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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
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それぞれの理由☆

「まこと君!」

「まずいですね……」

「ねえ、どういうこと?」

「柚姉、ちょっと待って。メルディさん、今の【石】は大丈夫なものですか? もしかしてダンジョンコアとか」

「ごめんなさい。そんなに力を入れたつもりは……。今のは大きさからいって、スキルを取得できるだけのものです」

「うーん……」


 懐中電灯を顎の下から照らし、柚に顔を向ける。

この程度で驚くような性格ではないけれど、柚は表情も変えず真剣な顔をしていた。

大きな危険はないとは思っているが、【石】が消えたのが嫌な予感がする。


「柚姉、もしこの世界に恐竜とか現れたら大変だよね?」

「そりゃあ、そういう映画もあるしね。DNAで復元とか……そういう奴よね?」

「じゃあ、神話の化け物とか現れたら……。で、今の【石】が引き金になる可能性があるとしたら?」

「大変じゃない! おじいちゃんに……いや、警察? 自衛隊?」

「柚さん、落ち着いて! 召喚だって、立派な異常事態だったんですよ」


 メルディは訳も分からず、シュンと落ち込んでいた。

ただ佐々木さんのお腹付近を、軽く触っただけのはずだ。


「とりあえず、今ある石を全部処理しませんか? もう、落としたくないので」

「そ、そうだね。柚さんはどうです?」

「うん、二人がそう言うなら。で、どれが一番危険なの?」


 安全か危険かで言うなら、全部危険なものだと思う。所有権は柚にありそうなので、許可を取ってから使用する。

二つあるダンジョンコアの一個を佐々木さんが取ると、さっきのメルディと同じような状況が起こった。

ただ使っても何がどうなったかまでは分からない。懐中電灯を佐々木さんに預けて、メルディに同じように教えて貰う。

魔力を司る臓器が正直どこかは分からない。ただ、生暖かい何かというか? 体中を巡る何かが分かった気がする。

危険な物から処理をするということで、もう一つのダンジョンコアを使わせてもらった。


「一つ目は柚姉が知らずに使って、二つ目はメルディさん。三つ目を落として、四と五個目は二人か」

「メルディさん、まだスキルを得る可能性あるわよね?」

「それは分かりません。三つスキルある人に会った事はありませんし、持っていないのが普通なんです」

「じゃあ、マネージャーとまことが一個ずつ使って」


 柚の提案通りに使用する。残り三つになったので、メルディ以外で使った。

すると佐々木さんが急に声を上げた。どうやら、当たりスキルを引き当てたらしい。


「佐々木さん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。それより……ちょっと待ってね」

「まことは、何が起きたか分かるの?」

「多分あれでしょうね」

「そう、あれ。えーっと、【初級付与魔術師パック】【属性の壁】【鑑定】をゲット出来たよ」


 そう、佐々木さんが得た重要なスキルは【鑑定】だった。

【初級付与魔術師パック】は【付与魔法】【魔法の才能】【想像の具現化】を纏めたものらしい。

これで【石】は使い切ったので、落とす危険性はなくなった。

折角なので全員分、鑑定をして貰うことになった。


 柚姉が取得したのは【聖女基本パック】【増幅】【女神の加護】で、パックに含まれているのが【異世界共通語】【異世界の絆】【聖域】【光属性魔法】だった。

メルディさんは【聖なる右手】【補助する左手】【異世界共通語】を使えるようだ。

俺は【初級騎士パック】【闇魔法】【錬金術】を取得出来たらしい。

【初級騎士パック】は【剣術】【盾術】【威圧】【突進】を纏めたもののようだ。

剣道をしているので剣術は分かるけれど、突進は『突き』で威圧は打突の際の掛け声なんだろうか?


「これって、その人の欲しかったスキルが手に入るのかな?」

「まこと君もそんなことを考えてた? そう考えると、まこと君もごうが深いねぇ」

「俺はまだ16歳ですから……。そういう佐々木さんだって」

「ストップ! 柚さんのことを……それまでだ!」

「え? なになに?」


 そうだ、柚は聖女だったんだ。何も変化が起きず、危険は去ったはずだと思っていたから油断していた。

すると、軽い揺れを肌で感じる。それは「ん? 揺れてるかも?」というくらいの大きさだった。


「みんな、ここは危ないかもしれない。外に出よう」

「そうだね。メルディさん、柚姉出よう」


 全員で横穴から出て、「心配しすぎかな……」と思った瞬間、大きな地震が来た。

さっきのは本震の前に起きる前震のようで、一瞬脚をとられるくらいの大きさだった。

今いる場所は横穴からは大分離れていたけど、ここから見える位置で入り口がそこだけ崩れていた。

横穴はいくつもあるのに、そこだけが崩れるのは何か意図を感じるものがあった。


「ねえ、警察や自衛隊は?」

「柚さん。こういうのは、まず信じてくれません」

「柚姉、ヘタにつっついて被害を拡大させるのはどうかと」

「じゃあ、危険はないのね?」


「そう言われると、何とも……」

「佐々木さん、あれってどこかが調査に来ますかね?」

「ここの管理がどうなってるかだね。後、メルディさんの帰還の方法と場所かな?」

「あー。魔力があるのって、あそこだけですよね」


 とりあえず、メルディの居場所を確保しようと動くことにした。

設定は長期留学中の学生で、旅をしていたら迷ってしまったらしい。

少し早いけど、北欧の方は冬休みを長く取るという話を示し合わせた。

それならば、今の服装は良くない。四人で車に乗り込み、少し離れた場所へ買い物に向かった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「クインティ、お前はどうするんだ?」

「どうするって、何のこと? 明日の予定なら今日の続きだよ」

「はぁ、相変わらず研究バカだね」

「脳筋のガバナに言われたくない! 僕の研究は、崇高な目的があるんだよ」


 ここはグランドール王国にある、魔術師協会のとある一室。そこには二人の男性がいた。

一人は童顔でマニッシュっぽいと言われるクインティ。ただ、元が男性なので正確にはマニッシュと言えるものではない。中性的な顔立ちで白衣を着て、忙しなく室内を動いていた。もう一人は正反対の野趣溢れる顔……一言で言えば『むさ苦しい』や『暑苦しい』と表現できる、ガバナが机に突っ伏していた。


「まあ、お前が世間に興味ないのは知ってたさ。お前は何の為に研究をしているんだ?」

「それは世の為、人の為だよ」

「だろ? それでな、王国から正式に【勇者】と【聖女】を募りだしたんだよ」

「え? 大変じゃない!」


 通常【勇者】や【聖女】が登場するのは、お伽噺の中の出来事である。

英雄が現れる理由……それは誰しも暗黒の時代を想像してしまう。

だからこそ光の英雄が人々を助け、全てが終われば輝ける未来が開けることになる。

裏を返せば、それまでは苦しい時代が続くということだ。

しかも【勇者】や【聖女】は、国が認定した者が『出立した』とだけしか発表がされないものだった。


「冒険者ギルドでは評判が真っ二つだ。田舎に帰って畑を耕すか、ここで名を上げるかだ」

「ガバナは、名を取るより実を取りそうだけど」

「あぁ。だから儀式に名乗りを上げて儲けたいな」

「どっちも取るのはガバナらしいよね。それで、何でここに来たの?」

「クインティも研究ばかりしてないで、表に出ないか? お前の魔法の腕が必要なんだよ」


「それって、本気で言ってる?」

「あぁ。戦闘において、力押しで全ていけるなんて思ってないさ」

「そうじゃなくて、僕を戦場に出すこと」

「大体、なんで研究室に一人しかいないんだよ。助手とか研究員とか、どの研究室でもチームでやるもんだろ?」

「う……」

「予算も縮小するらしいな。そろそろ実績か、大きなパトロンが必要なんじゃないか?」


 クインティの手が止まる。ガバナを見下ろしたが、やる気のなさそうな男は、挑発的な目で返してきた。

確かに魔術師協会では多くの依頼と、研究班による成果によって運営されている。

パトロンが一から十まで補助してくれる程、豊かではないのが実情だ。ただ、研究には時間もかかるし費用もかかる。

そんな時は冒険者達と一緒に、薬草取りから希少なモンスターを狩る事もあった。


「無駄死にはしたくないよ」

「勝算はあるぜ! 今回は【最後の祝福】付だ」

「それって、強力なスキルを得る可能性があるってこと?」

「俺達でも擬似勇者程度にはなれるさ。問題は、そこに選ばれるかどうかだな」


 一瞬考えたクインティは、実験道具を片付け始める。

ガバナに賭けてみると言ったクインティは、魔術師協会の所長に長期休暇を願い出ることにした。


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