群れを成す
宙を掻くように、ゾンビがこれ以上いけない地点で、更に前に行こうとする。
今なら安全だと、柚が『レーザー』の魔法で焼いていく。
貫通力がある魔法のようで、直線状にいるゾンビの腕が吹き飛んでいった。
「柚さん、やりますね」
「マネージャーも働きなさい」
「良いんですか? 殲滅しちゃいますよ」
二人が盛り上がっている中、注意深く周囲の確認を怠らない。
何か違和感があるような……、そんな感じが拭えないでいた。
「まことくん、これって……」
「場所のせいでしょうか?」
「その可能性もあるよね。どちらかと言うと、VR物の環境設定かリアリティー設定とか」
「二人とも何を話しているの? えい!」
「柚さん。『えい』じゃなく、折角の魔法なんですから……」
「段々だるくなってきた。それよりリアリティーって、グロいのは変わらないんですけど」
「柚さま。お疲れでしたら、一旦下がりましょうか?」
「ううん、メルディ。大丈夫よ」
やっぱり、佐々木さんは気がついていたようだ。二階に降りてきてから、生暖かい風というのは若干感じていた。
ところが腐肉というか腐敗臭というか、火で燃やされているのに、そういう煙が異臭を放っていなかった。
もしかすると、あのカリカリやっている先では、ひどい臭いなのかもしれない。
でも、ビジュアル的グロさはひどいものがある。柚のレーザーで飛ばされた腕が、後ろのゾンビの食事になり、そこに群がるゾンビ・ゾンビ・ゾンビ……。火の壁も、時間経過とともに燃え尽きるが、ゾンビの量は減った気がしなかった。
「これは、俺を踏み台に……」
「佐々木さん、それは初代? そうじゃなくて、『俺の事は良いから、先に進め』じゃないですか?」
「悲鳴を上げても、振り向かないでいられる?」
「多分無理でしょうね。そして、全滅っと」
「じゃあ、作戦を練らないとだね」
「そうですね。あ、柚姉。申し訳ないんだけど、使える魔法は全部試して」
「後は『聖なる守護円』だけだよ」
「じゃあ、それを試してから撤退をしましょう」
「分かった。えい!」
どうも、詠唱が必要なのはヒールだけのようで、『えい』という締りのない言葉で魔法が発動される。
魔法の詠唱問題は置いといて、魔法名を叫ぶ利点を後で教えないといけないと思った。
火の壁がなくなり、視界がゾンビ以外良好になったので、少しだけ離れた位置に置いて貰う。
すると、『聖なる守護円』の効果は絶大だった。
「あー、ゾンビが群がっていくね」
「これって、誘蛾灯みたいな感じでしょうか?」
「こっちを向いてたモンスターが、振り返って光の柱に焼かれにいってます」
「後は効果時間……かな?」
「リポップを見る為に、マーカーは無理ですよね」
「コンビニに置いてある、カラーボールでも調達してくる?」
「多分、難しいでしょうね」
佐々木さんが腕時計で測ったところ、効果は5分くらいだった。
ただ、あの円は全員が入るには小さいし、効果時間が切れた瞬間埋もれる未来が見えてしまう。
効率的に何箇所か時間差で設置して、部屋の調査もしくは次の階段探しに移っても良いかもしれない。
「いっそ、灯油でも撒く?」と言った佐々木さんに、「ダンジョンを攻撃したら、大変なことになります」とメルディが助言する。そもそも、田舎でも大量に灯油を買うと、目をつけられるかもしれない。
「じゃあ、今日は戻りましょう」
「「「はーい」」」
一階に戻り、少ないスケルトンを掃除してダンジョンを出る。
一階の脅威度を考えると、二階に割いているリソースのアンバランスさが伺える。
魔法の訓練ということで、あのゾンビで経験値を上げたらどうかと提案してみたら、メルディからそれは止めた方が良いと指摘をされた。どうやら、一箇所で無意味にダラダラ狩っていると、名前つきモンスターが発生するようだ。
この一箇所で無意味にが厄介なようで、場合によっては一匹でもトリガーになるらしい。
「ネームドって奴だね」
「佐々木さん、ノリノリですね」
「だって、ドロップ品も期待出来ないかな?」
「そもそも、ドロップ目当てでやってないじゃないですか。却下です、却下」
少しがっかりした佐々木さんをよそに、名前つきモンスターが通常個体と、どれほど強さが変わるか質問をした。
しかし、メルディの答えは「分かりません」としか言えないそうだ。
某ゲームの雑魚キャラであるスライムで例えると、ノーマルがベスになった程度らしい。
スライムも世界観によって強さは変わるが、スライムを倒せるならば概ね誤差程度のようだ。
ところが、これがゴブリンになると変わってくるらしい。職業や役職持ちなら誤差で済むが、地位になってくると別の個体と考えた方が良いようだ。ロードやキングとなったら、引き連れる雑魚も含めて災害級にまで及ぶらしい。
「今の僕達なら、一匹相手だと良い所までいけると思うけど……」
「この木刀じゃ、魔法を掛けても心許ないですよ」
「そこはほら、まことくんの騎士パックで」
少し考えてみたけれど、正直一階二階は雑魚だ。
下がっていっているので地下と書くべきだけど、面倒なのでそれは割愛しよう。
もとい、出てくる敵がアンデットなので、敵の姿が判明すればやりようがある。
不幸中の幸いか、まだお化け系が出ていないので、物理で押せているからだ。
「佐々木さん。もし次の階層に行けたとしたら、何が出ると思いますか?」
「怖いのはゴーストかな? レイスとか物理が通じない奴」
「そんなのが出るの?」
「柚さん、あくまで可能性です」
佐々木さんの予想は、次第にエスカレートしていく。
中身が空っぽの包帯男や、特殊なギミックがある吸血鬼。
力押しで来るならフレッシュゴーレムも、アンデットと言えばアンデットだ。有名なのはフランケンシュタインで、「優しく、フンガーと言ってきたりして」という佐々木さんは、多分年齢を誤魔化していると思う。
何も西洋にこだわる必要もない。
柳に幽霊のように、和風なら「うらめしや」もその一つだろう。
足がない分、どうやって移動するとか攻撃してくるかは分からないが、怖いものは怖い。
中国でいうと、足を揃えて飛ぶ死体もいるし、世界各国でそういうモンスターは存在する。
「とりあえずは、二階の攻略かな?」
「そうですね、少しずつ準備を整えましょう」
佐々木さんの提案に、みんなが頷く。
まだ出来たばかりのダンジョンなので、脅威が実感出来ないでいるのは確かだ。
しかし、階層を隔てる何かの存在に、しばらくは放置してても問題ないと思った。




