の時間だ。

料理は得意じゃないけれど、テーブルを拭いたり食事を運んだりするのは誰でも出来る。

『はなれ』から家のキッチンへ向かう途中で、佐々木さんに会った。


「まこと君、こんにちは」

「こんにちは、佐々木さん。早かったですね」

「うん、後でちょっと相談したいことがあるんだけど良いかな?」

「えぇ、大丈夫です。食事が終わってからでもいいですか?」

「まこと君に合わせるよ」


 キッチンからは、おばあちゃんの声が聞こえてくる。お客さんに、先にお風呂に入って貰うらしい。

何か手伝えることを聞いてみると、佐々木さんと柚の手伝いをして欲しいようだ。

佐々木さんを風呂場に案内し、食事が終わったら『はなれ』で話を聞くことを約束する。

その後は居間に行って、柚に挨拶をした。


 おじいちゃんは最近、ハードディスクの再生だけ覚えたので、柚がいる前で出演したドラマを見ている。

確か二時間のサスペンスもので、三人目くらいの死体役だったようだ。

出番も少なく、後半は写真でしか画面に映ることはない。それでも、おじいちゃん的には満足らしい。


「柚姉、大丈夫?」

「何が? まこちゃん」

「あの、まこちゃんは辞めてくれませんか? ブログではM君と」

「じゃあ、まこっちゃんで! マネージャーとは結構連絡取ってるのに、こっちは全然だよね」

「うちの子が巡回してるじゃないですか」

「確かに助かってるけど……。そうだ、マネージャーとは別に、相談したいことがあるの」

「柚姉も?」


 おじいちゃんは漬物で一杯ひっかけている。飲むのは350缶一本なので、酔うことはないらしい。

会合以外は、脂っこいものと強い塩分の食事を控えているようだ。今日は柚と佐々木さんが来るので、それも解禁のようで、自分が来た当初は毎日のように解禁していて、おばあちゃんに怒られていた。


「とりあえず、体調は問題ないよ。前より元気なくらいかな」

「この家は温泉を引いているから、疲れもふっ飛ぶよ」

「うんうん。あ、後でブログ用の……」

「ダーメ。おじさんに申し訳ないからダメです」


 サービス精神旺盛なのか、放っておくと柚は際どい画像もアップしようとする。

リミアの柚のアバターだって、真っ赤なビキニの専用アバターで、ブログを見に来た不特定多数がアバターに向かって……まあ、その反応も記録されていることを知らないだろうけど。性格きつめのキャラ設定も、佐々木さんと柚と相談して決めた事で、かわいいお馬鹿キャラとは正反対の、Sっ気満載のグラドルを目指すことにした。


 柚の相談も後で聞くことにする。本人が大丈夫だと言っているので、こちらが祖父母を心配させる必要なんてない。

張り切っているおばあちゃんに、柚と一緒に手伝いを申し出る。

佐々木さんが風呂から上がって来る頃、仙道家の夕食が始まった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食事が終わり、柚は祖父母と一緒に話に夢中だった。

しばらく客間に泊まるようで、相談した結果、佐々木さんは『はなれ』で寝るらしい。

ここはそこそこ広いので、二人くらい寝るスペースは十分ある。

先に休むとみんなに話し、佐々木さんと離れに向かった。


「ごめんね、まこと君。それで、これなんだけど」

「動画データですか?」

「柚さんにはまだ見せてないやつ。それで、この前後に柚さんが変な事を言っていたんだよね」


 USBをパソコンに挿し、ファイルを立ち上げる。

柚が熱湯風呂に入り、CMを告知する仕事のようだ。

この会社で柚に求めている本当の仕事は、幅広い人脈作りらしい。

ノリ的には体育会系なので、先輩に好かれるポジションのようだ。


「芸能界って大変ですね」

「これはそうでもないよ。あ、ここからね」


 熱湯風呂を包む怪しい光、そして数瞬後に湯船ごと柚が消えてしまった。

カメラは回しっぱなしだったのか? その後、佐々木が柚を探しに来て、またどこかに去って行った。

更に少しするとバスローブ姿の柚が、湯船があった位置で倒れていた。


「これってCGじゃないよね?」

「何で持ってきた本人が聞くんですか?」

「確かに。この後、ちゃんと撮れていなかった事を説明したよ。湯船はADが何処かに片付けちゃったことにしてね」

「少し、コマ送りしてもいいですか?」

「もちろん。どうも、消え方と現れ方がおかしいんだよね」


 細かくチェックしていると、後ろで佐々木さんが柚の言動で、気になったことを教えてくれた。

この仕事の前後で「誰かに呼ばれている気がする」と言っていた。

これはブログにも書いており、『メンヘラかよ』と言われていたようだ。

更にこの後で、「助けにいかなきゃ」という寝言も何回か聞いた。移動は佐々木さんの車なので、柚はよく寝るらしい。


「正直、よく分かりませんね」

「まこと君なら、ぱぱっと手がかりでも見つかるのかと」

「気になったのはこれですね。ヘキサグラムってやつかな? 世界観によって違うけど、五芒星は悪魔や魔術関係で六芒星は神様系だったかな?」

「それって、まこと君から紹介された異世界もののやつ?」

「あーいうのは、一方通行ですから。日本風に言うなら『神隠し』でしょうか?」


 実際、画像に残っていると気持ちが悪い。

柚はすぐに戻ってきて、熱湯風呂の再チャレンジをしたくらいなので、見ようによっては磁場の関係と言えなくもない。

夏になると幽霊話も毎年のように起こるので、そういう意味ではこれくらいどうと言うことはないだろう。

そんな話をしていたら、柚がやってきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ