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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
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グラドルの接待

 その日は早めに収穫・出荷作業を終え、大人達はワクワクする子供のように、早めに仙道家に集まった。

一足先におばあちゃんと柚を迎えに行き、大量の食材とお酒を見せると今日の宴会の規模を思い浮かべる。

総勢20名近く集まるとなると、大皿の料理が並ぶことになるだろう。

四人で広いキッチンで料理の準備をし、煮込み系の料理はストーブまでフル活用する。

おばあちゃんは、「子供の仕事は勉強よ」と途中で退出を命じたので、お言葉に甘えて自室で勉強を始めた。


 五時くらいから始まった宴会は、かなり盛り上がっていた。

柚の活躍はこの村に住む人なら一度は聞いた事があり、そんな柚がお酌をしてくれるという。

女性が媚を売るとなると奥さま方が良い顔をしないだろうけど、そんな奥さま方には佐々木さんがお酌をする。

端っこにいる下戸&未成年組は、比較的平和な場所でご飯を食べていた。


「まこと君、今のうちに部屋に戻りなさい」

「おばあちゃんは大丈夫?」

「おじいさんが飲みすぎないように、きちんと見ていないとね」

「みんな、朝早いのに宴会好きだよね」


 どちらかと言うと高齢者に分類される参加者も、農家が多いせいか朝は早い。

村の娯楽施設のようになっている剣道場も、この村に住んでいる人なら一度は通ったことがある。

見知った顔もチラホラいるので、改めてこの村の高齢者の元気さは侮れない。

さずがに未成年に絡むようなことはしないので、おばあちゃんの合図で撤退をした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「欲しいものかぁ」


 昨日の佐々木さんの言葉を思い出す。

パソコン周りも新しくなって、ソフトも充実している。

アドバイザー料とは別に会社の経費で落ちるので、この辺は無制限に頼めるらしい。

将来は技術を生かした仕事に就きたいので、大学もそれを見据えた場所を狙っている。

普通の学生は進学するのに、一年間だけ受験勉強の為の勉強をするのに、ここでの生活なら平行して受験勉強も出来るので、過去問題とパソコン関係の専門書籍が多く溜まっていった。


「どうせなら、めるかとるさんに聞いてみるかな?」


 チャット系のソフトを立ち上げて、いつもの鍵付の部屋を探してみる。

すると、めるかとるさんが居たようだ。


M君『めるかとるさん、こんばんは』

メル『こんばんは、M君。この時間に来るなんて珍しいね』

M君『はい。ちょっと、リミアの件で相談がありまして』

メル『あぁ、そうだ。その前に早瀬鮎香さんのアバター出来たよ。これで良いか確認してね』

M君『はい、分かりました』


M君『デフォルメしても、かなり似てると思いますが』

メル『でしょ? もう、本を片っ端から読んで読んで読みまくって、たっぷりの愛情を込めたの!!!』

M君『めるかとるさんって、女性でしたよね…………。性別偽ってないですよね?』

メル『失礼な! 私はれっきとした女子高生だよ。それと、本当に振り込まれたんだけど……』

M君『あ、佐々木さんが宜しくって言っていました。それで、めるかとるさん。突然ですが欲しいものはないですか?』


 まことの質問にメルは悩みだす。会社からアドバイザーへの、手厚い報酬は約束されている。

ただ、未成年への高額報酬は身を持ち崩す可能性があるので、極力現物支給が望ましいようだ。

悩んでいる間も、何着が洋服の原案データが送られてきた。


メル『パソコン関係も、高額タブレットもばっちり。ソフトも申し分ない』

M君『そうなんですよね。正直もらい過ぎというか、それ以上に役立っているのか不安で』

メル『リミアはとっても良いソフトだよ。それだけで役割は果たせていると思う』

M君『めるかとるさん、ありがとう。そうなるとアバターに力を入れるしかないかな?』

メル『今は受注方式で、オリジナルアバターを作っているけど。服くらいは、もっとバリエーションが欲しいよね』

M君『そうなると洋服の展示会とか、ファッション雑誌関係ですか?』


 そんなことを打っていると、佐々木がやってきた。

軽く今までの流れを伝えると、某女性達が集まる洋服の祭典の招待券を、メルに送ってくれる事を約束した。

その場で早瀬鮎香も紹介してくれるようだ。その他にも洋服会社とのコラボ戦略まで考えてくれた。

デザイン関係はまったくの門外漢なので、佐々木さんが中心になって動いてくれるらしい。


 メルとの契約は別の人がやっていたけれど、今後は佐々木さんが直接行うそうだ。

名刺をスキャナーで取り込み、デジカメで撮った佐々木さんの画像を送る。

すると、少ししてメルの画像が送られてきた。初めて見るメルは、正真正銘の女子高生のようだった。


「まこと君は結構付き合い長そうなのに、初めて見るんだ」

「ネットではよくある事です。『この世界には、男とネカマしかいない!』って断言する人もいるくらいですから」

「それで、要求されているみたいだけど、まこと君の画像は送らないの?」

「信頼はしているんですが……。ネットの怖いところは……」

「まこと君には、リミアがあるから大丈夫じゃない?」

「よっし、『ここだけの秘密』って事で送ります! 別に会う訳じゃないし、多分大丈夫でしょう」


 その場で撮った写真をメルに送った。

帰ってきた言葉は「ありがとう」と、素っ気無いものだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 農家の朝は早い。

祖父母は、今日も三人が手伝える収穫作業を選んでくれたようだ。


「柚ちゃん、疲れてなーい?」

「大丈夫だよ、おばあちゃん」

「昨日はすまんなぁ。みんな、宴会が好きすぎてな」

「そう言うおじいさんが、一番好きじゃなんでしょ」


 おばあちゃんの指摘に、おじいちゃんは何とも言えない笑みを零していた。

それでも手を止めないのは、熟練の二人には当然のことだった。

緩やかに見える動作も、十代が本気を出しても敵う事はない。

柚と佐々木の収穫は、遊びと言われてもおかしくない量だった。


「柚ちゃんは、何時までいられるの?」

「今日泊まったら、明日あたりには戻ろうかな」

「会社からは、一週間くらいは休みをもらっていますが……」

「じゃあ、もうちょっと泊まっていかない? おじいさんも喜ぶし」

「それはお前もだろ?」


 やっぱり柚は、どこに行っても人気者らしい。

決まった仕事が入っていないので、佐々木は苦笑していた。

こちらに近付いてきて、休み中にやりたい事を言ってきた。


 一つは『あの時の先輩』が関わっている、アパレル関係への挨拶。

先輩は一部のプロデュースに関わっているらしく、柚の売り込みに行きたいらしい。

もう一つはメルに会いたいようだ。リミアは柚にとっても武器になるので、メルにも力になって欲しいそうだ。

佐々木さんに「一緒に行く?」と聞かれたけれど、大学生になるまでは大人しくしようと思っている。


 今日は早めに収穫を終えて佐々木さんと柚と一緒に、どこか景色が良い所に行こうと言われている。

祖父母は畑仕事があるので、俺が案内することにした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ここって、田舎ですから何もないですよ」

「うん、ここなら特定は難しいかな」

「マネージャー。特定も何も、これじゃあ良い画像は取れないよ」

「そこは、ほら。柚さんの今日のファッションとか……」


 ここは山の近くにある、防空壕のような横穴がある場所だった。

さすがに観光地でもないし、寺社仏閣は許可が必要になってくる。

朝早くからお弁当を作ってもらったので、今日はここでお昼をとる予定だった。

佐々木さんがぐるっと良さそうな場所を探してみたが、広場があるくらいだったので、柚のファッションかおばあちゃんの手料理というブログがアップされそうな予感だった。


「やっぱり、少しブログをお休みしましょうか」

「うーん。こういうのは、日々の積み重ねなんだよ。料理ばかりアップしても、読者はついてきてくれないよ」

「柚姉、少しは休まないと」

「じゃあ、今日はおばあちゃんに助けて貰う事にする。お昼にしま……」

「どうしました? 柚さん」

「誰か呼んでる……」


 突然、防空壕の方を見つめる柚。

幽鬼のようにぼんやりした感じを見せた柚は、静かに歩き出していた。


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