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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
8/27

リミアとまこと

前話で評価を頂きまして、ありがとうございます。

ストーリーはまだ始まったばかりなので、○Pでも嬉しい数字でした。

途切れるまでは、毎日更新を頑張ってみたいと思います。

 俺の名前は仙道誠せんどうまこと、16歳で通信高校に在籍している。

それには理由があるけれど、それは後で説明しよう。顔面偏差値・身長・体重はいたって普通。

両親は普通に日本人なので、短い黒髪に黒い目という何処にでもいるモブだった。


 小さい頃に些細な理由でいじめに遭い、夏休みを利用して父方の祖父の家で剣術の稽古をした。

たまに帰省する時は、ただのお爺ちゃんだと思っていた人が、剣を持つと人格が変わるとは思わなかった。

夏休み一杯地元の剣道場でもまれ、真っ黒になって帰っていじめっこと対峙したら、こんな奴にやられたのかと少し自分を恥じた。相手は戦うまでもない相手で、こちらの変わりようにびびっていたみたいだ。

体を動かしている他は、父の影響でパソコンを嗜んでいる。

かなり色々やりすぎて、友達にはオタクとか言われているけれど、SNSやゲームばかりに嵌った訳ではなかった。


 事件は中学三年の時に起こった。その時のいじめは、かなり陰湿なものだった。

学校の掲示板裏サイトのようなものが出回り、ある事ない事書く奴がいたらしい。

親や教師に報告してもすぐに消え、また出回るのが巧妙なところだった。

そこで独自に開発したソフトで、罠を仕掛けることにした。


「父さん、ごめん。やりすぎた」

「おい、何をしたんだ?」

「大学はちゃんとした所に行くから、三年だけ時間が欲しい。出来れば平和なところで」

「聞かない方が良いって事か……。勉強が出来るのは認めているが、爺ちゃんのところでいいか?」

「お願いします」


 そのソフトはウィルスのようなスパイウエアのような、それでも今思うとかなり稚拙なものだった。

匿名性の高い裏サイトのカキコミが、クラスと本名がダイレクトに表示されるという、ある種強烈なものだった。

クラスの真面目君が、学校の人気者が、学年のアイドルが、とにかく口に出せない内容で荒れた。

何回も警告文は書いた。ちなみにHNハンドルネームはケルベロスにしてあり、その名前はそのままにしておいた。

何人かのいじめられっこは救えたが、かなりの巻き添えを出した痛ましい事件だと思う。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 悠々自適な田舎生活を送るつもりが、祖父母の教育方針により剣道場に通う事が条件となった。

通信高校の担任には、その事をメールで報告してあり、それが体育の授業の出席日数になるらしい。

この辺は教師による裁量で決まるようで、仕事をしながら勉強している人にまで強制はしないようだ。

空いた時間は、主にパソコンを使って色々やっていた。


 あの時のソフトを更に工夫して、『Leave me aloneほっといて』というソフトを作った。

SNSやブログにコメントがつけられるタイプのものを管理するソフトで、禁止ワードにチェックをつけて削除したり目立たなくしたり、若しくは目立つようにさせることが出来るものだ。

本人用のアバターを作成し、その手に人形アバターを持たせるようにする。

その人形がエリアを巡回し、本人のアバターがそのキーワードに対してリアクションを起こす。


「ねえ、マコト君。柚が海に連れてってあげるよ」

「いや……いいってば」

「ほーら、遠慮しないの。それとも、久しぶりで柚の顔忘れた?」

「覚えてます……けど」


 従姉妹の柚葉は、正直言ってかなりの美形だった。

大学時代には地方のミスコンを荒らし、準ミスを取得するほどだった。

大学内を荒らさないところが柚らしく、行動は極めて理知的ではある。

ただ、万人受けしないと言うか、目元を見るとSっぽく映るようだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ただの従姉妹だった関係が変わったのは、父からのメールだった。

大学時代の柚がアルバイトでお世話になった先輩で、ストーカー被害を受けているらしい。

そのアルバイトは読者モデルっぽいもので、柚もその世界に興味を持って、半分足が差し掛かっていたようだ。

ストーカーと言っても、本人に影を見せるほど愚かではないらしい。


 SNSへの粘着・彼氏面したメールでの忠告・無言電話。

とりあえず、インターネット周りを見るのが辛くなってきたので、どうにかならないかという相談だった。

そこでテストがてら、先輩と柚にリミア(Leave me alone)の設置を申し出た。

アバターの作成から巡回してくれる好きな人形まで希望を聞き、その時仲良くしていた絵師【めるかとる】さんと協力して、二人が納得するアバターと人形を作ることが出来た。


「【めるかとる】さん元気かな? 会ったことはないけど」


 リミアは設定した禁止ワードと、友好度・嫌悪度を設定出来る。

新たに書き込まれたものには、そこを選択すると次回からそれにも対応する。

アバターはとても優秀で、アナグラム・縦読みなどまで学習していく。

巡回してくれる人形は、次第にIPアドレスを辿って、書き込むパソコンに足跡を残していく。


 柚の先輩が設定した時は、書き込んだコメントが背景色と同色になるものだった。

白地に黒文字がデフォルトなのに、75%・50%・25%グレーのように薄くなり、最後には白文字になっていた。

その相手は他人との差別化を図る為に、アイコンを設定していたようだ。巡回している人形は、眼帯をした海賊帽子を被ったうさぎで、ひどい事を書かれる度に相手のアイコンに向けて、絵の具で×印をつけていく。


「あの時、最後は父さんが動いてくれたんだよな。証拠があれば、俺がなんとかするって……」


 その先輩はアイドル活動もしていたようで、結構大きいイベントが近々あるらしい。

同じようにリミアを使ってた俺は、巡回している人形を放っていた。

十中八九こいつだと特定できた奴がいて、そいつのブログが何やら大変なことになっていた。

読者はほぼ0、そして先輩のイベントの日に、大変なことが起きると予告していた。


 人形による監視を強めた結果、刃物を購入したことが分かった。

今の時代、スマホや携帯をもっていない人は少なく、それは歩く発信基地だ。

先輩を一人にしないよう柚にもなるべく近くにいて貰い、事務所には要注意人物として今までのログと画像を送った。

結果はイベント当日に、父の関係で謎の護衛と事務所側が、刃物を見せた瞬間に確保したらしい。

それからリミアは、ある一部で有名になった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 畑の収穫をしながら、あの時のことを考えていた。あの時のつてで、柚は大手事務所の子会社に就職が決まった。

というのも、自分の事を大々的に発表しようとする大人達と、うちの親族関係が徹底的に対立することになった。

「恩を仇で返すのか?」と憤っていた父の顔を思い出す。そこで柚が矢面に立ち、芸能活動と一緒にリミアの営業窓口になったのだ。先輩の事務所と友好関係を結んでいる、大手事務所の子会社が、破格の条件をつけて柚を雇った。


柚の契約

手取り給与15万円/月 社会保険完備 寮・ガス・水道・電気代事務所持ち

美容院代・スポーツジム会員権・エステ費用・習い事一個事務所持ち

マネージャー(佐々木さん)付きで、移動費用・仕事の時の食事は事務所持ち


俺の契約

アドバイザー契約という形で、税金に引っかからない程度のお小遣いが振り込まれる。

その他に、原付バイク(スクーター)と専用タブレットが贈られた。

通信料は事務所持ちで、ガソリン入れ放題のカードも貰った。同居している家族なら好きに使って良いらしい。


 それと引き換えに、鍵の発行を月に一本約束した。リミアは無料のソフトで、拡張するのに鍵が必要になる。

営業窓口は柚だけど、実務作業は佐々木さんがやっているらしい。佐々木さんから、事務所は「柚が売れても売れなくても良いようだよ」と言っていたが、担当している人には売れて欲しいのが本音のようだ。

だから、アドバイザー兼柚の応援者として、佐々木さんとは連絡を取ることにしている。

あの時の先輩も柚も、いまだにリミアを使ってくれているようだ。


「柚姉って、鶏派だよね?」

「そうね。まこと君、胸肉の美味しいところをいっぱいね」

「ばあちゃん、一段落したから買ってくるね」

「気をつけるんだよ!」


 少し心配なことが書いてあったけど、祖父母に報告することではない。

深刻なものなら本人から言うべきだろう。どちらにせよ、田舎にお客さんがくるのは嬉しいことだ。

祖父母の張り切りに、足りない食材をいっぱい仕入れようと、スーパーにスクーターを走らせた。


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