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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第2章:聖女とダンジョンアタック
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石橋を叩く

 俺が先頭になって階段を下りていく。柚と佐々木さんが並んで歩き、その後ろからメルディさんがついてくる。

佐々木さんは懐中電灯を持っているけれど、地下一階は薄明かりがある石壁と石畳だった。

荷物係としてメルディさんがボストンバッグを持てば、自ずとメルディさんは武器を構える事が出来なくなる。

ヘタに突っ込まれても困るので、この配置で移動することにした。


 事前に話したのはハンドサインで、『進め』『待機』『戻れ』の三つを決め、判断は絶対に従う事と約束した。

戦闘に対して、実用的な技術と武器を持っているのは俺だけだ。

まずはクネクネ曲がらせる石壁を角からそっと見る作戦で、第一村人を探す○―ツの旅気分で移動した。

11月の後半だと言うのに、このダンジョンは寒さを感じさせない。

鍾乳洞的な場所ならきっと寒いだろうと、変な感想を持っていた。


『進め』

『了解』


 ノリノリな佐々木さんの合図は確認せず、前方を中心に意識を集中する。

これで上から何か降ってきたり、落とし穴があったりしたら目も当てられない。

それでも、モンスターが地面の上にいるはずだと、注意深く壁の切れ目からチラ見をした。


「(う……、よりにもよって)」

ダンジョン内では叫ぶ事も厳禁としていて、思わずそれを忘れて大声で叫びたくなった。

『待機』の合図を出し、静かにみんなのいる所まで戻ることにする。



「まこと君、何か見つけたんだね」

「敵は一匹でした。匹というか、一体かな? 見た感じ、骨でした」

「まさか……スケルトン?」

「多分言い方を変えても、スケルトンが伝わりやすいと思います。これで、このダンジョンの難易度があがっちゃったな」

「え? 何で?」

「それは、スケルトンを倒してから説明しますね。じゃあ、メルディさんが先頭で戻りましょう」


 ダンジョンの鉄則として、前後に戦える人を配置するのはお約束だ。

撤退戦こそ安全に配慮しなければならなく、柚も佐々木さんも武器らしいものは持っていない。

戻ったら佐々木さんのメモに、『ワンド・スタッフ等』と魔法使い用の武器の確保を頼もうと思った。

壁の切れ目ギリギリで敵の姿を確認したら、移動するということを繰り返してもらう。


 こちらは、スケルトンが一匹だけしかいないのを確認し、わざと足音を立てて姿を相手に見せた。

顎の骨がカタカタカタカタと高速で動き、その動作が歓喜の威嚇行為のように感じてしまう。

スケルトンは長めの乳白色の……多分、どこかの部位の骨なのだろうか?

それを棍棒のようにXを描くように振り回し、こちらにやる気を見せていた。


『撤退』

『了解』


 耳がないのにこちらの足音に振り向き、目がない空洞の闇からは、こちらをロックオンしているように感じる。

筋肉がないのに棍棒を振り回し、しっかりとした足取りで、スキップするように走り始めた。追いかけっこが始まった。

まるで猫科の獣を前にした、鹿やトナカイの気分だった。いつでも狩れるのに、わざともてあそぶような速度で追ってくる。幸い、前を移動する三人は安全圏内にいた。最後の一直線の突き当たりを、左にある階段方面に上がっていけば最初の場所に到着する。ギリギリまで階段から顔をだしていた佐々木さんが、急に「急いで」とせかしてきた。


 速度をあげてきたスケルトンを背中で感じながら、滑り込むようにブレーキをかけ、その反動で階段を駆け上がる。

上で佐々木さんが魔法を使おうとしていたけれど、特に行動を起こしていないのが分かった。


「まこと、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。あいつ……階段の真ん中辺で、顔を突き出してカタカタしてるね」

「威嚇なのかな?」

「こちらに来る気配がありません」


 これで階段を上がりきれば、通常なら安全だということが分かった。

スタンピートまで想定して戦うのは考えすぎだけど、安全に狩れるなら問題はない。


「柚姉、怖い?」

「だって、ここまで来れないんでしょ? 大丈夫だよ」

「100%来ないとは思わないで。でも、今回は大丈夫だと思う」

「柚さん、折角だから魔法の試し撃ちをしましょう」


 まるでゲームの嵌め技のように、佐々木さんは安全地帯から魔法の特訓をしようと言い出した。

柚は精神を集中させて、『レーザー』を撃つ。頚椎から頭蓋骨を前に突き出した、スケルトンのおでこに直撃した。

仰け反った拍子に、スケルトンは全身を石畳に打ち付ける。乾いた音が響いたように感じた。

それからは柚が『レーザー』を二発放ち、佐々木さんが『石壁』をスケルトンの目の前に置き相手側に倒した。

最後に『聖なる守護円』の中に閉じ込めると、細かいヒビが全身に広がり弾けて壊れた。


「さすが柚さま!」

「ねえ、マネージャー。これって、ブログに書いちゃ……」

「もちろんダメです。だよね、まこと君」

「確認してきてもダメですよ、佐々木さん」

「どうして分かったの?」


 最近の柚のブログは、召喚前後から怪しい言動が増えている。

それに伴い『メンヘラ』とか『電波』とか、不名誉な言葉も見受けられるようになった。

ただ柚のブログの住人は、良い意味で『飼い馴らされている』ので、大きな悪評には繋がらない。

最近は『おばあちゃんの手料理』から、田舎の推察をしたりする探偵気取りのほうが怖かった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 早めの昼食を取り、今後の方針を相談することにした。

柚は『おばあちゃんのお弁当』と写真だけ撮り、アップは後で外に出た際にすることにしたようだ。

ダンジョン内で写真を撮ると、さすがに場所は特定されることはない。

おばあちゃんは北国の出身で、独特な文化をちゃんぽんで育ってきたので、料理からこの土地を想像するのは難しかった。


「ところで、さっきの説明して貰えないかな?」

「まず、推測から説明するね」


 メルディさんから聞いた話だと、ダンジョンで出るモンスターは、ある程度系統ごとに分かれるらしい。

その言葉を思い出したのか、佐々木さんが「アンデットダンジョンか……」と嫌な顔をした。

アンデットとは、『一回死んでるから死なない』モンスターであり、その種類は多岐に渡る。

ドラキュラ伯爵で有名なバンパイアもアンデットだし、中国でいうキョンシーもアンデットだ。

日本の脚がない幽霊だってアンデットだし、レイス・ワイト・マミー・ゾンビ・グール等、数えても上げきれない。


「それは、○イオ○ザードっぽいイメージでいいの?」

「あっちは、まだ実体があるから何とかなるかな? 大量にやってきて、噛まれると仲間になるやつ?」

「ゾンビ○イトとか見る分には良いけど、遊びには行きたくないなぁ」

「もっと怖いのは、実体がない方だよ。バンパイアなんかは弱点が多そうだけど、眉唾な弱点も多そうなんだよね」


 考えてみれば、この土地にゴブリンがいる訳ではない。

『ゴブリン退治が、ファンタジーの王道なら楽だったのに』と思ったところで、この状況は変わらなかった。

そんなことを考えていると、メルディが「柚さまの光の魔法があれば、アンデットなど恐るに足りません」と言い出した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「まずは、佐々木さんに付与魔法を覚えて貰いたいです」

「理由を訊いてもいいかな?」

「物理が効かないと全滅する可能性があります。後、出来れば鈍器系と魔法系の武器があると良いかな?」

「日本刀とかは……?」

「ここでは、切り裂く系の武器は効きにくそうです。ゾンビとかスケルトンとか、メイス等が効くと思います」


 問題は武器をどうやって購入するかだ。刀剣類や重火器類は購入する手段がない。

たまに有名な刀匠が武器を作ったりもするが、美術的価値がある方面の商品なんだろう。

ファンタジーの世界なら、武器屋でいくらでも買えそうだけど、メイスに近いもの……スポーツ用品店かホームセンターでハンマー等を買うのが良いかもしれない。


「まこと君の錬金術って、鍛治や彫金を含んでいる話もあるよね」

「希望的観測を入れても、素材集めからでしょうか?」


 スキルがあってもレシピ等が分からない。

その日は夕方近くまで魔法の特訓をして、家に帰ることにした。


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