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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
12/27

遭遇

「柚姉!」

「柚さん」


 トランス状態なのか、柚の足取りは少しふらつきながらも、まっすぐ防空壕の方へ向かっている。

佐々木さんが追っているので、とりあえず重箱に入ったお弁当を仕舞う。

荷物を車に入れると、柚と佐々木さんを追った。


 ふらふらとした足取りでは、速く歩くことはできない。それなのに佐々木さんは、柚を止めきれないでいた。

追いついたものの、肩を押さえていても引きずられる佐々木さんは、傍目で見たら滑稽な姿だと思う。

腕を取り押さえようとしても引きずられるとなると、止めずに一緒に行動した方が良い。


「佐々木さん、柚姉の向かう場所に一緒に行きましょう」

「まこと君、大丈夫なのかな? もし召喚されたら……」

「それは作り話です。大体、何度も召喚されるなんて話、見たことないですよ」

「それもそうだね。柚さん、本当にどうしたんだろう」


 佐々木さんと二人ですぐ後ろに並び、いつでも飛び出せる位置にいた。

二人がかりで止めても引きずられるなら、柚に負担をかけないほうがいい。

防空壕の前まで行くと一瞬止まり、何回かキョロキョロしてから一つの横穴に歩き出した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数分も歩けば、行き止まりになる防空壕。

突き当たりは、土の壁があるだけだった。


「柚さん、柚さん!」

「え……あれ? マネージャー。どうしたの?」

「柚姉、大丈夫? 柚姉がここに連れてきたんだよ」

「う……うん。誰かが呼んでいた……と思う」


 佐々木さんが、柚の状態を確認している。

少しだけポヤァとしているけれど、今は自分の意思で考えているように見えた。


「柚姉、ちなみにどっちから聞こえてきたの?」

「うん、その壁の向こう」


 土壁をペタペタと触ってみる。ひんやりとした土壁は、少し湿っているようにも感じるけれど、特別何かがある訳ではない。もちろん、押してみても変化はなかった。柚も触ろうとしているので、待ったをかけた。


「佐々木さん、念のため柚姉の腕を握っていてもらえますか?」

「え? あぁ分かった。はい、柚さん。これはまこと君からの指令ですからね」

「分かってるって。じゃあ、触ってみるよ」


 柚が右手で土壁をペタペタと触っても、特に変化は起きない。

振り返って「ほらぁ、大丈夫でしょ?」と言って、最後に土壁に触れた瞬間柚の体が淡く光り、壁をすり抜けるように向こう側から何かが倒れこんできた。佐々木さんは柚の手を離し、その何かをしっかり抱きかかえる。


「え……何?」

「とりあえず、表に出ましょう」

「まこと君、柚さんをお願い」

「はい。柚姉、出よう」


 柚の手を引き先に明るい場所に出る。体の発光は収まっているので、横穴にいては現状の把握が出来ない。

後からやってきた佐々木さんは、大きな袋をお腹に乗せたまま離さない、メイド風外人女性をお姫様抱っこしてきた。

地面が草で覆われている場所に下ろし、意識を失っているのか呼びかけていた。


「もしもし、大丈夫ですか?」

「ねえ、マネージャー。この娘怪我してない?」

「見た感じ顔が泥だらけで、……血の跡もありますね」

「応急セット積んでたよね? 後、ブランケットとか」

「取ってきます。まこと君は柚さんを見てて」

「ごめん、まこと。少し離れて後ろを向いてて。彼女の怪我を見てみるから」

「わかりました」


 女性の特徴と言えば、アッシュブロンドで肩まであるボブヘアー。北欧やロシア方面のような、美形の印象があった。

柚はメイド風の衣装を緩め、すそそでやスカートをめくって怪我を確認する。

意識を失ってはいるが、呼吸をしているのは確認してある。脈も問題ないようだけど、呼吸は苦しそうで脂汗があった。

戻ってきた佐々木さんは、タオルにミネラルウォーターをかけ、きつく絞って柚に渡した。

柚が確認したところ大きな傷はなさそうで、打ち身なのか体に痣があった。


「ねえ、大丈夫? 返事をして……」

「※……、※※※※(ん……、聖女さま)」

「痛い所はありませんか? 日本語は話せますか?」

「え? あ、うん」

「柚姉、どうしたの?」

「何でもない」


 柚が優しく顔をタオルで拭ってあげた。

すると、女性がゆっくり目を開いた。


「※※※※※※(ここはどこ?)」

「あなた、大丈夫なの?」

「※※※※※、※※※※※※※※※※(もしかして、聖女さまでしょうか?)」

「聖女って……私?」


「柚さん、言葉が分かるんですか?」

「柚姉、それってどこの言葉?」

「みんなで質問しないで! えーっと、ここは日本でいいのかな? ねえ日本って知っている?」

「※※※※※※(わかりません)」

「話が通じているみたいなんだけど、私が喋っているのは日本語……だよね」

「まこと君、これはやっぱり」

「異世界ものですか……」

「二人とも! こそこそしてないで、ちゃんと説明して!」


 ミネラルウォーターに、痛み止めの常備薬を女性に渡す。

よくよく見ると、擦り傷なんかもあったので、消毒液をつけて応急手当をした。

その間に柚の通訳で、この女性の素性を確認した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 女性の名前はメルディと言い、グランドール王国の王女付侍女をしていた。

この王国は現在、未曾有の危機に晒されていた。

それは魔族の王の誕生であり、世界の存亡は勇者・聖女の活躍にかかっていた。

そこで異世界より神の祝福を賜った、【勇者/聖女】を召喚しようという話になった。


 結果は失敗に終わった。聖女としてやってきた柚は、元の世界に戻ってしまったと王女は言っていた。

実際、柚の最後を見たのはメルディであり、この世界で柚に会えるとは思わなかった。

それもこれも、神のお導きだろうとメルディは言う。


「まこと君、テンプレな話だね」

「無事戻れて良かったですね。大抵、戻ってこれないですから」

「そこ、後で説明して貰うわよ」

「メルディさん、それで何であんな所にいたの?」


 柚の問いかけに、メルディは防空壕の方を見る。

言いかけた言葉を飲み込み、慌てた感じで柚に助けを求めた。


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