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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
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明日の為に

「ところでメルディさんって、戦闘の経験はありますか?」

「護身術程度です。短剣も使えますが、ナイフなら料理の方が得意です」

「侍女ですもんね」

「ねえ、侍女ってどういう仕事をする人なの?」


 柚の質問に「そういえば」と、詳しい仕事内容を理解していなかったことに気がつく。

色々な業務をチームで分け、メルディはメルナールの生活一般の補助をしているそうだ。

朝の着替えから髪を整え、配膳の手伝いにお茶の準備。たまに秘書のようなこともしていたらしい。


「柚姉は置いといて、佐々木さんも戦闘経験なんてないですよね」

「もちろん。非力だし、スポーツも学校の授業でやったくらいかな?」

「ねえ、まこと。それは何か関係があるの?」

「これから、あの場所を調査しようと思うんだ。それで、もし危険があった時の対応をね」

「まこと君、魔法で処理しようよ」

「その魔法を覚える練習場所が、あそこになると思うんですよね……」


 現在、能動的に使えているスキルは【異世界共通語】と【光属性魔法】で、かろうじて使えているのは【鑑定】だった。

特に佐々木さんの【鑑定】は名前が分かるだけ。名前が分かるのは便利だけど、それだけ分かっても意味はない。


「前衛はまこと君、ヒーラーは柚さんで、魔法の壁で補助をしようか」

「私はどうしたら良いのでしょうか?」

「試練の洞窟では、どうしていたんですか?」

「荷物持ちと、メルナールさまの盾役をしていました」

「メイド服で盾役は、自殺行為でしょ」


 誰かに心酔するのも考え物だと思った。せめて盾を持って、フルプレートの鎧を着れれば……絶対動けなると思う。

それぞれ取得したスキルから何が出来るかを考えて、ダンジョンが出来てしまった前提で行動しないといけない。


「まこと君、武器はどうするの?」

「この家にあるのって、竹刀か木刀なんですよね」

「さすがに日本刀は、家にはないかな?」

「あっても、使ったらダメだと思います。大体、日本刀って本当にそこまで強いんですかね?」

「そこは評価の分かれ所だよね。剣でさえ、殴り殺す・叩き潰すっていうのが、中世の世界観でしょ?」


「メルディさん。ダンジョンのモンスターって、倒すと死体が残りますか?」

「いいえ。モンスターは倒すと、ダンジョンに吸収されます。その際に、ドロップ品が出る場合があります」

「木刀で倒せるくらいのモンスターなら良いな」

「まこと君、やれる?」

「やりたいか・やりたくないかで言えば、やりたくないです。でも、この四人なら俺の役目でしょ」

「私も戦います!」

「メルディさんにもお願いはしますが、無理はしないでくださいね」


 柚と佐々木さんは、確実に前に出してはいけない人だ。

隊列は俺が前に出て、最後尾をメルディさんに担当してもらう。

まずはスキルを実用レベルまで使えるよう、安全地帯の確保が最優先だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日は全員で畑仕事へ向かった。ここでもメルディさんが、プロ顔負けの手際の良さを見せる。

時々、農学部の研修生や海外留学生を受け入れているらしく、この村では外国人だからって偏見はないようだ。

『出来る人が○○さんの所にいる』という噂はネットより早く拡散し、今日も宴会が起こりそうな予感がしていた。

こうなると、佐々木さんと柚は買い物班に回される事になる。今回は、畑仕事に精を出すことにした。


 お昼ご飯を畑の近くで取り、午後は自由時間となる。

柚達が来る前は当たり前の光景なのに、色々やることが増えてしまった。

まずは早瀬鮎香さんにアバターを送り、リミアで専用アバターの設定方法をサポートする必要があった。

スキルについては、長期計画で勉強したいと思う。


ゆず『アユちゃん、時間がある時返事をください』

あゆ『あれ? 柚ちゃん。今時間があるよー』

M君『リミアの管理者のMです。専用アバターが出来たので送りますね。設定は時間がある時にサポートします』

マネ『柚のマネージャーの佐々木です。後でお土産を送りますね』


ゆず『ちょっと、マネージャー。私にも何か送りなさいよ』

マネ『だって、ほとんど同じ場所を動いているじゃないですか!』

あゆ『本当に仲良しね。ねえ、二人は本当に付き合ってないの?』

マネ『付き合ってません!』

ゆず『付き合ってないわ!』

M君『もし、細かく修正希望があったら教えてください。メルさんに頼んでみますから』


 『はなれ』でパソコンを使って画像を送信した。

その後ろではタブレットを操作する二人の姿があったが、早瀬さんのアバターはパソコンに大きく表示されている。

「うわ、特徴つかんでるね」という柚のアバターも、かなり良い出来だと思った。


 メルは高校で美術部に入っており、漫画やデフォルメっぽい絵は得意ではないと言っていた。

ただオタクの暗部というか女子高生の性というか、かわいいものやキレイなものには目がないらしい。

今では鉛筆や筆より、タブレットを持っている時間が多いようだ。


あゆ『Mさん、柚ちゃん、佐々木さん。ありがとうございます。私、こんな可愛くていいのかな?』

マネ『本人が可愛いから、良いんじゃないですか?』

ゆず『マネージャー! そういうのは誤解されるよ。社長に怒られても知らないよ』

あゆ『柚ちゃん、大丈夫だよ。この業界『キレイだね・可愛いね』は、『おはよう・こんにちは』程度だから』

M君『凄い業界ですね』

あゆ『まだ時間があるので、設定も教えて貰えませんか?』


 今回の設定は、既存のアバターを専用アバターに置き換えるだけだ。

鮎香の巡回アバターは何故かシャケなので、特別何かを変更する必要はなかった。

サポートを一通り終え、鮎香の感想をメルさんに話して良いか聞いたらOKを貰った。

佐々木さんは、後でファッションの祭典にメルさんを招待するので、その時に紹介したいことを話していた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夕方から始まった宴会は、またもや盛り上がったようだ。

今回の主役はメルディさんだけど、お酒が飲めない年齢でお酌をするという事もさせる訳にはいかない。

文化も違えばアルハラと取られかねない事を留学生にさせるのは、奥様方達が許してくれなかった。

ただ酒を飲む口実を得られたので、早めに開放された四人は一旦『はなれ』に避難ができた。


「まこと君。土日は丸一日お休みなんだよね?」

「はい。だけど、どちらかは剣道場に通う約束をしていまして」

「タイミング的には、早いほうが良いと思うんだよね」


 佐々木さんは柚のマネージャー以外にも、細かい営業活動をしているようだ。

このままこちらの都合で引っ張りまわすと、柚の仕事に影響が出るばかりか佐々木さんの仕事の評価にも繋がる。

勿論、何もしていないのと同じなので、その評価は……言うまでもない。

幸い土日が関係ない職種なので、土日で済めば抜け出して営業に回ることも出来るようだ。


「じゃあ、明日と明後日をその日に充てて、どこかで道場に行く事にします」

「めるかとるさんに会ったら、まこと君が会いたがってたって……」

「「……」」

「柚さん、まこと君。そんな冷たい目をしなくてもいいじゃない」


 佐々木さんの当初の予定は、アパレルのプロデュースをしている先輩と、メルさんとのアポ取りだった。

リミアの発展の為には、ある程度メルさんと親密になる必要があるらしい。

特にアバター用の衣装と許可の関係で、メルさんを連れまわす事が多くなりそうだ。システム担当の俺は、あまり気合を入れなくても運営は出来ているけれど、今後増やそうとするアバター関係はそうはいかないと思う。

場合によっては名のある絵師になる可能性もあるので、メルの売り込みと囲い込みが佐々木さんにとって急務なのだ。


「とりあえず、目標を発表していきましょうか」

「はい、まず私から。癒しの魔法を完璧にすること、明かりを出せるようにすること」

「柚姉はそれで良いと思う」

「私は柚さまを御護りいたします」


「あー……、メルディさん。主に俺が前に出るので、二人の指示をお願いしても良いですか?」

「指示とは?」

「安全な場所を見つけて、適切な距離を取ること。もし、敵がすり抜けたらその時は……」

「はい、頑張ります」


「僕は属性の壁だね」

「佐々木さん、あと付与魔法も覚えてください」

「そっちも?」

「敵が出た場合、強さがわからないのが一番怖いんです」


 最後に自分の目標として、闇属性魔法と錬金術をあげた。

どちらもこれという明確な答えがないものだと思うけど、錬金術で薬が作れたら良いなと思った。

佐々木さんの鑑定同様、魔力が鍵になっているので、まずは調査が必要だと思う。


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