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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
15/27

メルディ☆

 メルディによると【石】とは、力ある宝石類の総称らしい。

モンスターを倒した時に、稀にドロップする希少な宝石だったり、ダンジョンを攻略した際に最後に獲得出来るダンジョンコアだったり、その種類は様々なものだった。

宝石に魔力を流すと相性によって反応が起こり、スキルとして発現することがあるのだという。


「えーっと、私達にはもう関係ないから返そうか?」

「※※※※※※※※※※※(それは聖女さまの物です)」

「うーん、まこと。どうしたら良いと思う?」

「スキルが取得できるかどうか分からないけど、安全性の確認はしたいな」

「あれ? そう言えば柚さん。一個使えていましたよね?」


 残っている【石】は9個。特に使う予定もないので、残されても保管するしかないと思う。

これを売却しようにも価値は分からないし、もしスキルが得られるなら、メルディに使ってもらうのも手だ。

「帰還出来るスキルが、取得出来るかもしれないので」と聞くと、安全性の確認の為、試してみると言った。

あちらの世界では、魔道具というものがあるので、魔力を流すことは問題が……あった。


「※※※※、※※※※※※※※※※(聖女さま、魔力を感じられません)」

「そもそも、魔力って何?」

「これは難しい質問かな?」

「まこと君。魔力に定義ってあったっけ?」

「話の設定によって、色々な種類があるんですよね。魔素どうのこうのとか……」

「よく分からないけれど、さっきの横穴から出て来たんだから、そこで何か出来ないかな?」


 柚の提案に、再び四人で向かうことになった。

光がかろうじて届く範囲だったので、今度は佐々木さんが懐中電灯を持ってくる。

咄嗟に動けるように懐中電灯を預かり、何かあった時は佐々木さんがフォローする。

横穴のギリギリまで行くとメルディは、かろうじて魔力が感知出来ると言っていた。


「※※、※※※※※※(では、試してみます)」

「無理だけはしないでね」

「※※(はい)」


 明るい所では黒寄りの紫だった宝石が、その中心部に火が灯ったように発光し始める。

水を汲むお椀のように両手で包んでいた宝石が、ふわりと宙に浮き出し……パリンと割れた。


「失敗……かな?」

「いいえ、これ……で」

「あれ? メルディさん?」

「はい。あ、えっと。これでいいのです」


 メルディの口の動きと、発せられた言葉はチグハグなものだった。

良くは分からないけれど、どうやら柚と逆バージョンで、【異世界共通語】を取得出来たのだろうか?

意思の疎通が出来たので、会話がスムーズになったのは良かった……が。


「メルディさんは、ステータスとかスキルとか、確認する手段ってありますか?」

「いいえ、ありません。先ほど、聖女さまがおっしゃった、ステータスオープンも聞いた事はありませんでした」

「ねえ、その聖女さまっての止めてもらえる? 柚葉っていう名前なの。柚って略しても良いわ」

「はい、では柚さまとお呼びしても?」

「……聖女よりかはマシかな?」


 どうやら日本でも魔力スポットというか、壁一枚隔てればなんとかなるらしい。

明かりを持っているので、佐々木さんが一回だけ試したいようだ。

柚に袋ごと宝石を渡し、小さい【石】を一個手に取ってメルディを見た。

手に持っただけで変化が起きないのは、一般の地球人としてデフォルトだと思う。

そういう意味では、地球人最強と思われるクリ○ンは偉大だと思った。


「魔力を使うには、体内にある魔力を生み出す器官を、意識することが大切です」

「それって、どの辺にあるものですか?」

「そうですね、この辺りと言われています」


 メルディが軽く鳩尾みぞおち近くを押した時、【石】が自由落下していった。

割れると思った瞬間その【石】は、波紋を立てたかのように地面に吸い込まれていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ラルメールを背負ったデリアは、鬼神のように【試練の洞窟】を戻って行った。

いくら安全な場所にいようとも、メルディがいたのでは最初の扉が開くことはない。

ならば、ラルメールさまを預けた後、再度戻るしかないと思っていた。

帰り道は大きなトラブルもなく戻れたが、扉が開かれた瞬間、帰りを待っていた者達が雪崩れ込んできた。

従者の一人や二人は、この【試練の洞窟】を前にしたら、代わりの効くものだった。


 ラルメールを預けた後、軽く意識が飛んでしまう。

それは一秒にも満たなかったが、神殿関係者からドクターストップがかかってしまった。

それでも待ってくれているメルディを救おうと踵を返した時、首筋に意識を刈る一撃をもらってしまった。


「デリアさん、お目覚めですか?」

「フラウ司祭さま。ここは……メ、メルディは?」

「ラルメールさまは無事です。貴方はひどい傷でしたので、神殿から癒しの魔法を使用させて頂きました」

「私はどのくらい眠っていたのだ?」

「はい、丸一日……でしょうか?」


 丸一日なら、まだ間に合うはずだ。

神殿の儀式により扉を開いたとしても、メルディを救出するには時間がある。

問題は『扉が開くかどうか』だった。


「デリアさん。貴方達はこれから多くの命を救う身です」

「フラウ司祭、何が言いたい!」

「先に目覚めたラルメールさまには、メルディさんがいなかった事は報告済みです」

「……それで」

「勿論、ラルメールさまも同じ事を望みました。こちらもお願いがありましたので、それと引き換えに行いましたが」

「結論を言え」

「扉は再び開きました。この言葉の意味は、分かっていますよね?」


 【試練の洞窟】は贄を好む。

入る時は儀式によって開くことが出来る扉も、再び入る時は生者せいじゃが存在していれば絶対に開かない。

中にいるモンスターは【試練の洞窟】の意思によるものなので、生者には含まれないようだ。


「嘘だ!」

「嘘では御座いません」

「ならば、確認に行く」

「なりません。扉が開いている事を確認するぐらいは良いですが、貴方達はこの国の切り札のようなもの。無闇に捨てるような愚策は、私が許しません」

「貴女は、何の権利があって言うのだ?」

「それは、貴女達を祝福する技術を身につけたからですよ」


 フラウ司祭が出した『お願い』は、あの【洗礼の儀式】を受ける権利だった。

もともと神殿関係者ならば、【神聖魔法】を使える者もいる。その中でも、フラウは若いうちから頭角を現した秀才であった。誰もが『死にたくない』と願った為、司教に越権行為ながら一つのお願いをした。

これから死地に赴くラルメールさまとデリアへ、【最後の祝福】を贈りたいと……。


 勇者と聖女のパーティ全員にかける事が出来る為、祝福は【勇者/聖女 選定の儀】が終わった後になる。

万が一生き残ってしまった場合、組織の改変が予想されるけれど、使途として神殿を離れて人々を救う旅に出る事を約束している。

死ぬか世捨て人になるかだが、多くの人を救いたいという願いを叶えるならば、この選択も悪くないなと思っていた。


 フラウ司祭はデリアに手を貸し、再び案内をしたが扉は開け放たれたままだった。

メルディが死ぬには、まだ若すぎるだろう。そもそも、まだ魔族の王が攻めていないのに、死ぬ必要はなかったはずだ。

後ろからラルメールがやってくる。その顔は凛々しくも、涙の後はしっかり残っていた。


「デリア、気をしっかり持ちなさい!」

「はっ、ラルメールさま」

「メルディはきっと生きている。だから、私の心の一部をここに置いて行きます」

「ラルメールさま、何を……?」


 ラルメールは胸元から懐剣を取り出し、腰まで下がった長い金髪を無造作に一纏めに掴んだ。

バサリと肩口辺りで切られた髪の毛は、扉の中に投げ込まれる。【試練の洞窟】とは、一言で言えばダンジョンだ。

その仕様としてダンジョン内に残った異物は、ダンジョンに吸収されてしまう。

メルディを弔うのに一人では寂しいだろうと、ラルメールが残した精一杯の誠意だった。


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