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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第2章:聖女とダンジョンアタック
23/27

最後の祝福☆

「おいおい、正気かよ……」

「国として戦えないから、勇者とか聖女の出番なのに、召喚に失敗かぁ」

「クインティは、残るのか?」

「勿論。どこに逃げても死ぬなら、一番安全な場所は最前線でしょ。……ガバナは?」

「俺も勿論参戦するぜ。まぁ王女さまの護衛は、既にいるみたいだがな」


 集められた【勇者】【聖女】候補の中に、この国の第一王女がいた。

この王女がここにいる理由を説明しなければ、何のために王家が指揮を司っていたのか分からなくなる。

国内の統治という意味に於いて、今の国王陛下は賢王と言っても過言ではない。

そして不足分を埋めるように、王太子殿下は武術も修め、軍の司令部の一員として要職に就いている。


 ここに集められた人々は、どの分野においても、かなり優秀な人材だった。

国内はまだ平穏ムードがあり、政治的経済的にも混迷はしていない。

国王陛下が『ここだけの話』とすれば、積極的に周りに漏らすことはない……ただ。


「まぁ、明日には知れ渡るがな」

「ガバナ。喋っちゃダメだよ」

「はぁ? 俺がそんなヘマする訳ないだろ? 家族持ちとか資産持ちが動けば、自ずと分かるだろ?」

「そうは言うけど、農家は動けないんだよね。そもそも、引越しの許可なんて通る訳がないし、安全な場所があったらこっちが知りたいぐらいだよ」


 残った人数は二十名近く。

この中から優秀な人材を確保して、討伐部隊を作り上げる予定だが、ここでも不満が爆発した。

国王陛下の希望は、ラルメール王女と元騎士のデリアと一緒に行動出来る、仲間を募りたいそうだ。

ただでさえ魔族の王の討伐という無理難題を掲げているのに、王女の『おままごと』に誰が付き合うというのだろうか。

ガバナとクインティは、パトロンとスポンサーを探している為、そんな不用意なことは口に出さなかった。


 案の定、不用意な発言をした者を騎士達が探し始めた。

普通に考えて不敬罪だし、王家に叛くということは、国家を敵に回すのと同意である。そんな騎士達を止めたのは王太子殿下だった。折角集まってくれた優秀な人材を、プライドを守るという理由だけの為に、裁く訳にはいかなかった。

呆れて帰った人々は、明日にでもこの国から出て行くかもしれない。ただ、ラルメールの気持ちは王家を代弁したものだ。

王太子殿下は、【勇者】【聖女】【冒険者】の三つのチームに分け、それぞれに王国からの斥候をつける事にした。


わたくし、侯爵家三男のグレアが【勇者】を拝命致します」

わたくし、ラルメールが【聖女】を拝命致します」

「俺達冒険者チーム、【グローリーデイズ】が密命を受領致します」

「国からは支度金を用意しよう。また、成果に応じた支援も行う!」


 冒険者チームだけパーティーでの参加を希望したので、斥候については定時連絡のみになった。

【勇者】チームに十名近くが集まり、【聖女】チームの二名は余った二名から選ぶしかなかった。

ただ、クインティは伯爵家の長子でありながら、優れた魔術の才能があった為家督を弟に譲り、悠々自適な生活を送っているので有名な変わり者だった。そのクインティがガバナを推すならば、ラルメールにとって断る理由はなかった。


「ラルメールさま、宜しいのでしょうか?」

「デリア。その言い方は二人に失礼ですよ」

「ラルメールさま。わたくしクインティとガバナは、長く市井の暮らしをしておりました。無作法の段、平にご容赦をお願いできますでしょうか?」

「クインティもこう言ってるし、宜しくな王女さま」

「ガバナ!」

「良いのですよ。今この時から、呼び捨てにしても構いません。そうですね、一国の王女が暗殺者の真似事をするのですから、名前を変えたほうが良いのかもしれないですね」


 ラルメールの言葉により、早速「呼び捨て」しようとしたガバナだったが、デリアとクインティに阻まれた。

名前を変えるのは旅に出る直前ということで決定し、それまでに偽名は考えておくとメンバーに話した。

ラルメールへの諜報部員は、王国直属の者が担当するので、必要な時にしか接触をしないようだ。


「ラルメールさま、少し宜しいでしょうか?」

「これは、グレアさま。貴方が【勇者】としてって頂けたお陰で、この国の平和が一歩近づきましたわ」

「そう言って頂けるとありがたい。どうも、メンバーを多く集めすぎたようですが……」

「構いません。それが正当な評価というものです」

「では、その四名で動くと……? 元来、【聖女】さまは人々の心の不安を、取り除く行動をするようですからな」

「いいえ、志は【勇者】と【冒険者】と変わらないものです。ご武運をお祈りいたします」


 ラルメールが歩き出すと、デリア以下パーティメンバーが動き出す。

後から【勇者】チームの近くに行った【冒険者】チームのリーダーが、グレアに話しかけた。


「姫さまに嫌われたようだな」

「ふっ、お前達こそ三十歳を過ぎたロートルじゃないか。過去の栄光が大事なら、一匹でもゴブリンを倒したらどうだ?」

「あぁ。ゴブリンも倒したことのない【勇者】さまのお言葉、しかと胸に留めておきます」

「お前達はどっちから行く?」

「うちは、もうロートルなんで……。森からだな」

「なら、こっちは正攻法で。魔族の国に繋がる街道を行こう」


【冒険者】チームが旅立ったのは翌日、その二日後に【勇者】チームが旅立った。

【聖女】チームの存在が秘匿されたかのような扱いだったのは、【勇者】チームの動きの影に隠れていたからだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ここは神殿関係者が神事を行う場所だった。

そこには一切の武装を解いた、【聖女】チームの四名とフラウ司祭がいた。


「以上が、儀式の流れです」

「はぁ? あんたの後ろで祈るだけだろ?」

「ラルメールさま。本当にこのメンバーで良いのでしょうか?」

「フラウ司祭、このような儀式を前に申し訳ないのですが、私は私の信じたメンバーで事に当たります」

「私は【勇者】でも【冒険者】でもなく、【聖女】さまに賭けております。武力だけでなんとかなるならば、軍を向ければ良いだけです」

「司祭にしておくのが、もったいないね」

「クインティさま、お褒めの言葉ととっても宜しいでしょうか?」

「無事に生き残ってくれたら、最大級の賛辞を送ります」


 今日呼ばれた理由、それは【最後の祝福】だった。この部屋は閉め切られている。

それは、儀式を邪魔されたくないのが一つ。もう一つは、中のメンバーだけで乗り切るのが条件だからだ。

一人の【聖人】の命を対価に、最後の祝福を願う。仮に生き残っても、次回への対価とはなり得ない。

何故こんな大事な儀式が秘密かというと、王家にしか伝わってなかった為だ。

そして、立候補したのはフラウ司祭しかおらず、儀式の相手は本人に決める権利があった。


「フラウ司祭さま。今ならまだ……」

「デリアさん、貴女もまだ戻れますよ」

「私は決めたのです。ラルメールさまと、メルディに誓いを立てました」

「メルディさんについては……。神の御許におられることを祈っております」

「なあ、ちゃっちゃっといかねーか?」

「そうですね。私はまだ死ぬつもりはありませんから」


 ラルメールに神聖魔法、特に癒しの魔法を教えたのはフラウ司祭である。

それは短期間での習得で言えば素晴らしいものだったが、まだまだ一般の聖職者の域を脱してはいなかった。

ここで言う一般とは魔法が使えるエリートとしてだが、それでも命を預けるには心許ない。

その上での決断なので、ルーレットで言う赤か黒かではなく、親の総取りの二箇所に賭けるようなものだった。


 儀式が始まると、フラウ司祭は全身の生気が抜けていくような感じがした。

祈りの言葉により命を燃やす。言葉で言うと簡単なのに、燃え尽きる身としては恐怖が先に立ってしまうだろう。

【勇者】や【聖女】とは、人々の祈りなのだ。人でしかない身へ過度な期待を乗せ、戦地へ送り込むしかできない。

用事が終わればただの暗殺者だ。その扱いには、困った事例もあったようだ。


 『なんと悲しい存在なのでしょう』と、フラウ司祭は思わずにいられなかった。

最後の最後まで後押しが出来るように、神殿に残された手段は祈ることだけだった。

その中から、特に強い想いがスキルとなって現れたのが、【最後の祝福】だった。

最後の一節が終わった瞬間、フラウ司祭は笑顔のまま前のめりに倒れた。


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